第11話

第十一話


 業火が私の周りを取り囲む、私は魔法を発動させる……"何だか、懐かしい感覚がする"

 一瞬で炎が消え去る


 「嘘でしょ! 今の私の全力よっ! エレーヌ……アンタの防御魔法は、ホントっ強力ねっ」

と光の中で誰かの声がする


 「でも、封印魔法の方は全然かなわないよ」

私は誰かに話しかける


 「それに、エレーヌの防御魔法はそのまま攻撃魔法にも応用が利くからお得よね」

光の中にぼんやりと顔が浮かぶ


 「そんなこと言ったら、封印魔法も最強の防御魔法の無効化魔法にそのまま応用が利くじゃない」

私は、彼女にふてくされたように言う


「そうかもねっ "衝盾の魔女"さんっ……」

と彼女は私にそう言うと光の中に消えていく


 「それ酷いな~っ、私はちゃんとした人間だよっ!」

 「それも、貴方なんかよりずっと、か弱い女の子なんだからねっ!」

私は光の中の人影に向かって言う


 「そうね……そんな事、よ~くわかってるわよ」

そう彼女が言い残すと、光は消え暗い闇が私のを包み込む



 「エレーヌさんっ……エレーヌさんっ……」

私を呼ぶ声がする、ぼんやりと人の顔が目に映る


 「あ~あ~アデレーナ……なの……」

私は小さくうめくような声を出した


 「そうです、アデレーナ……です」

 「大丈夫ですか、うなされるようになにか寝言を言ってましたけど」

徐々に頭と目が冴えてくるとアデレーナの顔がハッキリと見える


 「また、昔の記憶が少し戻ってきたみたい……」

私が呟くように言う


 「そうですか……"異界の門"を封印する時にかなり無理をしていたようなので、心身に負荷がかかって何処か悪くなったんじゃないんでしょうか」

心配そうな目でアデレーナが私を見る


 「心配させてゴメン……大丈夫だよ」

 「そろそろ、帰らない」

そう言って私は立ち上がろうとするが足元がフラつく


 「あっ! やっぱり、もう少しここで休みましょうっ!!」

フラついた私を慌てて支えようとしたアデレーナが叫ぶように言う


 「魔力を使い果たしたからね……」

 「私、"封印魔法"はあまり得意じゃないから」

そう言うと立ち上がって"異形の者"達が置いていった箱の方に歩いていった


 「ちょっと! 無理しないでくださいっ!」

慌ててアデレーナが私を追いかけてくる、その後ろからポチもゆっくりと付いてきた


 私とアデレーナは背丈ほどの箱の前に立つと顔を見合わせる


 「開けてみますか」

アデレーナは不安そうに私に同意を求める


 「うん……開けてみようか」

私が同意すると二人で箱の蓋の端を掴んで持ち上げた


 箱の中には、厳重に固定されて石板のような物が入っていた

 よく見ると石板の長さは170センチ、幅は60センチ、厚さ50センチぐらいの灰色で石板というより石柱のようだった


 「本当に石だね……」

私が箱の中の石柱を見ながら言うと


 「そうですね……本当に石ですね」

 「でも、困りましたね……どうやって小屋まで運びましょうか」

 「剣とランプのような物はリユックに入りますけど」

アデレーナは困ったように言ながらリュックに剣とランプのような物を詰め込もうとしている


 「そうだね……重そうだし、動かすだけでも大変そうだね」

私はそう言うと箱の底を持って重さを確かめようとするとゴソッと箱が動く

 「あれっ……これ、以外に軽いみたい」

私が驚いたように言うとアデレーナも箱を持ち上げようとする、箱がスッと持ち上がった


 「本当ですね……二人だけでも余裕で持ち上がりますよコレ」

二人で箱を持ち上げてゆっくりと落とさないように外へ出る


 「運び出すには運び出せたけど……」

 「この山道をどやって小屋まで持っていくかだね」

私は箱を地面に下ろすと目の前の山道を見ながら言う


 「大丈夫です……いい方法が思いつきました」

アデレーナがそう言ってにっこり笑うと

 「ポチ……おいで」

と言うと、重そうな足取りでポチがアデレーナの方に寄って行く

 「ハイお座り……伏せっ!」

アデレーナに言われるままにポチは地面に伏せた

 「エレーヌさん、この箱をポチに括り付けて運んでもらいましょう」

私はアデレーナの言う通りにポチの背中に箱をロープで結びつける


 ポチが恨めしそうな顔をして私を見ている

「そんな顔してこっち見ないでよ」

思わずポチに小声で話しかけると

 「クゥ~」

と悲しそうに泣いた……少し気の毒に思ったがポチなら余裕で運べると思う


 すると私のお腹も

「グゥ~」

と鳴った


 「私もお腹ペコペコですよ……二日ほど飲まず食わずですから」

 「こんなに長引くと思っていなかったので食料は殆ど持ってきていないんです」

 「帰ったら、まず食事にしましょうね」

