第22話

第二十二話



 ノーワ帝国とダルキア帝国の休戦交渉が本格的に始まろうとする頃、森の中の反乱軍の臨時駐留地では1700人の兵士達の身元確認の調査が始まっていた


 全ての兵士の名前や前職などについての他に今後の本人の意向も調査されていた


 全ての兵士がノーワ帝国での永住を望んでおりノーワ帝国兵士としてダルキア帝国との戦闘に加わりたいと希望する者も多くいた


 兵士達は約300人づつに分けられノーワ帝国各地の軍施設での一時預かりとなり、この地を順次に去っていった


 兵士の中には多数の元戦車兵もいてノーワ帝国に新設された戦車隊の戦力向上と戦車製造技術と運用法の大きな助けとなっていくこととなる



夕日に照らされる屋敷の二階の窓から私とアデレーナが二人で外を見ている

アデレーナは聖城から戻ってから口数が少なくなっていた


 「随分と寂しくなっちゃったね」

兵士達が去って誰もいなくなり静けさを取り戻した屋敷の前の広大な空き地を見て私がアデレーナに呟く


 「そうですね……」

アデレーナが遠い目で夕日を見ながら言う


 「何か心配事でもあるの」

私がアデレーナに問いかける


 「……ビアンカさんの今後が気がかりで……」

アデレーナは心配そうに答える


 「……聖城から帰ってくるのが遅かったのもそのせいなの……」

私は俯くアデレーナに問いかける


 「……はい……そうです……」

 「テオドラ様たちは、ダルキア帝国との休戦交渉にビアンカさんを利用する気です」

アデレーナが悲しそうに小さな声で言う


 「やっぱりね……」

 「当然、反対したんでしょ!」

私がアデレーナの方を見て少し強い口調て問う


 「もちろんですっ!」

 「ダルキア帝国にビアンカさんを引き渡すなんてできません」

 「絶対に処刑されます」

アデレーナの声が震える


 「……ビアンカさんを修道女にするわけにはいかないの」

 「そうすれば何とかなるんじゃない」

私が無い知恵を絞る


 「……それにはテオドラ様の許可が必要なんです」

 「テオドラ様にその気はありません」

アデレーナはハッキリと答えた

人の心を読むことのできるアデレーナの事だから間違いはないだろう

 「"ビアンカさんは、こちらで預かります"って啖呵たんかきってそのまま帰ってきちゃいました」

アデレーナは何かが吹っ切れたかのような口調で言った


 「そう……なんだ……」

私はそのまま口籠ってしまった


暫くの間、二人並んで窓辺で夕日を眺めていた

「うぎゃっ!」

アデレーナが突然に悲鳴を上げて床にうずくま


 「えっ???」

私は訳が分からずに唖然としていると

 

 「二人して何してんのっ! もうすぐ夕食だよっ!!」

後ろから能天気なラミアの声がする


 床に蹲ったアデレーナはお尻を抑えながら

「痛てててっ……いきなりっ!! お尻に……」

「なんてことするんですかっ!」

死にそうな声で怒っている


 「いや~、二人して夕日の窓辺でたたずんでるの見たらなんだか殺意が湧いてきて……つい……」

 「ほんの軽い悪戯いたずらだよっ!」

笑いながら言うが目は笑ってはいなかった……どうやら……アデレーナのお尻にアレをやったらしい



 階段を下りて今に行くと既にカリナ、サリタ、ビアンカは食卓についておりセレスティナが夕食の用意をし終えるところだった


 「どうしたんですか……」

 「二階から物凄い悲鳴が聞こえましたが……」

ビアンカがそう言うと残りの三人も不可解な表情でこちらを見る


 「たいしたことないよ、ちょっとビックリさせただけだから」

ラミアがそう言うと四人とも納得したようだった……



 皆で食事をしているとビアンカがふと

「誰がお作りになったのですか」

「本当に美味しいです」

豆と香草のスープをスプーンで飲みながら言う


 「ああ、これ全部セレスティナが料理したんです」

カリナがビアンカの方を見て答える


 「そうですか……良いお嫁さんになれますね」

ビアンカはそう言うと微笑みながらセレスティナの方を見るのだが頬を赤くしてもじもじしている、その横でカリナが凄く嬉しそうにしている

 二人の関係を全く知らないビアンカは不思議そうな顔をしていた


 皆で食事をしていると私は不意に思い立ったことを口にする

 「ここにいる皆って……料理って出来るのかな……」

 私が何気なく口にした言葉にセレスティナ以外の者の食事の手が止まる

 

