第14話
第十四話
これは、ダルキア帝国に隠密作戦の失敗が伝わる前の出来事……
「この人……どうします?」
「このまま、素っ裸で床に放置しとくと風邪ひいちゃいますよ」
幸せそうな顔をして寝ているカリナを見てアデレーナが言う
「私のベッドは血塗れだし……」
「とりあえず、こいつをこのままアデレーナのベッドに放り込んで私とアデレーナはポチを湯たんぽ代わりにして居間で寝るとするか……」
と私が言うと
「えーっ! なんで賊がベッドで私らが床なんですかっ!!」
「でも……エレーヌさんと一緒ならいいか」
そう言うとアデレーナはカリナの足を持つ、私は手の方を持って運ぶ
「こいつ……結構、重い……」
二人でブツブツ言いながらカリナをベッド放り込むと
「エレーヌさんっ、アレお願いします!」
と私にアデレーナが言う
「アレって……全身電気マッサージの事?」
私がアデレーナに向かって言うと
「ちっ違いますよっ! 」
「薪を布に変えるやつですよっ!」
アデレーナがそう言うと
「まあ、エレーヌさんがどうしても私に電気マッサージしたいならやってくれてもいいですけど……」
もじもじしながら恥ずかしそうに言う
「リビルトッ!」
私は、アデレーナを放置して薪を厚手の布に錬成していく
「ちょっと! 放置しないでくださいっ!!」
「でもっ! 最近ちょっと放置されるのが気持ち良くなってきちゃたり……」
アデレーナが危ない性癖を口にしている
アデレーナのご希望どうり放置したままにして布を錬成していく
「これぐらいでいいかな……」
「肌触りは余り良くないけど、暖かいのよね……コレって」
「木が材料なので紙に近いのだが、紙は断熱材として非常に優秀なのだ!」
……"
隣で自分の世界に浸っているアデレーナを放置して寝床の用意を終えると
「ポチっ! こっちおいで……そこに、寝ていいよ」
ポチが私の言われた場所に寝そべる……それを見ていたアデレーナは
「ちょっと! ポチっ! そんな所に寝ちゃダメですっ!」
寝床を左右に分断する敷居ように寝そべるポチに文句を言っている
「あのねポチ、そこに寝られると、私とエレーヌさんが一緒に寝れないでしょ!」
そう言うとアデレーナはポチに端に寄るように指示する
「フォ~ン」
ポチは困ったように鳴くと"どっちでもいいから早く寝かせてくれっ!"と言わんばかりに私の方を見る
「はぁ~、分かったよポチ……」
すると、ポチはモソモソっと端によると大きな
「ささっ! エレーヌさんっこちらにどうぞっ!」
アデレーナは自分の横に寝るように言う……何だか、身の危険をひしひしと感じるが、私も眠いので素直にその横に寝ることにした
意外なことに、アデレーナはそのまま眠ってしまった……が、寝たまま無意識に私のお尻を撫でていた
そんな状態でも疲れていたので、私もそのまま寝てしまった
それから数時間後、カリナは素っ裸で両手両足を縛られつつもアデレーナのベッドでこれまでにないほどの爽快な朝に目覚めたのだが、人生最大の危機を迎えていた
「トイレに行きたい……しかも……」
しかし、この状態では身動きが取れない……そうこうしている間に時間は刻々と過ぎ最悪の事態を迎えつつある……
ギュルルル~とカリナのお腹が鳴る
「ヤバい……このままでは……大変なことになってしまう」
「だっ! 誰かっ! アデレーナさんっ! エレーヌさんっ! 聞こえますかっ!」
必死になって名前を呼ぶが誰も来ない……
その時、ガサガサっと音がした
「よかった、トイレに行きたいので縄を解いてください」
「逃げたりしません、お願いですっ!」
そう言って音がした方に目をやると……ポチが立っていた……
「ぎゃ! 聖獣っ! なんでっ!!!」
そう、カリナとポチとは初対面なのである……恐怖のあまり頭が真っ白になる
ゆっくりとポチはカリナの方に近付いていく
「ヒィーッ!! 助けてっ! アデレーナさんっ! エレーヌさんっ! 」
カリナの叫び叫び声もむなしくポチはカリナにゆっくりと覆いかぶさった
カリナは目を
「ガリガリッ」
という音と共に手足が自由になった
「えっ?」
ポチが縄を噛み切ってくれたのだ
「あっ、ありがとう……」
呆然としながらポチにお礼を言った……ギュルルルーッ、お腹が最後の警告音を出した
「うっ!」
カリナは小さな声を上げるとベッドから飛び降り小屋を出ると近くの茂みに駆けこんだ
若い乙女が野〇ソなんてと思えるが、今まで隠密行動をとってきた彼女には恥ずかしくも何でもない事なのである
"忍びで良かった……普通の女子なら完全にアウトだったわ……"
そう思いながら、極限状態から解放感と用を足した快楽とに満足そうな顔をしながら茂みから出てきたカリナは、まだ誰も起きていていない事に気が付く……
"今なら、逃げられるっ!"
