第10話
第十話
途中で盗賊に襲われたりしたが無事にピレウスの遺跡に到着した
私は、自分が眠っていた場所に戻ると魔法で開けた穴から中に入っていく……アデレーナも私の後に付いて一緒に入ってくる
ポチは外で待機しているようだった……たぶん、見張りをしているのだと思う
「確か、以前はこんな所に穴なんて無かったと思うのですが」
「真っ暗で何も見えませんね……ランプを用意します……」
「暗くて……ランプどこだったかな……」
アデレーナが少し気味悪そうに言う
「この穴は、私がここから出るのに開けた穴なんだよ」
「ランプはいいよ」
そう言うと私はライティングの魔法を発動する……私の掌に光が現れ、見る見る部屋の中が明るくなっていく
「えっ! それ何ですかっ! 」
アデレーナは私の掌の明かりを見てびっくりしている
「これは、ライティングっていう魔法だよ」
歩きながら、私は自分の掌を見ながら言うと
「魔法ですか……私には神の御業にしか見えません」
「やっぱり、エレーヌさんは神様なんですよ」
アデレーナはそう言うと私を尊敬するような眼差しで見ている……何だか、ちょっと照れくさかった
ライティングの光を頼りにリュックからランプを取り出すと火打石で火をつけると辺りを照らす
「あった……これが、私が眠っていた石棺だよ」
古ぼけた石棺を指さすと、アデレーナは興味深そうに石棺を調べ始める
「何か分かるの……」
石棺を調べているアデレーナに問いかける
「う~ん、ただの石棺のようですね」
「別に何の文字とかも刻まれていませんし、中にも何も残ってませんね……」
「う~ん、排泄物の痕跡もありませんし、本当にこの中で千年も眠っていたんですか」
考え込むように私に問いかける
「私もよく分からないけど、目覚めたのは確かにこの石棺の中だったよ」
「蓋されてて出るのに苦労したけどね」
そう私が石棺の中を見ながら言う
「えっ! 目覚めた時には蓋されてたんですか」
「その蓋はどこにあるのでしょうか……」
私に蓋の事を聞いてくる
「確か、中から手で滑らせてずらせたから石棺の横に落ちてるはず」
私はそう言うと石棺の横を探すが蓋が見当たらない
「あれっ……おかしいな、確かこちら側に滑らせたはずなのに無いな」
私が蓋が落ちているはずの所を探しいてると
「あ~、何となく分かりました」
「エレーヌさんは石になってたんですよ……多分……」
「と言うより……石にされて眠らされていたんですよ」
アデレーナが突拍子も無い事を言う
「へっ……石って……」
私が間の抜けたような反応をすると
「二年ほど前の話ですが、一度だけ実例があるんですよ」
「礼拝の蔡中に教会の祭壇にずっと飾られていた鳥の石像が本物の鳥になって飛び出したことがあるんです」
「あの時は、そりゃもう大変でしたよ……伝承は本当だったて……」
「結局、外に逃げちゃいましたけどね……」
「その後、国を挙げて必死に探したんです……聖鳥を探せって……で、それっきりですね」
そうアデレーナが言うと私を見て
「エレーヌさんは、何処にも行かないで下さいね」
小さな声で何かに願うかのように言う
「どこにも行かないよ、私には他に行くところが無いからね……」
笑って答える
ライティングの効力が切れランプの灯だけになると急に部屋の中が暗くなる
「術が切れちゃったね、もう一度発動させるね」
私はもう一度、ライティングの魔法を発動させようとした
「ちょっと、待って下さい」
「光ってます……」
そう言って私が首から吊るした手鏡を指差す