 「ラミアはまるで駄目なのは知ってるけど」

 「どうしたの……みんな……黙り込んで……」

 一瞬で凍り付いた場の雰囲気に私は少し焦る


 「私は……生まれてこの方……料理の類は……全くしたことがありません」

ビアンカは俯いて恥ずかしそうにする……まあ、一国の王女が料理なんかするはずもないは当然な事だ


 「自慢じゃないですが私も、まるで駄目です……」

カリナが自信たっぷりに言う……それを聞いたセレスティナがカリナを見ると


 「カリナの料理の酷さは折り紙付きです」」

 「一度、任務で一緒した時に食べましたけど……一口で魔王も即死すると思います」

 「危うくチームが全滅するところでした」

 「酷かったです……アレは……」

遠い目をして淡々と恐怖体験を語るセレスティナにカリナは少し傷ついたようだった


 「サリタさんどうなの……料理は出来るの」

会話に参加せず私が気配を消しているサリタに問いかける


 「あっあっ……その……駄目です……」

うつむいてボソッと言う……その横でビアンカがコクコクと何度もうなずいてた


 「そう言えば、私……アデレーナの手料理を食べた事ないな」

 「アデレーナは料理はどうなの」

私はそう言うと


 「えっ! 私はエレーヌさんに何度も料理を作っているじゃありませんか」

"私は料理が出来ます"をアピールするアデレーナ


 「そう……パンと干し肉、スープとワインぐらいしか食べた記憶が無いんだけど……」

私が言うとアデレーナの顔が引き


 「なっ何を言ってるんですか……立派な料理じゃないですか」

アデレーナ開き直ったように言う


 「こんな所で一人で暮らしてて今迄、食事はどうしてたの」

私が心配そうに聞くと


 「神に仕える者として質素でつつましやかな生活は当然の事です」

そう言うアデレーナの声はやや引き攣っている……


 それを聞いていたラミアはアデレーナの方を見て

 「質素でつつましやかね……」

 「それにしては、随分と立派な腹してるじゃないの」

 「ねっ見て見てこんなにガバガバだよ……みんな……」

ラミアは着ている服のお腹の部分を摘まんでビロ~ンと伸ばした


 「……」

みんなは黙りこくっている……カチャカチャと食器の当たる音だけがする


 「ラミアさん💛」

アデレーナがニッコリと笑う

ラミアがビクッとするがアデレーナは別に何も言わなかった……そまのの無言での食事となった



 食事を終えてから二階の自室へと戻るとベッドに寝転がっているとドアをノックする音がする

 「アデレーナです、入ってもいいですか」

ドアの外からアデレーナの声がするので私は入るように言う


 「どうしたの……」

私はベッドから起き上がるとアデレーナの方に歩いていく


 「実は……エレーヌさんとラミアさんにお聞きしたい事がありまして……」

私は、なんだかアデレーナの様子がいつもと違っている事に気付き対応に苦慮していると再びドアをノックする音がする


 「エレーヌっ私、入っていい」

外からラミアの声がする……私はアデレーナの方を見るとアデレーナは小さく頷く

 

 「いいよ」

私がそう言うとラミアが入ってくるとアデレーナの方を見て


 「あっ……やっぱり来てたか……」

小さな声で呟くと部屋に封印魔法を発動する

 「もういいよ、この部屋は完全に外と隔離されているから」

ラミアがアデレーナに言う


 「ありがとうございます……ラミアさん」

そう言うとペコリと頭を下げると大きく呼吸をする

 「……お聞きしたい事と言うのは……私自身の事です……」

 「私は……私は本当に人間なんでしょうか……」

悲しそうな声で言う

 

 無理もない、人の心を読んだり、地面から黒い手を操ったりと普通じゃないと考えるのは当然なのだ……

 

 私はラミアの方を見るとラミアも私の方を見ている、お互いに頷き合うと私は事の全てを話し始める

 アデレーナは何も言わずに黙って聞き終えると話し出す

 

