第3話 お金が無い!ならば!!
「先輩!私に考えがあります」
「なになに?」
私の言葉に先輩がすぐ食いついて来ました。私は自分が現時点で思いつく限りを話しました。
「手持ちのお金も武器も無い状態を、無人島に流れ着いた状況だと置き換えて考えるのです。」
「なるほど…で、まずは何をすれば良い?」
―――まずスキルについて。先輩が見えているものと、私が見えているものに違いが無いかを確認しました。すると、お互いに覚える事ができないスキルがいくつか存在していると分かりました。
次に制限を確認する。仮にこの世界がゲームの世界で、誰かがこの世界を仕切っているなら、スキルの有無によって行動自体に制限がかかるはずと考えたのです。
―――結論から言えば、制限はほぼ無いと言えた。つまり、技術は未熟でも行動自体に制限がかかる事は無かった。
「つまり、私達が召喚前の世界でできる範囲の事を、こちらでも応用できると言う事ね」
「その通りです先輩。武器や防具が高くて買えないのなら、簡単な物から作って行けば良いかと思います」
すると工藤先輩は、自分のステータスを見ながら何かに気付いた。
「ねぇイサミン。この『CLASS』と言うのは『職業』って事だよね」
「はい…。」
「私の『CLASS』…。『translator』ってなってるんだけど…"通訳"ってこと?」
「…確かに…、英語の直訳でそうなります…よね。あ…多分、ここに来ていきなり『言語翻訳』をLv10までカンストさせたからではないでしょうか」
この世界の職業は、スキルによる依存が大きいのではないだろうか?と私は考えました。しかし、私のステータス欄に記載されている『CLASS』には、「H ERO」としか読めない。この微妙な間はなんだろうか。
「先輩…私のステータスを翻訳してもらえますか?」
「ん~?どれどれ?H…ERO?勇者…?いや…これは…」
先輩の目がキラリと光ったような気がする。こんな目をするときは決まって、私に対して何か
「エロの伝道師って事か!」
「絶対違います!…多分」
私自身、確証は持てなかった。では何故HとEROの間に隙間があるのか。私は自分の姿を見える範囲で確認してみる。
「無い…。」
「ん?どうした?イサミン?」
私の一言に、工藤先輩はすぐ反応してジロジロと見回してくる。しかし、今の現状を知られてはならないと思った。それは…召喚前、朝起きる時間が遅れてしまい、急いで出社しようとするあまり、私はブラジャーを着けずに来てしまっている事を、こんな状況で思い出してしまったのです。
私はまだ、自分のスキルポイントを使っていない。スキルが無いから当然のように、『無職』と同じ扱いになると思っていたけど、容姿だけでも職業に反映されてしまうのだろうか。
「な…なんでもない…です先輩。それより、スキル一覧についてですけど、完全翻訳の先輩なら、スキルの効果も見られるんですか?」
私は、なんとか先輩の意識を逸らしたくて、別の話題を振ってみた。先輩は思惑通りにスキル欄をジッと見始めた。
「ん~意味のある説明もあれば、意味不明の説明もあるねぇ…」
先輩が確認した結果、火や水といった『属性』のついたスキルについては、ありきたりの説明が付いているそうです。しかし、全てのスキルが見えているわけではなく、スキル名から説明までがまるで、文字化けしたような状態のスキルも多いとの事。
「ん~昔から『勇者』って職業に憧れていたけど、どのスキルを取得すればちゃんとした『勇者』になれるのか、全く見当がつかない…少なくとも、「H」と「ERO」で分かれた状態を『勇者』と呼べるわけがないし…」
「いっその事、イサミンも適当にポチッちゃいなよ」
工藤先輩…。あなたもオンラインゲーム内では相当なレベルだったはずですけどね。と、私は思いました。こんな底辺の状況で、下手にスキルポイントを消費して変な物が出ても困りもの。私は自分がわかる範囲でスキルを使う事にしました。
「んじゃ私はこの『
「アトリビュート?何それw」
先輩…。英語分からないんですね。召喚前の世界では、TOEICの成績も上位に入るくらい英語が得意だった事もあり、あれだけ大量に存在するスキル一覧の中から、下手に魔法や特技の名前を登録するよりも、この選び方をすれば何か付加価値が出るのではと考えたのです。
ポポポーン。すると早速、私の耳元で何か効果音的なものが聞こえてくる。
「ん?」
「?。どうしたの?イサミン?」
私はステータスを確認すると、空白だった右側の欄に、現在使用できるスキルが表示されてくる。が、これもまた現地語だった。想定内とはいえ、翻訳スキルを取らなかった今、そこは妥協せざるを得ない。
「あ、先輩。使用可能スキルが増えたみたいです。けど文字は…相変わらず現地語みたいなので、過信はしないでくださいね」
「ま…まぁ私なんて、『
先輩…。実はそのスキルは凄い事だと思います。何故なら、この世界が私達の認識しているゲームのような異世界ならば、獣人やエルフと言った特有の種族がいるはず。少なくとも『魔族』まで存在しているのなら、それだけ言語が違ってもおかしくはない。
「先輩…。やっぱり私、先輩の部下で良かったです。そのスキルがあれば、どんな種族でも話ができる。コミュニケーション能力を最大に生かすことができますよ」
「そんな、イサミンの適応力には敵わないけどなぁ」
私はこの時はまだ気が付いていなかった。自分が取得したスキルによって、私の『CLASS』に変動が起きている事に…。
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