第4話 無いなら作ればいい

 王国の城下町は、貧富の差が激しかった。富を掴んだ者は国王のいる町の中央近くに住み、食べ物にも不自由無い生活を送っている。しかし、町の外れに向かうにつれて、住民の暮らしは徐々に悪くなり、治安も良くは無かった。


「私達の世界で言えば、江戸時代とかそれよりも古いような感じ?」


 そしてこの世界で水は、井戸か川でしか得る事ができない貴重な存在だった。川は町を出て少し歩いたところにあった。勿論、私達の知らない生き物も存在している。


火球Fire Ball!!』


 野球ボールほどの火の玉が飛び、人の拳くらいはあるだろう『名前も知らない虫』に命中する。


「はぁ…。イサミン。毎度助かるわぁ…」

「先輩…。口だけじゃなくて、手も動かさないと…」


 私達は今、川の畔に落ちている石を拾っては、試行錯誤の作業に没頭していた。『石包丁』や『石斧』と言った原始的な武器は、石同士をぶつけて壊し、鋭利な部分を作っていくだけの作業でしたが、それすらやったことが無い私達には難しい事でした。

 平和な日本なら、堤防の上からを見たら笑われるだろう。しかし私達は必至だった。


「ねぇ…モンスターから直接お金は出ないの?」

「それは想定済みでしょう?先輩。リアル異世界生活なんですから、ゲームのような事にはなりませんよ」


 川の流れる音と石同士がぶつかる音だけ、どれほどの時間流れていただろうか。私達は、ようやく石包丁を1本作る事ができた。二人で作業してたった1本だ。


「やっとこ1本かぁ…ん~でもこれで『何かを作る』事は、スキルが無くてもできると証明されたわけだし、一歩前進ですね先輩。」

「イサミンは前向きでいいね~。私なんて一日中~石叩いて手がマメだらけよ」


 先輩は痛む手を見ながら言う。そして先輩の前では毅然とした態度でいる私でも、心配な事はひとつ。それは今晩の宿である。1泊は銅貨1枚。食事付なら2枚。手持ちは銅貨5枚。これを解決しない事には始まらない。


「そういえば私、レベルが上がってるんだった。先輩も上がってるんじゃない?」

「そうね。イサミンのおかげでこっちもレベルが上がって、スキルポイントにまた振れるようになったよ」


 互いに上がったのは3。PTを設定していたので、私が細々と虫退治しているうちにレベルが上がったようです。


「イサミンは知力INTの他に何を育てているの?」

「ん~本当は筋力STRを上げたかったんだけど、このステータスの振り分けを見る限り、知力INTとの相性が悪いみたいなのよねぇ…」


 ステータスは6種類。筋力STR知力INT瞬発力AGI体力VIT命中力DEX信仰力REG。それぞれを全て上げても良いのだが、相反あいはんするステータスを上げるにはリスクが生じてくる。STRはINT、AGIはVIT、DEXはREGに相対そうたいしている。つまりは、下手に割り振ると中途半端なキャラクターの完成って事になる。ゲームではそこが命取りだった。


 この作業の前、私達が町の人間にいろいろ聞いて回ったところによると、このステータスとスキルをの固有スキルと判明。その効果は自分のステータスやスキルを見るだけではなく、自分より弱いか同等くらいのレベルを持つ相手も見る事ができた。


「いいよ。筋力STRの無い勇者がいたって良いと思う。私なんて『翻訳者』って何上げればいいの?」


 工藤先輩のステータスは、未だにALL1のままでした。一方の私はINTを中心に魔法特化のステータスに割り振っているが、ステータスポイントがやけに多い気がする。これも召喚者としての特権なのだろうか。それとも私が勇者だからだろうか。


「先輩、攻撃特化に振ってみたら、『CLASS』に変化出るんじゃないですか?かなりポイント残っているみたいですし…。」

「ん~リアル剣道部経験のあるイサミンと違って、私はこれといった部活してこなかったからなぁ…。ステータスの変化だけでを戦えるのか心配なんですよ?」


 先輩の言う通りで、私は以前の世界で剣道2段を取得している。その経験があるからこそ、冷静な判断で敵を倒す事が出来た。これを言ったら剣道の師範に怒られそうだけど、木の棒さえあれば敵と戦えると思っていたのです。しかし、先輩は普通のOL。剣道も柔道も合気道だって分からない。

 ゲームとは違い、リアル異世界なら死亡=即復帰ができない可能性は充分考えられる。だから、リアルで戦闘経験の無い先輩は悩んでいるのだろう。すると、先輩が急に立ち上がり、私の事を指差した。


「イサミン。私は勇者を守る盾になりた…。」

「先輩…。それ、ネトゲ時代の立ち回りと同じじゃないですか…」


「即答だなぁ…。いやだってしか思いつかなかったんだもん」


 確かにネトゲ時代の私達は、私が魔法アタッカー(攻撃役)で、先輩がタンカー(防御前衛)でした。ただ、ゲームではないこの世界で、防具無しのタンカーがいかに危険な事か、それは初心者でも想像ができると思う。


「ん~であれば、盾を作りましょう。」


 盾と言ったものの、素材をどう加工すれば良いのか。現状ではそれが問題でした。作る事は可能だと認識できたので、次に必要なのは道具だと感じた私達は、一度町に戻る事にした。


「そういえば、ゲームだと冒険者組合ギルドとか血盟クランとかあったけど、この世界にもあるんじゃない?」

「はっ…。そうですよ先輩。私達、ゲームで一番重要な初心者講座チュートリアルを忘れてました。」


 新キャラを作ってもチュートリアルをすっ飛ばしてすぐに狩場に出てしまう行為は、ネトゲ上級者に良くある事です。あまりの事に一番肝心な事を忘れていた私達は、冒険者組合ギルドを探して町を徘徊する事になりました。

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