 「……私……エレーヌさんやラミアさんと同じなんですか」

 「そうなんだ……私、人間じゃないんですね……」

アデレーナの目に薄っすらと涙が浮かぶ


 「アデレーナ……大丈夫……」

私が心配そうにアデレーナの肩に手をかけると……少し震えている


 「エレーヌさんっ!!!」

アデレーナはいきなり私の手を掴むと

 「今の話だとっ! わっ私とエレーヌさんはっ!!」

 「 そのっ! けっ結婚して子供も出来ちゃうんですねっ!!!」

アデレーナは鼻息を荒くして私に詰め寄る


 「えっ! そっ!! そうだけど……」

私は予想とは全く違うアデレーナの反応そして、アデレーナの余りの気迫に吞まれてしまう


 「やつぱり、初めて会った時に感じたあの感覚に間違いはなかったんですっ!!!」

アデレーナは目を輝かせて私の手を握りしめる

 「エレーヌさんっ!!! 私とけっ……うぎゃ!!!」

アデレーナはいきなり悲鳴を上げるとお尻を抑えて床にうずくま

 「あひっ! 痛っ!! お尻がっ!!! お尻の穴がっ!!!」

 「二回もっ……なってことするんですかっ!!!」

 「しかも、大切な事を話してる最中にっ!!!」

アデレーナがラミアに向かって怒っている


 「ざ・ん・ね・ん! エレーヌは既に私と契約済みなのよっ!」

 「だから……エレーヌは私のものっ!!!」

アデレーナにそう言うとラミアが私を抱き寄せる


 「えっ??? そうなんですか!エレーヌさんっ!」

慌て私に問い質す


 「……うん……」

私は済まなさそうに言うと

 「初めて温泉に入った時に、胸の刻印を見たでしょう……」

私がアデレーナに事情を話す

 「あの刻印って私には見えなかったのに……アデレーナには見えたんだよね」

私が不思議そうに言う


 「あれっ! 知らなかったの契約の証は未契約者にしか見えないのよ」

ラミアが説明をしてくれた


 それを聞いていたアデレーナが

「そうなんですか……でも……」

「エレーヌさんは刻印が一つなのに、どうしてラミアさんは二つあるんですか?」

と何気なく言った


 「えっ??? アデレーナ……今なんて言ったの」

私はアデレーナの言葉に我が耳を疑う


 「えっ??? ですから……ラミアさんには刻印が二つあるのは何故かなと……」

アデレーナは不思議そうに私に言う


 私は横にいたはずのラミアがそっと逃げようとしているのに気付く

 「パラライズ!!!」

私はしびれ魔法をラミアに向かって発動させる


 「ぎへっ!!!」

悲鳴を上げてラミアは床に痙攣けいれんしながら崩れ落ちる


 「ど・う・い・う・こ・と・なのかな~ラ・ミ・ア~」

私は床で痙攣けいれんしているラミアを見下ろす


 「こっ! コレには訳があるのっ!!」

 「お願いっ! 話を聞いてえっ! 」

ラミアは必死で私に懇願する


 「パージング」

私が呪文を唱えるとラミアの服は消えてなくる

「リビルト」

呪文を唱え荒縄と天井に滑車を生成する


 「ひぃーーーーーっっっ!!!」

 「ちょっと待って待ってえーーーーーっっっ!!!」

懇願するラミアを無視して亀甲縛りにすると天井から吊るす


 「ラミア~昨日は、浮気だと言って恥ずかしいかっこうで散々に私のお尻を痛ぶってくれたわよね」

怒りに震える声で私が言うとそれを聞いていたアデレーナが


 「なんですってっ! そんな羨ましい事を……じゃなくて」

 「そんな酷いことしたんですか」

アデレーナは少し慌てたように言い直すと

 「……で、どうしますか……この女……」

アデレーナは縄で縛られて天井から吊るされているラミアの方を見る


 「……そうね……まずは"冥府の手"で軽く全身を解してあげて」

私が冷酷な声でそう言ってラミアをみると


 「ちょっと! 待ってっ! コレには訳があるのよっ!!!」

 「お願いだから聞いてよっ!!!」

懇願するラミアに無数の"冥府の手"が襲い掛かる

 「ひぃーーーーーっっっ!!!」

断末魔の声を上げるラミアのお尻に"冥府の手"の指が突き刺さる

 「はひっ!」

先のお返しと言わんばかりに次々とラミアのお尻に"冥府の手"の指が突き刺さる

 「あひっ! ぐほっ! がはっ!」

ラミアは喘ぎ声を上げると今度は体中を"冥府の手"が擽り始める

