第23話

 第二十三話



 私達三人が馬鹿な事をしている頃、聖城ではテオドラと宰相のカイロス、大将軍のユーラスの三人がダルキア帝国皇帝バルドゥイノからの届いたばかりの親書を円卓の真ん中に置いたままで考え込み沈黙していた


 普通ならばダルキア帝国にとってビアンカ王女の引き渡しは絶対条件であり最重要課題であろう言う事を前提として有利に事を運ばせようとするよう練られていたノーワ帝国側の交渉戦略は根底から崩れることとなったからだ


 「ビアンカ王女の引き渡しの代わりに"衝立の女神"と"ピレウスの聖女"の同席を希望するとは……」

宰相のカイロスが重苦しい沈黙を破る


 「しかし、"ピレウスの聖女"とはいったい何者なのか……」

大将軍のユーラスが疑問を投げかける


 「それには、心当たりがあります」

テオドラが答えると話を続ける

 「アデレーナからそれらしき者の報告を受けております」

テオドラもまたラミアを"ピレウスの聖女"と思い込んでいたのである

結局、ノーワ帝国もダルキア帝国も双方の思い違いが事を順調に運ばせることとなったのである


 「では……ダルキア帝国の要望通り"衝立の女神"と"ピレウスの聖女"を同席させることと致しますが……異論はありませんか?」

テオドラがカイロスとユーラスに了承を得ると二人はうなずいた……二人が了承したことを確認すると話を続ける


 「次に、交渉に出席する者を決めなければなりません」

 「お二人にお願いしたいのですが如何いかがでしょうか?」

 「ダルキア帝国側からは、"帝国軍総長のカリスト・コルデーロ及び司令官ブラウリオ・アギレラが同席する"とあります」

 「私は貴方あなたがたお二人が適任だと思います」

テオドラが二人を見てそう言うと二人も同意するかのように頷いた


 「交渉に随伴させる兵力もダルキア帝国と歩調を合わせます」

テオドラはユーラスの方を見ると確認を取る


 「今回に限っては、多少の譲歩をしてもダルキア帝国はこの交渉を成立させたいという意図が強く感じられます」

 「こちらもダルキア帝国側に歩調を合わせるのが適切かと……」

ユーラスの言葉に同調するようにカイロスも頷く


 「ダルキア帝国は大陸の三分の二を支配下に置いたとはいえ長引く戦乱により兵も民も疲弊し国土も荒れ国力も低下しておるはずですからな……」

 「ただし……今はですがな……内政が安定すれば以前より国力が強大となり更に脅威度を増すであろうことも確かですがな……」

 少し溜息ためいき混じりにカイロスが言った……テオドラとユーラスは何もいう事は無くただ頷くだけだった


 国力が低下したとは言えダルキア帝国とノーワ帝国との戦力差は如何いかんともしがたく交渉を拒みダルキア帝国が本腰を上げるような事態となれば劣勢に追い込まれるのは必至、ましてやこれを機にこちらから打って出る事など論外……現実的にノーワ帝国は交渉に応じるより道はないのである


 三人とも暫くの沈黙の後にカイロスがテオドラの方を見ると最終確認をとるかのように

 「それでは、ダルキア帝国への返書はそのようにはからいます」

 そう言うとテオドラとカイロスが席を立ち会議室を出て行った……その場に一人となったユーラスは内心ではホッとしていた


 ユーラスはビアンカの引き渡しを行えばノーワ帝国内にいるトリニア帝国の多く亡命者、新たに受け入れた1700名の旧トリニア帝国を主体とする反乱軍の者達の反発を危惧きぐしていたのだった……ビアンカの引き渡しが無くなった事によりその心配が無くなったからだ


 アデレーナがビアンカの引き渡しに強硬に反対していた時には内心それを支持していたのだったが、彼の頑な軍人としての性格が政治に関わる事を良しとしなかったのだった……(当然、アデレーナは気付いている)