私が下を向くと首から吊るした手鏡の鏡面が胸元で青白く光を放っている
「光ってるね……」
そう言って私は手鏡を手にする
「ランプの灯も消します」
アデレーナはランプの灯を吹き消した
真っ暗な部屋の中でぼんやりと青白く発光する手鏡の鏡面をアデレーナが覗き込む
「何もないですね……光っているだけです」
手鏡を手に取って調べるアデレーナを見ているとあることに気が付く
「アデレーナ……あそこ……」
「あそこの壁だけぼんやりと光っていない」
と言って私がアデレーナの後ろの壁を指差す……私が目覚めた時にかなり念入りに調べたけど、何も無かったはず……
二人でゆっくりと光っている壁に近付いて行く
手鏡が"キィーン"と響き始める、思わず耳を塞いでしまう程の音だった
すぐに音は収まったが手鏡は青白い光を失い、壁も同じように光を失ない辺りは暗闇に包まれた
「真っ暗になっちゃったね」
私はライティングの魔法を発動させると周りが明るくなった
「えっ!」
目の前の壁に丸くて黒い渦巻きのような穴が空いている
「まさかっ! これが!異界の門"なの……」
そう言いながらアデレーナが近付いて行く
「ダメだよっ! 迂闊に近づいちゃ!」
私は慌ててアデレーナの手を掴むと引き寄せる
「あっ! ごめんなさい……私……」
アデレーナが私の手を強く握り返した
アデレーナの肩を抱きしめる
"どうしょう……こんなの見たことないよ……"私は心の中で呟く
すると、アデレーナが私を振り切って"異界の門"の前に立つと私の方を振り返る
……その優しい目には涙が浮かんでた
「私の使命を果たします」
「今まで、ありがとう……短い間でしたけど楽しかったです……エレーヌさん」
そう言うとアデレーナは腰の剣を抜いて自分の胸の心臓の上辺りに剣先を当てる
「待ってっ!!! 早まっちゃダメだっ!!!」
私は大声で叫ぶとアデレーナに飛び掛かり剣を持つ手を抑える
「早くしないと、"門"から"異形の者"達が攻め込んできます」
「今なら、私一人の命で何とかなるんですっ!!」
そう言いながら私を振り払おうとする
"待タレヨ……我ラニ敵意ハナイ……”
"剣ヲ収メラレヨ……"
漆黒の穴の中から不気味な声が響いてくる
私とアデレーナは体が凍り付いたように動きが止まる
二人で震えながら穴を見る……
漆黒の穴の中から何かが姿を現す……数は三つ……
「ひぃっ!」
アデレーナは手にしていた剣を地面に落とすと小さな悲鳴を上げ、私にしがみ付く
"モウ一度言ウ……我ラニ敵意ハ無イ……"
漆黒の穴から現れた者は伝承の通り"異形の姿"をしていたが全く敵意を感じなかった
私は僅かばかりの勇気を振り絞り"異形の者"に話しかける
「あなた方は、この世界を侵略するつもりなのですか」
後から考えれば、余りにも恥ずかしいほどのストレートな質問だったが、異なる世界の住人に対しては、変な言い回しをするよりは良かったのかもしれないと思う
"侵略ノ意思ハ全ク無イ"
"今ハ千年前トハ違ウ……"
"千年前ニ悪シキ王ノ野望ノ為ニ、コノ世界ニ攻メ入ッタ事アル"
"貴方ガタノ力デ悪シキ王ハ滅ンダ今ハ大変平和……我ラ感謝シテイル"
"貴方ガタノ仲間、我ラノ地デ悪シキ王ノ呪イ受ケ石ニサレタ"
"コノ地ニ返シタイト思ウ……"
そう言うと大きな箱のような物が漆黒の穴から出して私の前に置いた
"コノ中ノ者ハ千年、我ラ大切ニ守ッテキタ"
"悪シキ王ノ呪イ千年ホドデ解ケル"
"コノ門ノ封印ハコチ側ラカラハ解ケナイ……
"我ラ戻リシ後ニ再ビ閉ジラレヨ"
"最後ニ1ツ忠告アル、コノ地ニ未ダ悪シキ王ノ思念ヲ感ジル、注意サレヨ"