そう言うとアデレーナはリュクの中から水筒と保存食を取り出すと手渡してくれる


 「ありがとう……」

二人で少しばかりの食事を済ませた……私たちを恨めしそうに見るポチの視線が刺さるように痛かった、と言うよりもポチが襲い掛かってきそうで怖かった


 「ごめんねポチっ……小屋に帰ったら狩りに出ていいからね」

恨めしそうに私たちを見るポチをアデレーナが慰めている

 「小屋に帰る途中に、また盗賊が出てくれればポチも食事ができるのにね」


 恐ろしい事を言うアデレーナを横目に私は今までどれぐらいの盗賊がポチのエサになったか疑問に思いながらもそれは聞かなかった


 ポチには気の毒だったが帰り道では盗賊に出会うことなく小屋へ到着した


 ポチは背中の箱を下ろしてもらうと森へと姿を消していった……アデレーナはそれを見送ると

 「私たちも食事にしましょう」

と言うと、保存食を出してくる

 「たいしたものはありませんが、どうぞ」

テーブルの上には、焼しめたビスケット、干し肉、蜂蜜、干したイチジクの実、ワインなどが並んでいた

 「頂きます」

二人して手を合わせると無言で黙々と食べた、少し休憩してから温泉に浸かる


 「あ~っ、ホントに温泉はいいわね~」

 「癒されるわ~」

私が肩をすくめて脱力感に浸っていると


 「やっぱり、エレーヌさんの胸には"ノーワの刻印"がハッキリと浮かんでいます」

 「この温泉には何か特別な力があるのかもしれません」

 「後で、箱の中の石柱にも少しか浸けてみれば何かあるかもしれません」

アデレーナが私の胸を見ながら言う


 「大丈夫かな……アデレーナ、壊れたりしない……」

心配そうに私が言うと


 「……壊れないという、保証はないですが……」

少し考え込むとアデレーナが自信なさそうに言う


 温泉から上がる頃には日も暮れて辺りも暗くなってきていた


 「ポチはまだ帰ってこないの」

私が訪ねると


 「かなり森の奥くまで行っていると思いますよ」

 「この近辺には、もう大物は居ないと思います」

 「ポチには気の毒ですけど、そのおかげで商人も旅人もこの辺りはとても安全に往来できるのです」

そう言うとアデレーナは温泉上がりに一杯の水を飲み干し別のグラスに次いだ水を私に手渡してくれた


 「ありがとう……」

私は、グラスを受け取ると水を飲み干す


 「少し早いですが、もう、寝ましょうか」

アデレーナが空になったグラスを両手に持つと

 「とっておきのワインがあるんですけど、"異界の門"解決のお祝いも兼ねて飲みます」

私の方を見てニヤリと笑う


 「えっ! そんなのあるのっ! 飲む飲むっ!!」

私は嬉しそうに言う


 「じゃ! ちょっと待っててくださいね」

と言うとチェストの中からワインを出してくる

 「半年ほど前に大司教様から頂いたものです……王室御用達の上物ですよ」

眉毛を上下にヒクヒク動かしながら私にボトルを見せつける


 「ゴクリ……」

思わず生唾を飲み込む私を横目にアデレーナはボトルの栓を抜く

ポンという音と共にいい匂いがしてくる


 アデレーナがグラスにワインを注ぐと私に渡してくれる


 「乾杯~」

二人でそう言うとワイングラスを軽く当てる……カンという心地よい音がする


 「あ゛~っ゛! うまいっ!」

私が思わず声を上げると


 「エレーヌさん、オッサンみたいですよ」

とアデレーナが言う


 別に話をするわけでもなく笑いながら晩酌のようだった

 ボトルが空になるとお互いのベッドに入って眠りに就いた

 

 

 私が、ベッドに入って暫くするとランプの薄暗い灯の中にアデレーナがベッドの横に立っているのに気が付いた

 「どうしたの……」

私がアデレーナに訪ねる


 「……」

アデレーナは何も言わずに私を見ている


 「飲みすぎて、気分でも悪いの」

私がベッドから身を起こして心配そうに言うと枕元のランプの灯を大きくした


 「……気分は悪くありません……」

 「私……不安なんです……」

 「朝になったら、エレーヌさんが石になってたり……いなくなってたりしないか」

そう言うと涙を流す


 「どこにも行かないし、石にもならないよ」

そう私が言っても涙を流し続けている


 「……一緒に寝よっか……」

私はアデレーナを自分のベッドに入るように横を開けた


 アデレーナは何も言わずに私のベッドに入ってくる

 少し体が冷たかった

 「体が冷たいよ、いつからいたの」

と私が小声で尋ねると


 「分かりませんが……1時間ぐらいかな……」

と小さな声で言う


 「そんなに前から……いくら何でも風邪引くよっ!」

私はびっくりして少し声を大きくしてしまう


 「……」

アデレーナはかにも言わず私に抱きついてくる、なんかいい匂いがするがその体は冷たかった

 