 ユーラスは席を立つと大きく息をし会議室を後にした

 その数日後にノーワ帝国よりの返書がダルキア帝国皇帝バルドゥイノの手元に届くことになる



ダルキア帝国の王宮では帝国軍総長のカリストと司令官ブラウリオの二名が皇帝バルドゥイノの御前に控えていた


 「両名ともにこうべを上げよ」

 「帥等そちらにはノーワ帝国との交渉の全権をゆだねる」

 「からノーワ帝国への要望は、"ピレウスの我が国への不干渉"その一つのみである」

 「"ピレウス"つまり"の女神"と"ピレウスの聖女"の両名のみである」

 「勿論、こちら側からも"ピレウス"だけには決して干渉しない事を我が名誉にかけて誓う」

 「それ以外は、一切何も要求せぬ……以上である」

皇帝バルドゥイノの言葉にカリストとブラウリオは唖然あぜんとする


 「それは、どういう事でございましょうか」

皇帝バルドゥイノの意図が読めないカリストがその心内こころうちを探ろうとする


 「が休戦交渉を行うべき本当の相手は"ピレウス"のみである、ノーワ帝国などでは無い……そういう事だ……」

 「ノーワ帝国は"ピレウス"との交渉の窓口にしかすぎぬ」

皇帝バルドゥイノは冷静に淡々と述べる

 「ノーワ帝国の交渉は表向き、あくまでも"ピレウス"との直接交渉の口実である」

 「"ピレウス"との不可侵交渉が成立するならばノーワ帝国など余の眼中に無いわ……恐れるに足らん」

 「よいか……何としてでも"ピレウス"との条約を成立させよ」

 「この一つのみが余の唯一無二の望みである」

そう言うと皇帝バルドゥイノは王座から立ち上がり二人を見降ろす……その目は恐ろしいまでに冷酷で鋭かった


 「はっはっはははぁーーーーーっっっ!!!」

あまりの皇帝バルドゥイノの威圧感にカリストとブラウリオはただ床にひれ伏すよりなすすべがなかった


 「最後に一言だけ忠告しておく……決して、"ピレウス"相手にくだらぬ策などろうするでないぞっ!」

そう言い残すと皇帝バルドゥイノは王座を後にした

 皇帝バルドゥイノの余りの威圧にカリストとブラウリオの二人は暫くその場から立ち上がる事すら出来ずにいるのだった


 正気を取り戻したカリストとブラウリオの二人はフラフラと立ち上がるとお互いに顔を見合わせると目で会話するかのように深く頷き合うと足早に立ち去るのであった



 その数日後にダルキア帝国からの返書が届く事となる、皮肉な事にこの交渉の主役であるはずの"ピレウス"の二人はノーワ帝国では完全に蚊帳かやの外であった

 その"ピレウス"の二人のエレーヌとラミアにダルキア帝国との交渉に同席するように聖城から依頼の知らせが届いたのは交渉期日の直前だった




 早朝から森の中の屋敷は騒がしかった、交渉日時ギリギリに同席を通達されたために何の準備もしていなかったからだった


 屋敷の中からアデレーナの慌ただしい声が聞こえてくる

 「コレ着てください……エレーヌさん……」

 「早くしてくださいよっ! もうすぐ聖城からむかえが来ますよっ!」

 「あ~ラミアさんはそこにあるの適当に着ちゃってください」

突然のダルキア帝国との交渉の場に出席を依頼されたので何の準備も出来てない

名ばかりとはいえ"神聖皇帝"であるエレーヌにはそれなりの身形が要求され聖城から立派な衣装や高価な装飾品が送られてきていた

 

 「どうかな……こんなので……」

私は、着慣きなれない豪華な衣装と装飾品を身にまとい腰には剣を差している


 「ぶっ!ぶはははははっ!」

私の姿を見てラミアが腹を抱えて笑っている……鏡に映った自分の格好はまるで宝〇歌劇団の男役さながらなのはわかる……


 「失礼ですよっ! ラミアさんっ!! どうして笑うんですかっ!!!」

 「凄くカッコいいじゃないですかっ!!!」

 「これで白馬にまたがれば完璧ですよっ!!!」

ウットリとした表情で私を見るアデレーナをよそにラミアは笑い転げている

それを見ていた残りの四人の反応もまちまちだった


 セレスティナとビアンカは似合っていると言ってくれるのだが、カリナとサリタは笑いをこらえているように見える

 そうこうしているとラミアが透き通るような白い衣をまとい現れる


 「どっどうかなぁ……」

少し頬を赤らめて言う……外見だけは清楚で可憐な"聖女"のように見える

 

