第17話
第十七話
神聖ノーワ帝国軍とダルキア帝国軍がトメルリ街道で激戦を繰り広げている頃、アルテシア山地の森の中でも戦いが始まろうとしていた
セレスティナの特殊部隊三人組隊と遊撃隊の混成部隊とのアルテシア山地の森越は行程一泊二日の強行軍の二日目でアデレーナの森の小屋の近くにまで到達していた
"もうすぐ、アルテシア山地の森を抜けるっ!"
"カリナの仇はすぐそこにいるっ!!"
セレスティナの心は高揚していた
「セレスティナっ!」
「私とアベルは後続を待つ、お前は
「お前の気持ちはよく分かるが先走るなよっ!!!」
隊長のシリノ・ジャマスの斥候命令が出る
命令通りにセレスティナは一人で斥候としてポケットの兵糧食をかじりながら森の中を進んでいく
"私に倒せるだろうか……カリナすら
セレスティナの心に不安がよぎる
"私に出来ることをするだけっ"
"もし倒されても……その時はカリナの所へ行ける……"
そう心に言い聞かせて森の中をひたすらに突き進んですく
その頃、森の小屋では私とアデレーナ、カリナの三人は昼食を済ませた所だった
相変わらずアデレーナは魂の抜けた亡霊のようにようだった
「アデレーナさん……少しは食べないと」
殆ど食事を摂らないアデレーナが心配するようにカリナが言うがアデレーナは無反応だった
ここ数日のアデレーナの様子をみて私は非常に不安だった
"このまま行けばアデレーナは心を閉ざし廃人になってしまう"
何かアデレーナの心を引き戻すキッカケがどうしても必要だった……
普段のアデレーナなら絶対に喰い付きそうな下ネタでも無反応だった
私は、亡霊のように
すると、アデレーナは不意に立ち上がりテーブルの下で寝ているポチに近付くと
「ポチ……お腹空いたでしょう……」
「みんな私たちの敵よ、全部、食べちゃっていいよ……」
いきなりポチに不気味な事を言うとポチの目つきが変わる
その言葉を聞いていた私とカリナの顔から血の気が引いて行く
"ついにその時が来たのか……"
私はアデレーナの精神が完全に崩壊しつつあることを悟った
"今なら……楽に逝かせてあげることが出来る……"
"ごめんね……アデレーナ……ポチ……"
私は、目頭を熱くしながら呪文を唱え始める……万物分解の呪文……
呪文を唱え始めるとポチがゆっくりとこちらに近付いてくる
闘志を剥き出しにしている、いつものポチとは全く違う完全な戦闘モードである
「あれっ?」
ポチは私を無視して小屋の外に出て行く
私は呪文を唱えるのを止めるとアデレーナの方を見る
「エレーヌさんたちは私とポチが守って見せます」
「どんな事をしてでも……守って見せる……」
アデレーナは虚ろな目で森の方をじっと見ている
私は、その直後にアデレーナから猛烈な魔力の放出を感じた
"これは……紛れもない黒魔術……"
私はアデレーナの力の覚醒を実感する……その力は、最も小屋に近付いていたセレスティナに向けられていた
"なに……なんなの……これっ!!!"
セレスティナの行く手を幾つもの腐りかけの屍が塞ぐ
「ひっ! なになに!!なんなのよっ!! これっ!!!」
「いやっ! こっち来ないでっ!!」
有り得ない事態に半狂乱になるセレスティナ……
迫りくる屍に手持ちの手裏剣や毒針、爆裂弾を必死で投げつける、手裏剣は頭部に刺さり、毒針は目に刺さる、爆裂弾は手足や頭を吹き飛ばすが何事も無く近付いてくる
「いやっ! いやっ! こっち来るなっ!!!」
涙を流しながら必死で剣を振り回すが首を切り落としても屍は倒れもせず近付いてくる
「あ~っ」
余りの恐怖に腰が抜け失禁して小便を漏らしてしまう
「助けてっ! カリナッ! お願いっ!!!」
