第24話

第二十四話



  私とラミアが森の中の屋敷を旅立った後のお話……


 アデレーナは迎えに騎士と共に遠退いていく私とラミアの姿を見送りながら

 "あ~あ~行っちゃった…あの女(ラミア)……変なことしなければいいんだけど……"

心の中で私の貞操の心配をするのであった


 "さてと……もうすぐお昼だし……今のうちにお布団でも干しとこうかな……"

そんな事を考えながら玄関のドアを閉めると居間に向かって歩き出す


 居間に入るとセレスティナがもう昼食の用意を初めている


 「あら、もう昼食の支度ですか……随分と早いですね」

セレスティナに話しかける


 「あっ、アデレーナさん……エレーヌさんとラミアさんはもう行かれましたか」

セレスティナは少し振り向くと昼食の用意をしながら聞いてくる


 「もう、行っちゃいました……」

 「トメルリ街道まで最低四日間……往復で八日間ですね……」

私はため息混じりに言う


 「やっばり……エレーヌさんがいないと寂しいですか……」

私を気遣うようにセレスティナがこちらを見る


 「……少し寂しいというより……心配ですかね……」

 「エレーヌさんがあの女(ラミア)と二人きりと言うのが……」

私はボソッとつぶやくように言う


 「あの女って……ラミアさんの事ですか……」

セレスティナは興味深そうに聞いてくる

 「……あの……エレーヌさんとラミアさんって……その……」

 「そういう仲なんでしょうか……それに……あの……」

 「アデレーナさんとは……どんな関係なんですか……」

セレスティナは気になるようで聞いてくる


 「えっ! ……その……あの……それは……」

私は答えに困っていると


 「言い難いんですけど……昨日の夜に……その……」

 「エレーヌさんの……その……あえぎ声が聞こえてきまして……」

セレスティナは顔を赤くして言う


 「ええっ!喘ぎ声って……」

私はびっくりした後で顔が火照っていくのが分かる

 「きっ聞えたんですか……その……声が……」

私は下を向いて小さな声で言う

 「……はい……石造りの立派な建物なので普通は聞こえないと思います」

 「……ですが、私とカリナは忍びなので耳は普通の人よりはいいんです」

 「私は諜報の活動の関係で特殊訓練を受けているので更にいいんです」

 「ですから……その……完全に丸聞こえでした……」

言い難そうにしながらも更に話を続ける

 「知らないフリして何も言わなくてもよかったのですが……」

 「なんだか、盗み聞きしているようで嫌なものなので……」

 「それに、アデレーナさんは人の心が読めるとカリナから聞いていますので……」

そう言うとすまなさそうにする


 「まっ!まっ!丸聞こえなんですかっ!!」

私は頭から脳味噌が溶岩のように噴き出しそうだ

 "確か、あの女(ラミア)が封印魔法を施したから大丈夫なはずなのに……"

 "まさか、あの女っ!手を抜いたんじゃ……"

ラミアを疑うが……

 

 実際はラミアが気絶した時点で暫定的な封印魔法はその効力が切れているのだった

 気絶するまでラミアを痛ぶりぬいたので恥ずかしいツケを払わされることになったのだった

 もっとも、それにはラミアに自分とエレーヌの服従契約を承認させるという訳がっあのだが……

(ラミアは気絶する直前まで承認しなかった、どちらかと言えば拷問で屈服せたと言った方が正確……)


 この頃にはアデレーナも自分の能力を上手く制御できるようになっていて必要がない限り人の心を読んだりはしなくなっていたのだったが……

 他に何もないのか不安にられて悪い事だと思いながらもセレスティナの心を読んでしまう


 セレスティナの心の声がアデレーナの頭の中に流れ込んでくる

 "……にしても意外でした……エレーヌさんが受けだなんて……"

 "私はてっきりアデレーナさんが受けでエレーヌ責めだと思っていました"

 "それにしても、エレーヌさんのあの喘ぎ方って……アデレーナさん清純そうなのにあっちの方は凄いんですね……"

 "本当に人は見かけで判断しちゃいけないんですね……"

 "もしかしてっ!……ラミアさんも一緒になって三人で……"

 "ちょっと、興味あるかも……私もエレーヌさんとだったら……いいかも……"