そう言うと後ろの者が長い箱を差し出し箱の蓋を開け真っ黒な短剣と不思議な形のランプのような物を取り出す
"コノ剣、思念ヲ断チ切リ滅ボス、コノ灯火、悪意ヲ照ラシ出ス"
"本来、我ラガ成スベキ事……貴方ガタニ願ウ"
"我ラ、コノ地ニ長ク留マレズ……コレニテ、コノ地ヲ去ル事ヲ許サレヨ"
そう言うと再び漆黒の穴の中へと姿を消していった
私とアデレーナは、呆然とそれを見送るだけだった……
少し間が空いて
「本当に帰っちゃいましたね……」
アデレーナが気の抜けたような声で言う
「うん……帰っちゃったね……」
私も間の抜けたように返す
「どうしましょうか……この穴……」
アデレーナが壁にポッカリと空いた漆黒の穴を指差して言う
「アデレーナの"聖女"の力で何とかならないの」
と私がアデレーナを見て言うと
「ちょっと待って下さいっ! せっかく命拾いしたのに死ねと言うんですかっ!」
アデレーナは涙を流しながら訴えるような目で私を見る
「う~ん……この手鏡、もしかしたら……」
私は手鏡を手に取ると魔力を込める
"キィーン"と言う高い音が響きだすと壁の穴が揺らぎだす
「この手鏡って封印の魔鏡なのかも……」
私は更に魔力を注ぎ込む……壁の穴が徐々に小さくなっていく
まだ魔力が足りない、ありったけの魔力を注ぎ込み続ける……
「はあっ、はあっ、はぁっ、ふんっ!」
フラフラになりながらも魔力を注ぎ込む
「エレーヌさんっ! 無理しないでっ! 」
「向こうに攻めてくる気が無いのならこのままでもいいじゃないですかっ!」
私の腕にしがみ付くと止めさせようとする
「もう少しっ! もう少しなのっ!」
私はそう言うと、更に魔力を注ぎ込む
壁の穴はスッと消えてなくなった
「やった……何とか封印出来たか……」
意識が遠のき地面に倒れたのが分かる……アデレーナの顔がぼんやりと見える
"エレーヌさんっ! エレーヌさんっ! 聞こえますかっ! "
アデレーナの声が反響するように聞こえる
そのまま、私は意識を失った
何かフニフニする……気持ちいい……
「エレーヌさんっ! 気が付きましたかっ」
私はアデレーナに膝枕されていた……ランプの光にアデレーナの疲れた顔が浮かび上がる目にはうっすらと隈が出来ていた
「ここは……」
意識がまだハッキリしないが気を失っていた事は理解できる
「石棺の部屋です……」
「"異界の門"を閉じられてから眠りっぱなしで心配しました」
「本当にまた千年間の眠りに就くのかと思いました」
目には薄っすらと涙が浮かんでいる
「ごめんね、心配かけちゃって魔力を使い果たしちゃったみたい」
「どれぐらい寝てた……」
と私が問いかけると
「丸一日ぐらいでしょうか……」
アデレーナが弱々しく笑って言う
「ずっと、寝ずに膝枕してくれてたのっ!」
私が慌てて問うとアデレーナは小さく頷く
「アデレーナも少し横になりなよ」
私は起き上がるとアデレーナの横に座る
「さあっ、どうぞ」
そう言って私はアデレーナを引き寄せると膝枕した
「そんな事しなくても……私は……大丈夫です……」
そう言うとアデレーナは動かなくなってしまった……スースーと寝息をたて始める
私は、アデレーナの頭を撫でると私の膝に抱きつくような態勢で寝ている、それを見ていたら私もまた眠くなってきた……
ふと横を見るとポチも寝ている……私はポチに寄り掛かると再び眠りに就いた
第十話 ~ 終わり ~
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