思わず好きな人の名前を叫ぶセレスティナ……そうすると屍は急に動きを止めたがすぐに動き出し近付いてくる
「ひぃ~っ!!!」
意識が遠のいていく……セレスティナは気絶してしまった
その頃、森の奥では更に悲惨な光景が広がっていた
「なんで、こんな所に聖獣がいるんだよっ!!!」
極限状態にまで腹を空かせたポチが遊撃隊に襲いかかっていた
「クソォ! また一人殺られたっ!!!」
「いったい、どうなっているんだっ!!!」
混乱した兵士が叫ぶと直ぐにポチが背後から襲いかかる
「ぎゃ!」
小さな悲鳴を残して上半身を喰いちぎられる
「アベルっ! 現状はどうなっているっ!!」
隊長のシリノが問いかける
「状況は全く分かりませんが……悲鳴が55回程聞き取れました」
「恐らく、悲鳴の数だけ殺られてます」
「残りは敗走していると思います」
アベルが答えるとその背後からポチが忍び寄る気配を感じ取る
「隊長っ! 来ましたっ!!!」
「逃げてくださいっ!!!」
「例の地点で落ち合いましょうっ!」
アベルが叫ぶと二人同時にありったけの煙球を地面に投げつける、閃光と共に刺激臭のある煙が辺りに立ち込める
二人は別々の方向に逃げる、その方が生存確率が高いからだ
二人を見失ったポチは逃走する遊撃隊に目標を定め物凄い勢いで森の中を突進していく
森のあちこちから聞こえてくる断末魔の悲鳴が敗走する兵士たちの精神を更に追い詰める
「畜生っ! 聖獣がなんだっ!! 殺ってやる!!!」
錯乱した兵士の一人が血走った目で自慢の大斧を構えるとポチが来るのを待ち構える
「馬鹿やろっ! 何してるっ!! 早く逃げろっ!!!」
一緒に逃げていた兵士が止めるが言うことを聞かない、諦めた兵士はそのまま彼をおいて一人で逃げて行った
暫くするとポチが正面から襲いかかってくる
「うりゃっっっっ!!!」
ありったけの力でポチに大斧を振り下ろすが全身全霊の一撃は全く効かず大斧の柄がボキッと折れてしまう、次の瞬間には
「ぎゃっ!!!」
ポチの爪の一撃で胴体をブツ切りにされる
ポチはピクピク動いている兵士の頭を容赦なく踏み潰して先へと突進していく
その頃、気絶したセレスティナは屍に森の小屋まで連行されていた
小屋の前に腐りかけの屍が近付いてくるのを見た私はアデレーナに死霊使いの能力がある事を確信していた
カリナは信じがたい光景にガタガタと震えていたが屍が連行してきた者がセレスティナだと分かると恐れる事も無く小屋から飛び出す
「セレスティナっ! セレスティナっ!!」
そう叫ぶと屍に連れられてきたセレスティナに抱きつきそのまま地面に座り込んでしまった
「大丈夫よ……生きているよ……」
アデレーナが無表情で言うと屍は次々に大地へと帰って行った
「よかったっ! 生きてるっ! セレスティナっ!!」
カリナは震える声でセレスティナを抱きしめたまま泣いていた
「あの~カリナ……なんかこの子……小便臭くない……」
私がそう言うとカリナも鼻をクンクンさせる
「セレスティナ……チビってるみたい……ね」
「この子、昔っからお化けとかに弱いから……無理もないか……」
「ちょっと、着替えさせてきます……」
カリナはセレスティナを抱きかかえたまま温泉の方に歩いていった
私は無表情に立ち尽くしているアデレーナに問いかける
「どうして、あの人を助けたの」
アデレーナは死んだような目で私を見ると
「セレスティナさんだと分かったから……」
「カリナさんの大切な人だから……」
無表情のアデレーナは小さな声で呟く
"アデレーナは、まだ自己を失ってはいないっ!"
"これなら何とかなるかも知れないっ!!"