セレスティナの妄想が凄まじい勢いで私の頭に響いてくる


 「……あの……セレスティナさん……心の声がダダ洩れですよ」

私が何食わぬ顔をしているセレスティナに言う


 「えっ! なっなっ何ら事ですか……」

セレスティナはカリナからアデレーナの特殊能力の事を聞いて知っているので焦りの表情が滲み出る


 「もしかして……セレスティナさんって、エレーヌさんみたいなのがタイプなの……」

私はセレスティナに問いかける


 「いえっ!そんな事ないですよ、嫌いではないですけど」←建前の言葉

  "タイプですっ! 理想のタイプっ!! 大好きですっ!!!"   ←本音の心の叫び

セレスティナは目線を逸らす


 「エレーヌさんとエッチなことしたい?」

私が目を細めて核心に迫る


 「そっそんな事ないです…… 私にはカリナがいますから……」←建前の言葉

 "そんなのっ!!! したいに決まってるじゃないですかっ!!! "  ←本音の心の叫び

アデレーナの頭の中にセレスティナの欲望の声が次々と入ってくる……


セレスティナはガタガタ震えながら額に汗を滲ませている


 「セレスティナさんっ!💛」

私はニッコリとセレスティナに微笑みかけた


 「は……はいっっっ!……エヘッ💛」

セレスティナもニッコリと微笑むが頬は引きっている


 次の瞬間、無数の"冥府の手"がセレスティナに襲いかかった

  

 「ごめんなさいっ!!! 妄想しているだけですっ!!!」

 「本当にしたりしませんっ!!!」

必死て弁解するが"冥府の手"はセレスティナを既に捕らえていた

 「ひぃっ!」

セレスティナは悲鳴を上げる間もなく口を"冥府の手"に塞がれた

 「ふごっ! ふにっ! んっんっっ……ふぐっ!」

セレスティナは必死になってもがいている


 「安心してっ! 何もしないわよ」

私がそう言うとセレスティナは落ち着きを取り戻した


 「はぁはぁ! びっくりした……」

 「このまま悶絶死させられるのかと思いましたよ」

セレスティナは青ざめた顔をしている


 「セレスティナさんって私の事を何だと思ってるんですか……」

私は目を細めてセレスティナを見る


 「別にとりたてて変には思ってませんけど……」  ←上辺の建前

 "そんなの当然、"特殊性癖の変態"って思ってますよ"←心からの本音

セレスティナは平静を装いながらも目元は引き攣っている


 「セレスティナさん……」

私はこっこりと微笑んだ


 「はっ……はいっっっ!」

セレスティナの額に冷汗が滲む……その瞬間に無数の"冥府の手"がセレスティナに襲いかかった


 "冥府の手"はセレスティナの口を塞ぐと体中をくすぐ

「ふぐっ! んぐぐっ!! はぐっ! んっんっっ!!!」

体を捩じらせ悶え苦しむセレスティナの心の声が聞こえてくる

 "あっ! いいっ!! コレなんかいいかもっ!!!"

 

何だかセレスティナの凄く気持ちよさ気な声が聞こえてくる……その時、私は悟った……セレスティナ……"こいつは私と同類だと"……


 暫くして、椅子にぐったりとしているセレスティナに私はやさしく

声をかけた

 「セレスティナさん……あなたも"ドМ変態さん"なのね……」

その言葉にピクッっ反応したセレスティナの心の声が私に響く


 "アデレーナさん……あなたには到底敵とうていかないませんよ……"

嘘偽りのないセレスティナの心の声であった……更にセレスティナの心の声が聞こえてくる


 "私達……ダルキア帝国のくノ一に男は御法度……正常な恋愛なんて望めません"

 "それに、友愛の精神を重んじるダルキア帝国の精神は恋愛に性別を問いません"

 "私達、くノ一はその殆どが一生涯独身が普通……明日も知れないこの身、厳しい職務の心の支えを同じく苦を共にするノ一の同性に求めるのは必然です……"

 "そうでもしないと、心が折れてしまう……救われない……"

セレスティナの悲痛な心の叫びが聞こえてくる


 「私もあなたと同じような修道院という男子禁制の特殊な環境で育ったのよ……だからあなたの事は理解出来る……」

 「ところで、セレスティナさん……カリナさんは何人目なの……」

私の質問にセレスティナの体がビクッと反応すると、ゆっくりと顔を上げで涙目で私を見る


 「お願いです……その事はカリナには内緒にしてください……」

私には何となく分かった……セレスティナにとってカリナは最後の女なのだと……


 「言わないわよ……そんな事……そこまで下衆じゃないわよ……」

私は小声で呟くとセレスティナの肩に手をおいた……

 「勿論っ! 無料じゃないけどね……」

と優しく微笑んだ……みるみるセレスティナの顔から血の気が引いて行くと小さくコクッと頷いた


 "私はセレスティナを下僕にした……"