 「なかなか似合っているじゃないですか……」

カリナがそう言うとサリタがコクコクとうなずく、二人とも何故か頬が赤くなっている


その二人を見ていたアデレーナが

 「カリナさんサリタさん……変な妄想しないで下さいね」

目を細めて言うと二人の目が不自然に泳ぐ


 「カ・リ・ナ~」

そう言うとセレスティナはカリナのお尻を思いっきりつねった


 「痛てて……ごめんなさいっ……セレスティナ……」

そう言うとカリナは機嫌を損ねたセレスティナに平謝りしていた


 「ぐふっ! わはははははっ!」

突然、アデレーナが大声で笑いだす

 「お腹がっ! お腹の皮がよっよじれるぅっ~っ!!!」

 「気持ち悪いを通り越してもはや滑稽こっけいですっ!!」

アデレーナは笑い転げいてる


 「なによっ! ちょっと酷くないっ!!」

ラミアは少し頭にきたようで物凄い速さでアデレーナの背後に回り込むとお尻に指を突き立てた……"ズホッ"という音が聞こえてくるぐらいにラミアの指がアデレーナのお尻に深くめり込む


 「うぐっ!!!」

アデレーナはお尻を押さえてうずくまった

 「あっあああがががっ……なっなっ何て事するんですかっ!!!」

 「痔になったらどうしてくれるんですかっ!!!」

お尻を撫でながらアデレーナがブツブツ文句を言っている


 そうしていると、玄関から声が聞こえてくる

 「聖城からお迎えに参りました……」


 それを聞いたアデレーナが大きな声で返事をする

 「迎が来ましたよっ!」

そう言うと私の手を引っ張り玄関の方へ足早に歩いていく

扉を開け玄関に出ると十人ほどの騎士が整列している


 最前列の中年で恰幅の良いの騎士が敬礼をする

 「小生は"バルド・アドルナート"と申します」

 「テオドラ様の命により聖城よりお迎えに参りました」

そう言うと私とラミアに丁重な手招きをした

私とラミアは言われるままに歩いていく……後ろからアデレーナの声がする

 「行ってらっしゃい……」

  