私は希望を見出したような気がした
「アベルか……」
木の陰から小さな声がする
「はいっ隊長……私です」
同じように小さな声で返事がする
「無事でよかった……しかし、聖獣がいるとは……」
「セレスティナはどうなったのかな……」
隊長のシリノが心配そうに言う
「分かりませんが……これ以上ここに留まるのは危険です」
「遊撃隊は全滅したようですし……奴の気配も感じられます」
「この作戦は完全に失敗です、帰還して上層部に報告すべきです」
アベルは森の様子を五感で感じ取りながら進言する
「……これ以上……ここに留まっても仕方がないか……」
「セレスティナの事は残念だが……帰還する」
そう言うと二人は再び森の中へと姿を消していった
「セレスティナ……しっかりして……」
意識を失ったセレスティナの耳にカリナの声か聞こえてくる
「カリナ……ここは……あの世なの……」
「これで、ずっと一緒にいられるね……私たち……」
虚ろな目でセレスティナが呟く
「何言ってんの、セレスティナ……貴方、まだ生きてるわよ」
そう言うとカリナはセレスティナの頬を
「痛いっ!」
セレスティナは自分が生きている事が信じられないようにキョトンとしている
「もう……これでどう」
そう言うとカリナがセレスティナの乳首を思いっきり抓り上げた
「ひげぇーっ!!! 痛いっ!!!」
余りの痛さに悲鳴を上げる
「なんでっ! どうしてっ!! えっえっ???」
「えっ! なんで私っ裸なのっ!!」
状況が全く理解できずに混乱するセレスティナ
「落ち着いて……セレスティナ……ゆっくりと温泉にでも入らない」
「その……貴方……チビっちゃったみたいで……」
それを聞いたセレスティナの顔が真っ赤になる
「こっこっこっこっこれはっ……お化けがっ! そのっ! あのっ!!!」
必死で弁解しようとするが焦ってうまく説明できない
「もうっ! カリナの意地悪っ!」
セレスティナはむくれてしまう
そんなセレスティナをなだめると温泉に浸かりながらカリナがこれまでの経緯を話す
「大体……状況は理解できたけど……」
「これって……帝国への叛逆罪なんじゃ……」
セレスティナは言い難そうにカリナを見る
「そうかもね……私はセレスティナにもう一度会いたかっただけ」
「そして……どうしても言いたい事があったから……」
「そのためだけに、生き恥を晒してきた……」
そう言うとカリナはセレスティナをジッと見る……
ゴクリと生唾を飲むセレスティナ……
「愛しています、セレスティナ……」
「わっ私とっ! パッ! パートナーになって下さい……」
セレスティナは目をパチクリさせて呆然としている
「ダメかな……」
不安そうにセレスティナの顔を覗き込むカリナ
「……よろしくお願いします……」
小さな声で俯いたままで返事をするセレスティナ……
二人は、お互いを見つめ合い抱き合うとキスをする……
その時、"ドタンッ!"と音がする……二人は慌てて離れると音のした方に目を向ける
「お邪魔しましたっ!!! ごゆっくりどうぞ……ハハハハハ……」
そう私は言うとアデレーナの手を引いてサッサとその場を後にした
じつは、悲鳴が聞こえたので慌てて駆けつけたらカリナがセレスティナに告白するところだったので、ついつい見入ってしまったのだった
「今の……誰なの……」
余りの突然の出来事にセレスティナが呆気にとられている
「あっ……セレスティナは知らないよね」
「背の高い方がエレーヌさん、髪の長い方がアデレーナさんだよ」
カリナが簡単に説明する
「エレーヌさんとアデレーナさんですか」
「あの何者なんです……あの二人……」
セレスティナの問いにカリナは少し口を濁したように
「エレーヌさんは……その"衝立の女神"で現・神聖ノーワ帝国神聖皇帝」
「アデレーナさんは、"ピレウスの聖女"……だったりする……」
そう言うとカリナは申し訳なさそうにする
「へっ?……」
セレスティナが状況を理解するのに若干の時間を要した
「うっそぉ~なんで??……」
「こんな所に居るの???……」
慌てるセレスティナにカリナが怖そうな顔をして
「セレスティナも勘付いてはいると思うけど……普通の人間が太刀打ちできる相手じゃないのよ」
「……だてに、"女神"や"聖女"なんて呼ばれているんじゃないわ……」
「皇帝バルドゥイノ様が危険視するのも理解できる……本物よ、あの二人……」
カリナが余りにも真剣な顔をして言うので
「そうなの……私は、"女神"や"聖女"なんていないって思ってるんだ」
「きっと、何か裏があるはずよ……」
「パルキア公国のパナル神殿なんか真っ赤な偽物だったのよ」
「あの二人もきっとそうよ……私が化けの皮を剥いでやる」
「そして、一緒に帰りましょう」
そうセレスティナがカリナの手を握って言う
「パルキア公国のパナル神殿が偽物ってホントなの……」
少し驚いた後で
「でもね……あの二人は違うわ、本物よ……変な気起こしただけでも、こっ酷い目に合うわよ」
カリナはセレスティナに思い留まるように説得する