 「こんなに冷えちゃって……」

私もアデレーナをギュッと抱きしめる

 

 「私……エレーヌさんに言っておかなければならない事があるんです……」

そう言う私を見て話始めた


 「今まで秘密にしてきましたけど……私、人の心がある程度読めるんです」

 「読めると言っても、何もかも全て読めるのではなくて……物凄く強い感情や欲望とか、そう言った強い人の思いが読めるんです」

 「この能力は初めからではなく一年ほど前に"神の神託"を受けた時ぐらいからです」

 「教会で、この事を知っているのは大司教のテオドラ様だけです」

 「教会の人たちの思いが分かるようになると、私は重度の人間不信と対人恐怖症になりました」

 「それが、こんな所に一人で住んでいるの本当の理由です」

 「こんな心を読む人間なんて気持ち悪いでしょう……」

そう言うと、私に抱きついている手にギュッと力が入る


 「知りたくもない教会の修道女たちの憎悪や欲望の感情が分かちゃうんですよ」

 「表向きの顔は普通でも、あの人嫌いとかねたましいとか憎悪が分かる……」

 「逆に、修道女たちの無償の行為というか……その……まぁ……愛というか……」

 「そう言ったのも分かっちゃうんですっ!」

 「あの人とあの人がヤっちゃってるとか……あの人があの人の事が好きだとか」

凄く恥ずかしそうな声で話す


  「えっ! 私の心も丸見えなのっ! 」

と慌ててアデレーナに問う


 「いいえ、何故かエレーヌさんの心だけは全く読めないんです」

 「私からワザと色々と仕掛けてみましたが全く読めませんでした」

 「その度に、オッパイ掴まれたり、全身電気マッサージで昇天させられそうになっただけですよっ!」

 「おかげで、私の"異界の門"が開いて変な癖が付きそうですし」

少し笑いながら言う


 「……あの……アデレーナ……この状況で……どさくさに紛れてお尻触るの止めてくれる」

と私が呆れたように言うと


 「いいじゃないですか……お尻触るぐらい……減るもんじゃないですし」

 「何なら私のお尻も触ってくださって結構ですから」

 アデレーナが開き直ったかのように言う


 「……そう……じゃ、遠慮なく」

アデレーナの不埒な行動を少し戒めるつもりでアデレーナのお尻を撫でまわす


 「えっ! あっ! ちょっと! はっ♡! あっあんっ💛!」

アデレーナは、初め私の対応に驚いた様子だった……アデレーナのお尻って"柔らかくて丸みがあって触り心地がいい……"


 「ほれ、ほれ、どうしたのアデレーナさんっ」

私は意地悪そうにお尻を撫でまわしながら言う


 「あっ💛! あはっ💛! あっ~っ💛! 気持ちいい~💛!! もっと触って💛!!」

アデレーナは体を捩じらせて悶え息を荒くして私を潤んだ目で見つめると

 「ホントに大好きですっ!」

そう言うと私にいきなりキスする


 「ふぐっ!」

アデレーナの予想もしない反応と行動に私の体が固まる


 「ちょっと! アデレーナっ! どうしたのっ!」

軽い悪戯のつもりだったのに……私はアデレーナの反応に焦ってしまった

 「ごめんっ、悪乗りしすぎたよっ!!」

 「しっかりしてっ! アデレーナっ!! 正気になってっ!!!」

私は必死にアデレーナを正気に戻そうとする


 「……私……正気ですよ……初めてエレーヌさんに会った時から好きでした……見た瞬間にビビッて全身がしびれたんです」

 「これでも、"聖女"だから今までずっとずっと自制して生きてきたんですよ……でも、"異界の門"の事も無事に解決できたし」

 「今まで死ぬのが役目みたいに生きてきて、少しぐらいはご褒美があってもいいじゃないかと思いません」

 「神様のエレーヌさんは、悩める子羊を救う義務があるんです」

 ムチャぶり全開でアデレーナは今までの不満を愚痴るように私にぶつけると私の無い胸に顔をスリスリする


 「もうっ! アデレーナっ!!」

アデレーナに言うと私の胸に顔を埋めたまま震えるような小さな声で


 「……やっぱり、嫌ですよね……気持ち悪いですよね」

 「私も、初めて教会の修道女たちの愛の実態を知ったときはそうでしたから」

 「ごめんなさい……今日の事は忘れてください……」

そう言うとアデレーナはベッドから出て行こうとする


 「待って……アデレーナ……」

 「きっ!今日だけだよっ!……ホントに今日だけだからねっ!!」

そう言って私はアデレーナの手を握ると恥ずかしそうに言う


 「私を受け入れてくるのですか……エレーヌさん……」

アデレーナは私に飛び付いてきた


 思ったより遥かにその後のアデレーナは激しかった……

 ポチの舐め回し攻撃よりも数倍は強烈だった……

 "異界の門"を封印するよりアデレーナの"欲望の門"を封印するまで方が体力を消耗したと思うのであった


 第十一話 ~ 終わり ~

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