 アデレーナの小さな声に私は小さく頷き

 「行ってくるね……」

そうして私とラミアは森の中の屋敷を後にした



 聖城に到着すると城門にはテオドラを始め多くの兵士達が既に待機していた

 私達の前にテオドラが歩み寄っている


 「ご足労おかけいたしますが、お二人にはダルキア帝国の希望により交渉に同席して頂きます」

 「お二人には、同席して頂くだけで実質的な交渉は私共で行いますのでご安心ください」

 「交渉の地のトメルリ街道までは四日で到着の予定です」

 そう言うと馬車に乗るように指示される

 自分たちはお飾りと言う事を自覚しているので何も言わずに軽く会釈すると私とラミアは二人だけで一台の馬車に乗せられた


 馬車に乗ると外で兵士たちを指揮する司令官の号令がしてゆっくりと馬車は動き出した


 二人だけの馬車の中でラミアが何か言いたげに私を見ている

 「ねぇ……エレーヌさん……私達って何するの……」

やる気のなさそうな口調で問いかけてくる


 「まぁ……お飾りだから、座ってるだけでいいんじゃない……」

私も適当な口調で答える

 実際に私達には何も詳しい事は伝えられていない……ただ、交渉に同席するように言われて来ているだけなのだから

 それに、私達"ピレウス"には必要以上にこの世界の住人の営みに干渉しないという理もあるからだ


 その後は何事も無く隊列は歩み続け四日後にはトメルリ街道に到着した

 退屈極まりない馬車の旅に嫌気がさしていたが休憩や宿泊に立ち寄る際の食べ物は楽しみだった

 「やっと着いたようだね……」

私がラミアに欠伸あくびをしながら言うと


 「あ~あ~……死にそう……」

ラミアは死んだ魚のような目をして言う

 「お邪魔じゃまなあのおんなも居ないし、この四日間もエレーヌと二人っきりなのに……」

 「何もできなかったじゃないの……」

ラミアは不機嫌そうに何かブツブツ文句を言っている


 昼夜を問わずに私達の周囲には常に誰かがいるので何もできなかった事がラミアには不満この上なかったようである

 私としてはありがたかった、体力バカのラミアは所謂いわゆる"絶倫"なのだ……四日間も相手をさせられたら私の身がもたない


 アデレーナの"冥府の手"の拷問のような責苦に一時間近くも持ちこたええるのだ、私だったらあんな拷問されたら十分も持ち堪えたず落ちるに違いないと思う


 特に"マナウス"の血を引いている者は"ピレウス"が快楽にもだえる姿を見ると更に欲情するという性的な特性がある、アデレーナは特にその傾向が強いのは身をもって経験している


 「どうしたの……エレーヌさん……なんだかホッとした顔して……」

ふと顔を上げると、目線の先でラミアが目を細めて私を気に見ている


 「なっ何でもないよ……」

慌てて言う私をラミアがジィーっと見ている


 「エレーヌ……ふとった……」

私のお腹をみてボソッと言った


 「う゛っ!!!」

私はぐの音も出なかった、四日間も豪勢なもてなし料理をたいらげて食ちゃ寝していれば当然の事なのだ……


 黙り込む私を見てラミアが更に致命の一言をつぶやく……

 「お腹にはけっこうなお肉が付いたのに……胸は全然っ!付かなかったわね……」

 私の胸とお腹を交互に見ながらニヤリと笑った


 「ふげっ!」

ラミアは悲鳴を上げると胸を押さえて小さな悲鳴を上げた

無言で私はラミアの胸の先っぽに電撃を加えたのだった

 「いきなり何すんのよっ!」

ラミアは胸の先っぽをさすりながら抗議の表情を浮かべる


 すると、馬車が止まりドアが開けられる、馬車から降りるとそこにはダルキア帝国の交渉団が待機していた


 私とラミアは護衛の騎士に先導されて交渉のためのテントへと案内され、中に入るとダルキア帝国の交渉の使者二人が席に付いており護衛の騎士三人がその後ろに立っている、テーブルをはさみその反対側にカイロスとユーラスの二人、その後ろに同じく護衛の騎士三人が立っていた

 私とラミアの席はそのどちら側でもなくテーブルから少し離れた所に用意されていた

 軽く会釈えしゃくを交わし、私とラミアが席に付くのを確認すると交渉が始まる、何故かダルキア帝国の交渉人はしきりにこちらを気にしているようである


 交渉は順調に進み互いに合意文書にサインをし無事に終了した、私とラミアは何もすることも無くボンヤリとその光景をながめているだけだった


 しかし、交渉が終了した直後にいきなりダルキア帝国からの風向きがこちらに変わる


 「お初にお目にかかります、"の女神"と"ピレウスの聖女"よ」

 「私は、ダルキア帝国軍総長のカリスト・コルデーロと申します、こちらが軍司令官ブラウリオ・アギレラにございます」


 そう言うと私とラミアに向かって深々と頭を下げた、私とラミアも同じように頭を下げてお辞儀をする

 その様子を見てカイロスとユーラスの二人の表情が険しくなるが、何も気にすることなくカリストが話を続ける

 

 「お二人は"ビレウス"所縁ゆかりのお方と聞き及んでおります」

 「"ピレウスの地"は我らダルキア帝国にとっても"聖地"であります」

 「故に我らは決して"ピレウスの地"だけには干渉致しません、よって"ピレウス"も我らダルキア帝国に干渉せぬように願いたい」


そう……ここからがダルキア帝国にとっての本当の交渉でありカリストにとっては皇帝バルドゥイノ勅命ちょくめいの大仕事なのである


 私とラミアは、いきなりのダルキア帝国からの対話に顔を見合わせ若干の困惑するとカイロスたちの方に目をやるがカイロスとユーラスの二人も戸惑っているようだ


 「どうですかな……"衝盾の女神"と"ピレウスの聖女"よ」

私とラミアの返事を待つカリストの顔に焦りの色が滲み出る


 "どうする……ラミア……"