「私に任て……」
そう言うとセレスティナは温泉を上がって出て行った
「ダメっ! まだ話が終わってないのっ!! 待ってっ!!!」
カリナも慌てて後を追いかけるが
「ひげぇ~!!!」
すぐにセレスティナの断末魔の悲鳴が聞こえてくる
「セレスティナっ!!! 大丈夫っ!!!」
カリナは悲鳴の方へ急いでいくと……
「あっ! ひぃ! やっめてっ!!」
「あんっ! あはっ! いやっ! 」
「そこダメっ! あっあっ!!」
地面から伸びた何本もの黒い手にセレスティナが
「なにこれっ! セレスティナッ!!!」
慌てたカリナの視界にアデレーナがポツンと立っているのが写る
「アデレーナさんなのっ! やめてっ! お願いっ!!」
カリナがアデレーナに向かって懇願すると
「この女、私のエレーヌさんに危害を加えようとした」
「私は、この女を許さない……」
そう言うと黒い手がセレスティナの股間を弄る
「あっあああっ!!!」
セレスティナが苦しそうな声を上げると、カランという音と共に何かが地面に落ちる
音の正体は小さな小瓶だった、中には何か入っている
その小瓶を見てカリナはそれが何なのか即座に気付く……
"あれは、忍びが暗殺の時に使う毒薬が入った小瓶……"
セレスティナは体のあそこの中にこれを隠し持っていたのだ、女忍びがよく使う手段で暗器の隠し場所だ
「待ってっ! アデレーナさんっ!!」
思わずカリナが叫ぶ
その騒ぎに気付いた私が慌ててその場に駆けつけると、後ろからアデレーナをそっと抱きしめる
「もういいんだよ、だからセレスティナさんを放してあげて」
私は、優しくアデレーナの耳元で
「セレスティナっ!」
カリナは地面に倒れているセレスティナを起こすと軽く頬をパンパンと叩くと気を取り戻す
「良かった……」
カリナはその場にへたり込んでしまった
「カリナ、セレスティナさんをベッドの部屋へ」
私は,アデレーナが鎮まっているいる間に二人に逃げるように言う
「アデレーナ、私たちも行こう……」
そう言うと私はアデレーナの手を引いて自分のベッドの部屋に行く
最近は、私はアデレーナと一緒に寝ている、そうしないとアデレーナは寝ないし一人にしておくのも不安だからだ……当然、アデレーナはいつものように私のお尻を撫でたりすることも無い
私が寝ているとアデレーナの苦しそうな呼吸で目が覚める……
「どうしたのっ! アデレーナっ!! どこか苦しいの」
慌てた私がアデレーナの額に手を当てて熱がないかを調べる
「熱は無いみたい……」
「どこか痛い……」
アデレーナに問いかけるが苦しそうに喘いでいる
私が、困っているとカリナとセレスティナが寝ている部屋の方から声が
耳を澄ませると……
「あっ! あんっ!……そこっ……」
セレスティナの小さな喘ぎ声が少し聞こえてくる
"あいつら……ヤってるなっ!……まっ……仕方ないか……"
呆れながらも当然の成り行きだろうと思っていると、アデレーナが
"もしかして……ダメで元々……やってみるか……"
私は、魘されているアデレーナの服を脱がす……
白い肌に大きな胸、くびれたウエスト……ちょこっとだけお腹の肉付きがいいかな……等と思いながらアデレーナの様子を窺うと
"やるね、アデレーナ……"
魘されているアデレーナに小さな声で言うと……私は、アデレーナの乳首に吸い付いた
「はあっ! あはっ! あんっ!」
アデレーナは小さな喘ぎ声を出しながら体を捩じらせる
私は気にもせず喘ぐアデレーナの体を優しく触りながら舐め回す
「はぁはぁはぁ、うっ! あはっ! エレーヌさん……」
アデレーナは私の名前を口にする……
「あっ! ああっ! あはっ! あっ!」
体を弓なりに捩じらせると急にガクンと力が抜けぐったりとする
ぐったりしているアデレーナをうつ伏せにすると今度は背中に舌を這わせる
「ひいっ!」
小さな声を上げるとビクンと体が動く手をお尻の割れ目に沿わせる
「あっあっ!! ダメっ! そんなっ!!! あっあっいいっ!!」
アデレーナは再び体の力が抜けてぐったりしてしまうと、そのまま静かな寝息をたてて眠ってしまった
私もアデレーナの横に寝ると抱き抱えるようにして眠りに就いた
「エレーヌっ! エレーヌっ!! 起きなっ!!!」
私を起こす声がする……眠い目を擦りながら起き上がる……目の前に誰かが立っている
「アデレーナ……なの……もう、朝なの……」
私の寝ボケ眼に映った姿が素っ裸だと分かる、栗色の長い髪……夢の中の人……
「なんだ……夢か……」
と私が寝ぼけたように言う
「なに寝ボケてるの……エレーヌっ!」
「その横の女……誰……なんで二人とも裸なの」
「訳……聞かせてもらうわよ」
明らかに怒っているような冷酷な口調で私に言う……段々と目が冴えてくる
「えっ??? ラッ! ラミア??? なの」
私は、夢なのか現実なのか分からずに、ただ混乱するだけだった
第十七話 ~ 終わり ~
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