「ちょっと待ってよっ! セレスティナさんっ!! 変なコメントいれないでよねっ!!!」

 私はセレスティナに向って不機嫌そうに言った



 そうしていると、今にカリナとサリタが二人で入ってくる

この二人何かと気が合うらしく近頃はよく二人でいる事が多い……多分セレスティナにとっては気懸きがかりな事だというのを私は知っている


 少し罪悪感はあるが私は二人の心を読む為に話しかける

 「あら、二人で何してたの」

私はセレスティナが気にしていそうな事を二人に聞く


 「トレーニングルームでトレーニングですよ」

 「これから、温泉で汗流してきます」

サリタがそう言うとカリナも頷く……それを見て私は更に二人に話かける


 「ラミアのサウナルームも使ってくれてもいいのよ」

 「使い方が分からないなら教えてあげるから」

そう私が言うと

 

 「本当ですか、いつでもいいので教えてください……」

 「そういえば、エレーヌさんとラミアさんは今頃どうしているでしょうね」

私を見ながらカリナが聞いてくる


 「トメルリ街道まで約四日かかりますからね、馬車の中で退屈してるでしょうね」

私がそう答える……実際、その通りだった


 「それじゃ、温泉に行ってくるね」

カリナがセレスティナに言うとサリタと一緒に居間を出て行った

 

 居間の外から二人の会話が耳に入ってくる……

 "カリナさん、お背中お流ししますよ"

 "ありがとう、じゃ私もサリタさんの背中流すよ"

そんな、二人のにセレスティナの心の動揺が私に伝わってくる


 居間は再び私はセレスティナと二人だけになった


 「セレスティナさん、カリナさんとサリタは師弟関係ですね」

 「セレスティナさんが心配しているような事は全くありませんよ」

 「あの二人はどちらかと言うとラミアさんの方が気になるようですね」

セレスティナの方を見て私が言うとそれを聞いてセレスティナの顔が"やっぱり"という表情になる


 「そうなんですか……ラミアさんの方ですか……やっぱりね……カリナの奴……」

 「カリナは清楚で清純なのがタイプなんです……そして、大の巨乳好き筋金入りのオッパイ星人す!!」

 「ですから、エレーヌさんは論外ですね……」

 「タイプで言えばアデレーナさんもそうなんですが……その……」

言い難そうに私を見るが心の声はダダ洩れだった


 「ええそうですよっ! どうせ私は特殊性癖の変態さんですよっ!」

 「それに関しては、あの女(ラミア)も私と大差ないと思うのですが……」

そう言うとセレスティナは顔を引き攣らせながら愛想笑いを浮かべた


 「何なの…その笑いは……セレスティナさん……」

私はセレスティナをジッと見る


 「いいえ! いいえ!! 何でもありませんっ!!!」

必死に言い訳するがまたしても心の声はダダ洩れだった


 「そうなんですか! 私ってそんな風に見えますか……」

 「美人でスタイル良いのにドSの危ない残念なお姉さんですかっ!!!」

私はセレスティナに詰め寄る


 「お願いですっ! もう勘弁してくださいっ!!」

泣きながら慈悲を乞うセレスティナに私はそれ以上は心を読まなかった……


 というよりは、これ以上は自分の心が折れそうだったからだった

 ……そう、これでもアデレーナは幼い頃より周りから"聖女"として長らくあがめられてきたのだ、今やそれがただの"特殊性癖のドSの危ない残念なお姉さん"なのだ

 これは、アデレーナの心に相当なダメージを与えたのだった……



 傷心のアデレーナは居間を後にする……重いその足は無意識に礼拝堂に向いていた

 アデレーナは礼拝堂の重い扉を開くと中に誰かがいる


 「あら……アデレーナさん……」

礼拝堂ではビアンカが一人祈りを捧げていた


 「お祈りですか……お一人で……」

私はビアンカに問いかける


 「はい……こうして毎日、戦いで命を落とした者達の冥福をお祈り申し上げております」

 「私にはそれぐらいしかできませんので……」

そう言うとビアンカは再び祈りを捧げ始める……その横に私もひざまづいて祈りをささげる


 ビアンカのけがれの無い祈りと思いが伝わってくる……しばらくの沈黙と静寂の時間が礼拝堂に流れた


 この礼拝堂はピレウス神を祀る礼拝堂なのでビアンカがピレウス……つまりエレーヌやラミアの事を祀っているのである

 「ビアンカさん……エレーヌさんやラミアさんの事はどう思われていますか?」

 そう質問すると私は、ビアンカの心に問いかける


 「そうですね……お二人ともご立派な方だとお慕い申し上げております」

 「とくにエレーヌ様におかれましてま我が民を快く受け入れて下さり感謝しております」

 「終生、この身と命を捧げお仕えしたいと思っております」

ビアンカのその言葉に邪念や嘘偽りは微塵も無かった……少し微笑んだビアンカの背後に黄金色の後光がさして見えた

 "うっ! まっ眩しいっ"思わず心の中で叫んでしまった


 「そろそろ、お昼ですね……居間に行きましょうか」

 「今日は、セレスティナさんが故郷の料理を作るといって張りきっていおりましたので……」

 「少し楽しみです……」

そうビアンカが言うと私の手を取り歩き出す……私はそのままビアンカについていった



 