そう勘付いたカリナは裸のままで小屋から足早に遠ざかる……
"誰も追って来ないっ! これなら大丈夫だっ! 逃げ切る事が出来るっ!"
なぜならカリナには、過去に何度もこのような状態でも逃げ切ってきた実績と自信があったからだ
普通の女性にならとても無理な事だがカリナは裸のままで、森の中を太陽の方向を頼りに北の方角に進んでいた
忍びの者の常識として、いざという時の為にこの周囲の数ケ所と本国への帰還路の要所に衣服や保存食や薬、武器や路銀を隠してあるのだ。
方角と位置を確認しながら数時間歩き続けて、体中傷だらけになりながらも目的地に辿り着くと引っ搔き傷や切り傷に薬を付ける傷と染みる
"痛っ!"
思わず声が出る
休む間もなく、隠してあった靴と衣服と武器を身に着け路銀をポケットに詰め込むと保存食を食べながら更に北の目的地を目指して歩き出す
だが、カリナには致命的な見落としがあった、今度の追跡者は人間や犬ではなかったのだ……そう……追跡者はポチだったのだ……
カリナが逃げ去ってから数時間後にアデレーナとエレーヌが起きてくるとカリナがいない事に気が付く……ベッドの上には噛み切られたロープの残骸……
「ダメでしょうっ! ポチっ! 逃がしちゃ……」
アデレーナがポチにお説教している
「クォ~ン」
ポチが悲しそうな声で鳴く
ポチにしてみれば、困っていたカリナを助けただけなのだ……
「まぁまぁ、ポチに悪気はなかったんだから」
「逃げちゃったものは仕方がないよ」
そう言って私はポチの頭を撫でた
「仕方がないわね……捕まえられる」
そうアデレーナがポチに言うと
「クォ~ォ~ン」
と遠吠えを上げるとハッハッと息を荒くしながらアデレーナに擦り寄る
「そう……殺したり、食べたりしちゃダメよっ! 逃げた時のまま捕まえてくるのよっ!」
そうアデレーナが言うとポチはクンクンと周りの臭いを嗅ぐと凄い速さで森の中に姿を消した
犬以上の嗅覚と猪以上の
正確にカリナの臭いを嗅ぎ分け凄まじい速さで追跡してきている事にカリナは気が付いていない
"セレスティナ……もうすぐ帰るからね……"
単純にカリナはセレスティナに一目会いたいだけだった
他の事も、その後の事は考えてなどいなかった……
残念ながら、カリナの願いは叶えられる事はなかった……この後すぐにポチに捕縛されることになるのだが……しかし、逆にこれはカリナにとって幸せな事だった
彼女の母国……ダルキア帝国……ただでさえ厳しい掟のある忍びの者が任務に失敗し情報まで読み取られた者がそのまま生かされ続ける事など無いからだ
たとえ運よく、母国に帰っても厳しい尋問と処罰が待っているだけだ……良くて強制労働、最悪の場合は処刑さえあり得る、ダルキア帝国とはそういう国なのだ
"森の様子が……変だ……静かすぎる……何かが追ってきている……"
逃走している中で森の異変に気が付く、流石は忍びの者である
"山狩りに備えて臭い消しの秘薬も使っているのにどして"……その時、ポチの事がカリナの脳裏を過った
"まさかっ! あの聖獣が追ってきているの……"
"だとしたら……逃げ切れないかもしれない……"
カリナの自信が一気に崩れ去る
ガサガサ……ガサガサ……微かに森の木々や下草のざわめく音が聞こえる
"来たっ! 近い……"
"開けた平地なら絶望的だが、幸い下草と木々が生い茂ったこの状態なら逃げ切れる可能性がある"
この追い詰められた状況でも、早まる鼓動と息遣いを抑えながら平常心を保つと目潰しの薬入りの目眩まし光弾を握りしめる
ザッ! っという音と共に茂みの中からポチがカリナの右横から飛び掛かった
"クソッ!! 利き腕側からきたっ! 光弾が上手く投げられない!!"