 「ぐひっ! ぎへっっっ! ぎへっ!」

 「ひぬっ! ひうぬふぅぅぅ! (死ぬっ! 死んじゃうよっ!)」

以前より遥かにパワーアップした"冥府の手"の責めに、死にそうな声を上げて悶え苦しむラミアの余りの壮絶な光景に私も焦る


 「ねっ……アデレーナ……もう……いいんじゃないかな……」 

思わず止めに入る私


 「何言ってるんですかっ! エレーヌさんがそんなに甘々だから付け上がるんですよ、この女は……」

冷酷な目で悶え苦しむラミアへの制裁の手を全く休めない


 "怖いっ! もしもまかり間違ってアデレーナと契約なんかして浮気なんかしたら……"

そう考えると身思わず身の毛がよがる……約一時間この地獄の責め苦が続くこととなる


 「少しは反省したようですね……」

アデレーナはそう言うと"冥府の手"がスッと消えた……

ラミアは天井から吊るされたままで全身をピクピク痙攣させ口から泡を吹き白目をむいて完全に気絶していた


 普通ならお得意のアストラル回避で生身にどれだけの責め苦を受けても何ともないのだが、同じアストラル体の"冥府の手"は直接にラミアのアストラル体に触れることが出来るので回避のしようがないのだ

 私のように対アストラル防御魔法が使えるのなら話は別なのだが……それでも、無事に済みそうな気がしない程にアデレーナの"冥府の手"は以前よりも強烈に見えた


 「ところで……エレーヌさん……」

 「いろいろとこの女からエレーヌさんの事を聞き出しました」

そう言うとアデレーナがゆっくりとこちらに振り向く……その後ろでは天井からぶら下ったラミアがピクピクと痙攣している姿が目に映る


 「ひいっ!」

私は思わず小さな悲鳴を上げてしまった


 「この女から聞き出したんですけど……"ピレウス"同氏の契約ってこの世界の結婚とは違ってお互いの合意があれば重複しての契約もいいのですってね……」


 「先ほど、この女からは合意を取りました……後はエレーヌさんの合意だけです……」

そう言うとアデレーナはにっこりと笑った


 「あわわわわっ!」

思わず動揺して慌てふためく私に


 「……嫌……何ですか……エレーヌさん……」

有無を言わせぬ状況で目を細めて私をみる……"怖いよ~"私の心が悲鳴を上げる


 「……はい……わかりました……」

私は契約を受け入れるほかに生き延びる道は無いのだとあきらめた


 「ではっ! 契約の儀をっ!!」

アデレーナは私に近付いてくる


 "もはやこれまで……"燃え盛る炎に包まれた落城寸前の城主の如き悟りが私の心を逆に辞世の句の一句でも読むぐらいの平静を保たせた


 それに、私はアデレーナの事はハッキリ言って好きだ……初めて会った時にアデレーナと同じように感じるものがあったから……


 「でも、正式な契約は"契約の石板"に誓わないと無理だよ」

 「仮契約になっちゃうけどいいの」

 「"契約の石板"は多分……"聖・封印の女神"神殿にあると思う」

私はアデレーナに注意を促す


 「はい、わかってます……それも聞き出しましたから」

 「私が幼い頃に初めて刻印を見たあの石板ですね」

天井から吊り下がっているラミアを見て言う


 「そうだと思う……だったら……儀式の作法も知ってるね」

私はアデレーナに念を押すとアデレーナはコクリと頷いた


 私とアデレーナは裸になるとお互いに抱き合いキスをする

 二人の胸が熱くなり何かが刻まれたような感覚がする……これで仮契約は無事に会えた事になる


 「終わったよ……アデレーナ……」

これで私とアデレーナは契約を交わしこの世界で言う婚約者同士となった

心の中でホッとしている私にアデレーナが何か言いたげだ

  

 「あの……エレーヌさん……これで終わりじゃありませんよね」

 「これからが本当の儀式じゃありませんか!」

アデレーナはニヤけた顔をして私を見つめる


 「へっ?」

私は体が凍り付き背筋に悪寒か走り血の気が引いて行くのを感じた

 「あの……アデレーナ……ちょっと!」

 「今日はもう……」

続きを言う間も無くベッドに引きずり込まれた私は欲望全開のアデレーナの餌食となるのであった




第二十二話 ~ 終わり ~

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