私は小さな声でささやくようにラミアに問いかける


 "そうね……不干渉っていうのはピレウスの理に適っていると思う"

 "でも、何か裏がありそうね……"

そう言うと私にラミアが耳打ちする、それを聞いた私は小さくうなずくとカリストに向かって話し出す


 「分かりました、ダルキア帝国に対するピレウスの不干渉をお約束いたします」

私がそう言うとカリストの顔に安堵あんどの表情が滲み出る、しかし、私はそのまま話を続ける


 「ただし、"ゲール"の件に関してだけは除外します」

 「そう、皇帝陛下にお伝えください」

そう言うとカリストは何の事か分からないのか不思議そうな顔をするが……


 「"ゲールの件"……てすか……」

 「承知いたしました……確かにそのように皇帝陛下にお伝えいたします」

一息つくとカリストが返事をする


 「では、これにて交渉は成立したと言う事でよろしいですな」

そう言うとカリストが周りを見回すとカイロスとユーラスの二人も顔を見合わせうなずく、私とラミアも同じように頷き交渉は驚くほどの短時間で合意した


 交渉に立ち会った者が全員テントを出ると不意にカリストが私とラミアに向かって語りかけてくる


 「古来より"ピレウス"は奇跡を起こすと言い伝えられておりますが、どのようなものか私どもめにも是非ぜひにお見せ頂けますかな」

そう言うと薄ら笑いを浮かべる……


 この時、カリストは以前にパナル神殿が真っ赤な偽物であった事が頭の中にあったのだった、それに元々からカリストは神など信じないそういうたぐいの人間でもあった


 「古事によれば、指先一つで街一つを消し去る程の力があると聞き及びますかな」

意地悪そうな笑いを浮かべながら私とラミアに向かって言う

 "こ奴らも偽物に違いない"そう高を括っていたのであった……皇帝バルドゥイノの忠告は完全に頭の中から消えていた

 この余計な一言がカリストとダルキア帝国の運命を大きく変える事になるとは思いもよらなかった



 その様子を見てラミアが私に目で合図するのを確認すると私は辺りを見回し少し離れた小高い丘に古い廃墟と化した砦を見つけた

 「あそこの砦は何なのでしょうか」

私はユーラスに問いかけると


 「はっ? あの砦は確か……15年ほど前に破棄されたトメルリ第二砦ですな」

 「今は、誰も居らぬはずですか……それが何か……」

ユーラスは不思議そうに私を見る


 「だったら、もう不要なのですね」

 「ラミア……どうかな……」

ラミアは砦の方に向かって両手を差し伸べるように何かをしている

そのラミア姿に周りの者たちが奇異きいの目で見ているのにも気にせずに私はラミアに問いかけた


 「大丈夫よ、人の気配はない、誰もいないわよ」

ラミアの返事を聞くと私は両手を天にかざして魔法を発動する準備をする

周りの者達が変な表情で私を見ているのが分かるが気にせずに魔法発動を開始する


 「エレーヌっ! 手加減するのよっ! 分かってるわねっ!!」

くどい程に私に念を押す


 「エクスプロージョンっ!!!」

私は爆裂魔法の定番を発動させた

砦り上空に鋭い閃光が走ると一瞬のうちに辺りが光に包まれる、その直後に凄まじい轟音と共に爆発が起き爆炎が天高く舞い上がり爆風が吹き荒れる

 その場にいた者が全員が慌てふためく、爆風が収まると小高い丘は砦もろとも跡形もなく消え去り巨大穴が空いている

 余りに突然のあり得ない出来事にその場にいた者は凍り付いたように呆然としている


 "ピレウスの雷神"だ……ざわめくノーワ帝国軍、ダルキア帝国軍の兵士達のあいだからから何処からともなくそんな声がいくつも聞こえてくる

 双方の兵士の中には、腰を抜かして地面にへたり込んでいる者、信心深いものは祈りを捧げている者までいる


 "ピレウスの雷神"……この大陸の人間ならば誰もが知っている神話の中の最強神である

雷を自在に操り一撃で街一つを消し去る"破壊の神"でもある

 カリストが言った"古事によれば、指先一つで街一つを消し去る程の力がある"とはその"ピレウスの雷神"そのものの事なのだ

 