光弾を地面に投げ捨て伏せて転がると、大きな石の陰に身を隠し次の手を考える
本来のポチなら逃すことなどないのだ、今のは逃したのではなく殺さずに逃げた時のままで捕えなければならないからである
強烈な臭いと煙を出す煙玉を取り出すと風上に投げる……周りが異臭と煙に包まれるのを確認すると自分が逃げる方向と逆方向に小石を投げる
"ガサガサ……"
という音を立ててポチが石を投げた方向に走っていく気配を感じ取るとゆっくりと地面を這うように逆方向に遠ざかる
"戦って勝てる相手ではない……何とか、逃げ延びなければ……"
カリナは気配を消し少しづつゆっくりと遠ざかっていく
"おかしい……気配がない……どこだ……"
ポチの気配が無くなったことに焦るカリナ、ポチも同じように気配を消すのが上手いのである
"あっ! "
ポチの気配に気付いたときは既に遅かった……
ドサッ!と言う鈍い音と共に上から何かが覆いかぶさる、太い木の上に登っていたポチが頭上から落ちてきたのだ
"うぐっ!"
ポチの重さにカリナが耐えきれるはずがない……
"クソッ! クソッ! セレスティナ……ごめん……今度はダメみたい……"
遠ざかっていく意識の中に、セレスティナの笑顔がよぎる
カリナが気が付くと前と同じように素っ裸で両手両足を縛られて同じベッドに寝かされていた
"あれっ……生きてるの……私……"
カリナには自分が生きている事が信じられなかった
「気が付いたようね」
聞き覚えのある声がする……辺りを見回すとアデレーナと"衝立の女神"がベッドの横に座っていた
「……」
カリナは何も言わない……それを見ていたアデレーナは優しくカリナに語りかける
「カリナさん……あなた……セレスティナさんに会いたかっただけなのね」
「ですから、私は……カリナさん……貴方が逃亡しようとした事を責める気はありません」
「貴方の気持ちは痛いほど分かります……しかし、貴方が母国のダルキア帝国に帰っても不幸になるだけです」
「私も、多少なりともダルキア帝国の事情は知っております」
「貴方がダルキア帝国に帰ってセレスティナさんに会えば……」
「二人とも不幸になってしまいます……理由はお分かりになりますね」
そうアデレーナが言うとカリナはボロボロと涙を流し出す
「分かってるわよ……そんな事……分かってるわよ……」
カリナは泣きながらどうしょうもなさそうに言う
「私とエレーヌさんの独断で貴方の事は秘密にしてあります」
「貴方が生きている事もダルキア帝国の隠密である事も、知っているのは私とエレーヌさんの二人だけです」
「だから……心配しなくても、貴方の大事な人は大丈夫ですよ」
そうアデレーナが言うと
「どうして……どうして、そこまでしてくれるの……」
「私には、全く理解できない……どうして……目的は何なの……」
カリナは震えるような声で言う
「目的ですか……私にも分かりません……」
「貴方の仲間を二人も殺しておいて、こんなこと言うのもなんですが……」
「私は、貴方に死んでもらいたくないだけです」
アデレーナが言うと
「馬鹿じゃないのアンタたち……」
カリナはポツリと
「そうね、馬鹿かもね」
そう言うとアデレーナは笑った
「それと、私たちは貴方を拘束する気はありません」
「ここで一緒に暮らしてくださっていいですよ」
「逃げたければいつでもどうぞ……」
そう言うとアデレーナはベッドの横で寝ているポチの方を見るとカリナの両手両足を縛っていた縄を解いた
「この小屋の裏には温泉があるんです……」
「昔から、外傷によく聞くと言われています……」
「森の中を動き回ったようで傷だらけですね、ご一緒しませんか」
呆気に取られているカリナに向かってアデレーナが言う
「えっ……はい……」
カリナは素直に返事をした
三人で温泉に入る
「痛っ!」
思わずカリナが声を上げる
「痛そうね」
私がカリナの傷だらけのから他を見て言うと
「この程度の事、慣れてますから……」
そう言うとカリナは自分の体に付いた傷を見る