 そんな頃、トメルリ街道へ向かう馬車の中で二人のピレウス神は退屈な時間を持て余していた……


 「あ゛っ~! た・い・く・つ!!!」

ラミアは死にそうな声でボヤいている


 「仕方がないよ……なにせ馬車なんだから……」

 「私達だけなら転移魔法であっという間だけど……そうもいかないし……」

私はそう言うと話題を替えた……

 「あの……ラミア……今度、"聖・封印の女神"教会へ行ってみたいんだけど……」

 「一緒に来てくれないかな……」

私はラミアにお願いすると


 「い・やっ!!! 絶対に嫌っ!!!」

ラミアはすごく不機嫌になる

 「なんで、私があの女(アデレーナ)とアンタの契約に付き合わないといけないのよっ!!!」

 「エレーヌって、結構……残酷なんだね……」

ラミアは不貞腐ふてくれたように言う


 「違うよ……アデレーナの事を調べたいんだよ」

 「恐らくアデレーナは"聖・封印の女神"教会の何処かに封印されていたはず」

 「そこに"契約の石板"があるとすれば……多分……」

私が言葉を濁すと不貞腐れていたラミアの顔も真剣な表情になる


 「そういう事か……あの女(アデレーナ)も一緒に連れていくつもりなの」

ラミアは少し戸惑ったように言う


 「今回は一緒には行かない……私とラミアの二人だけ」

 「この用事が終わったら、森の屋敷に帰る前に行くつもりだよ」

 「勿論、この事はアデレーナには内緒……」

私がそう言うとラミアは納得し一緒に"聖・封印の女神"教会に行ってくれる事になった



 私とラミアが馬車の中でアデレーナの話をしている頃、アデレーナは居間でみんなと一緒に昼食を取っていた


 「これっ! 美味しいですねっ!!」

 「なんて言う料理なんですか」

サリタがテーブルの真ん中に置かれた特大の大皿に盛りつけられた料理を頬張ほおばりながらセレスティナの方を見て言う

 

 「"パエリア"って言います……私の故郷ではお祭りとかでよく出される料理です」

 「お米と具材を海鮮スープで煮込んだ物ですよ」

 「私も久しぶりに食べたくて作ったんです」

そう言うと小皿に取り分けていく

 「それに……その……カリナの好物なんです……」

取り分けた小皿をカリナに手渡すとカリナもとても嬉しそうにしている


 「本当に久しぶりだね……パエリア……」

 「私の故郷は海から遠いダルキア帝国の北方の内陸部なので海鮮料理は贅沢なんです」

 「替わりに山の幸は豊富なので山菜料理はいいのがありますよ」

そう言うと美味しそうにパエリアを頬張っている


 「でも……カリナは料理の方は全然ダメですけど……」

冷酷なセレスティナの突っ込みにカリナの手が止まる


 「酷いな……なら今度、"山菜おこわ"作るよっ」

カリナが自信たっぷりに言うと、今度はセレスティナの手が止まった


 「忍びの私はある程度の毒には耐性がありますが、他の方々にはありません」

 「そんな私でも激烈な下痢と腹痛でのた打ち回るほどなんですよ……」

 「トイレを増設しておいた方がいいですよ……でないと……」

そう言うと私(アデレーナ)とビアンカの方に目を向ける……セレスティナの言葉に嘘偽りは無い事を私は一瞬で読み解いた


 「あの~……セレスティナさん……食事中にそのようなお話は……」

私はセレスティナに視線を向けるとセレスティナは軽く相槌をを打つように頷いた


 「そうですね……」

そう言うと話題を替える

 「私は、今度はノーワ帝国の家庭料理を食べてみたいですね」

セレスティナが私を見て話す……上手く話題を逸らせた……

 "あ~助かった……"カリナの心からの安堵の言葉が心に響いてくる

破滅的にカリナの料理は酷いらしいことが伺えた……が……しかし……

 「アデレーナさん、今度、作っていただけますか」

セレスティナがニッコリと笑いながら私を見て言う


 「はい……今度……」

と口では快く承諾したが、心の中では"ヤバいっ! どうしようっ!!"と心の中で叫んでいた…今更だが私は料理など全く出来ないのだ


 私はニッコリとセレスティナの方を見て笑ったが、セレスティナは顔を恐怖に引き攣らせていた……森の屋敷ではそんな、平穏な日々が流れていくのであった


 当然、(私)アデレーナがまともな料理など出来ない事には皆が感付いている事を知るのに大した時間を必要とはしなかった……

 だが、その事は更に私の心を深く傷つけるのであった……


 

 第二十四話 ~ 終わり ~

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