 呆けたカリストの脳裏に皇帝バルドゥイノの言葉が鮮やかに蘇る……

 "最後に一言だけ忠告しておく……決して、"ピレウス"相手にくだらぬ策などろうするでないぞっ!"

 カリストは自らの全身から血の気が引いて行くのが分かった


 "しまった! このような神のごとき力を兵士に見せてしまっては兵士共は恐怖し戦う気力を失ってしまう"

 "この失態……どう陛下に申し上げればよいものか……"


青ざめて凍り付いたカリストの顔を見ながら私がニコリ微笑むとカリストの顔が恐怖に引きるのが分かる


 そんな中で、騒ぎにおびえた一頭の軍馬が暴れ出しこちらへ向かって暴走してくる……


 それを見ていたラミアは一瞬で軍馬の前に瞬間移動すると"張り手"一発で何百Kgもあるであろう軍馬が天高く舞い上がる……

 暫くして、落ちてくる軍馬を受け止めると地面にゆっくりと降ろした

 

 「もう大丈夫だよ、お馬さん……ご主人の所にお戻り……」

そう言うと大人しくなった馬の腹を撫でる……軍馬はフラつきながらもゆっくりと歩き出し主人の元へと帰って行った


 軍馬を見送ると何食わぬ顔でこちらの方に歩いてくるラミア……

 「もう少し、手加減しなさいよねっ!」

私に向かってそう言う

 

 「えっ! あれでも相当に手加減したつもりだよ……」

私が何気なく答える

 その会話に周りの者たちの顔から更に血の気が引いて行くのが分かる……


 そんなラミアを見て周りの者たちはポカンと口を開け目は虚ろいで顔は呆けている、外見はどう見ても清楚で可憐な少女にしか見えないからだ……外見だけは……


 「じゃ……帰ろうかっ!」

そう言うと私の手を掴むとサッサと馬車の方へ歩いていく、周りの者たちは、ただただ呆然と見送るだけだった


 私とラミアが馬車の前に来ると馬車の横に立っていた兵士は体が震え額に汗が滲み出て顔がヒクヒクと引き攣っているのが分かる

 私とラミアが近付いてくると

 「ひぃっ!」

兵士は小さな悲鳴を上げる


 「乗っていいかな」

ラミアが兵士に問いかける


 「はっはっはっ! はいっっっ! どっどっ!どうぞっ!!」

兵士は焦り言葉を嚙みなが馬車のドアを開けてくれた


 私とラミアは何事も無かったかのように馬車に乗り込むとドアは閉められた

 馬車の外からは色んな喧騒けんそうが聞こえてきたが私とラミアは聞こえないふりをしていた


 「ちょっと……やり過ぎたかな……」

私は不安そうにラミアに問いかける


 「あんなもんじゃないの……アンタが本気になったらマジで国一つ消し飛ぶから」

 「それに、このあたりの地形も変わらなかったし誰も死ななかったからいいんじゃないのっ!!!」

 「大体、このトメルリ街道ってアンタが千年前に吹っ飛ばした跡じゃんか」

ラミアは高笑いしながら答えるが……その会話の内容は、馬車の外に全て聞こえていたとは二人は知らなかった


 その後、聖城までの帰り道の四日間の間は私とラミアは周りから神のような扱いを受けることになり、来る時よりも遥かに豪勢な食事と、もてなしに更に疲れ果てるのであった


 そして、私とラミアは更に肥る事となるが……

 ラミアは、服の胸元が窮屈になるぐらいに胸に肉が付いたのだが……


 私の胸に肉は全くは付かず……剣のベルトが窮屈になるほどに腹の脂肉がパワーアップするだけだった……



 第二十三話 ~ 終わり ~

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