「……神聖ノーワ帝国……いい国ですね」
「私の国とは大違い……初めて潜入して驚きました」
「誰も口にはしませんでしたが……一緒に潜入した仲間も同じ様に思ったはずです」
少し悲しそうな顔をしてカリナが言う
「……ごめんなさい……貴方の仲間の人を殺しちゃって……」
アデレーナが小さな声で言うと
「仕方がありません……過ぎた事ですし……」
「急編成のチームだったので、あの二人事は良く知らないんです……」
「そんな事言わなくても、アデレーナさんにはすべてお見通しですよね……」
カリナが少し笑いながら言う
「そうですね……貴方が嘘を言っていない事は分かります」
「そして、今、考えている事もね……私……この能力が嫌いなんです」
「人の心が読めるなんて最悪ですよ……本当に……」
アデレーナが思いつめるように言うと
「そうですか……そんな能力があれば、私の国なら一生安泰ですよ」
「どんな嘘でも見抜く……周りの人からは煙たがられるでしょうけど……」
カリナも少し笑いながら言う
「いづれ……ダルキア帝国はこの神聖ノーワ帝国に攻め込んでくるでしょう」
「その時、貴方はどうしますか」
アデレーナが難しい選択をカリナに迫る
「……」
カリナは何も言わなかったが
「それで、いいと思いますよ」
ニッコリと笑いながらアデレーナが言う……私には分からなかったがアデレーナが納得できる答えだったのだろう
「……本当に最悪の能力ですね……」
カリナも笑いながら言った
私はそんな二人の会話を間近で見ていて、アデレーナって本当は立派な聖職者なんだなって感心して見直しアデレーナ株は急騰した……と思っていたら……
「ねえねえ……エレーヌさんっ……エレーヌさんっ!」
「カリナさんって、この作戦が終わったらセレスティナさんに結婚申し込むつもりだったんですよっ!!」
「これって、"完全に死亡フラグ"ですよねっ!」
「ダルキア帝国って、同性でも婚姻が可能なんですって!!!」
「その条件として、それなりの功績を上げなければならないんですって!」
「今回の作戦は困難だけど褒賞が凄いからカリナさんが自ら志願したんですよ!」
「この褒賞でセレスティナさんと結婚する気だったようですよっ!!」
アデレーナはカリナの秘め事を次々に暴露していく……慌てふためくカリナをよそに
「そ・れ・か・ら……この二人……もう、ヤっちゃってますよ!!!」
「この作戦に参加する前に……"もう、帰れないかもしれないから"とか言ってセレスティナさんとヤっちゃってるんですよっ!!!」
「いいなぁ~っ 羨ましいっ!!」
「でもねっ……エレーヌさんっ! 二人とも緊張しちゃって……」
アデレーナはカリナの人には絶対に知られたくない恥ずかしい最重要機密を暴露しようとする
「もうっ止めてっ! お願いっ! それ以上は言わないでっ!!!」
「何でも言う事きくからっ! お願いします!!! アデレーナさまっ!!!!」
顔を真っ赤にして泣きそうな顔でアデレーナの口を塞ごうとする
そんな、アデレーナを見ていると……私のアデレーナに対する評価は一気に暴落した
"やっぱり、こいつはただの性悪の変態女だっ!!!"と思った
他にもカリナには知られたくない秘密が多くあるらしく……これ以降、カリナはアデレーナの下僕となったように従順になった……
同時にカリナは逃げようとする気配も全く無くなり、この小屋でアデレーナの従者として一緒に暮らすようになって平穏な時が流れて行った
だが……ダルキア帝国と神聖ノーワ帝国を取り巻く状況は急変していく事となる
ほどなくして三カ国同盟を攻め滅ぼした皇帝バルドゥイノは三カ国同盟国を併合し平定した後に当初の計画通りに次に神聖ノーワ帝国に兵を送る事を画策する事となる
遂に、大陸を二分する大戦が勃発する可能性が高くなってきつつあるだった
第十四話 ~ 終わり ~
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