第9話

 第九話



 "異界の門"とその向こうの住人の記憶が戻り動きが止まってしまった


 「どうしたんですか……エレーヌさん、急に固まっちゃって……」

 「エレーヌさん~ホレ、ホレッ、ツンツン……」

と言いながらアデレーナが私のオッパイを突っついた


 「あっ……アデレーナっ!!」

私が突然、声を上げる


 「ヒィ~! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

とアデレーナが怯えたように謝る


 「……思い出したよっ! "異界の門"の事!」

私が言うと、何故かアデレーナはがっかりしたような表情をする

 「……どうしたの、そんな顔して……」

私はアデレーナのどうでもよさそうな冷めた反応に驚いていると

 "……お仕置き……しないのかなぁ……今度はどんなのか、ちょっと楽しみにしてたのに……"

アデレーナの心の呟きが聞こえてくる


 "こいつって……何考えてるのか本当に分らんっ!!!"

と思いながらもアデレーナを救う手掛かりを掴めるような気がする私だった



 温泉から上がりパンと干し肉とワインという簡単な夕食を食べていると、アデレーナが私の方を見て

 「明日は、エレーヌさんが眠ってたピレウスの遺跡に行くのですよね」

 「ここからだと一時間程かかりますけど……何か必要な物とかあります」

と私に聞いてくる


 「特に何もないよ……この手鏡だけあればいい……」

そう言って私はテーブルに置かれた手鏡を見て言う


 「そうですか……さっき言っていた"異界の門"の事、話して頂けます」

 「事実を知るのは、エレーヌさんだけだと思いますから……」

と小さな声で言うアデレーナの表情は何処か怯えているようだった


 「怖いの……アデレーナ……」

私がアデレーナを見つめて言うと


 「……はい……もし、門が開かれれば……」

 「"神"を倒すほどの物凄く強力な力を持った者たちが襲ってくるのでしょう」

 「この事を知っているのは、極の一部の人たちだけですから……」

 「国民には知らされていませんし、教会の人も知りません……」

 「知ったところで恐怖に怯える事しか出来ません……それなら何も知らない方が……」

 「私も……テオドラ様から、この事を知らされたのは一年前に神託を受けた時なんです」

ワインの入ったグラスを持つアデレーナ手が少し震えているのが分かる


 「千年前はそうだった……」

 「この世の者とは思えない異形の姿をした者たちが突然、攻め入ってきた」

 「今……攻め入られたら……防げないと思う……あの時に戦った人々はもうこの世界には、いないから……」

 「だから……門が開く寸前に私のありったけの魔力を叩き込む」

 「そうすれば何とかなると思う……千年前、ラミアはそうして門を封印したと思う……」

そう私が言うと


 「ちょっと待って下さいっ!」

 「そんなことしたらっ! エレーヌさんがっ!! エレーヌさんがっ!!!」

泣きそう顔をして私を見る……手にしていたワインの入ったグラスが倒れテーブルにこぼれたワインが広がっていく

 「そんなのっ! 絶対に嫌っですっ!!!」

 「そんなのだったらっ! 私がこの血を以て門を封印した方がマシですっ!!」

アデレーナが私の手を握って涙をボロボロと流す

 テーブルの下にいるポチがガサガサ動くと"クオーン"と小さく鳴く……


 「大丈夫だよ……死なないから……また、千年ほど眠っちゃうかもしれないけどね……」

私は大した事がないように軽く笑って言う


 「もし、眠っちゃったら……私っ! 寝てるエレーヌさんにいっぱい色んな事しちゃいますよっ!」

「それでもいいんですかっ!」

そう私に言うとアデレーナ顔が少しいやらしそうにニヤける


 「ははははは……そうなんだ……」

 「だったら、絶対に眠れないね……」

 "こいつなら、本当にやりかねない……"私はアデレーナの表情を見て本当に寝ちゃだめだと思った



 私は食事が終わると素直に眠りにつこうとする

 "そうだった、ベッドが一つしかないんだった……仕方ないか、ポチと一緒に床で寝るか"そう思っていると


 「エレーヌさん、ベッドはもう一つ奥の物置に予備がありますから用意しますね」

そう言うとアデレーナは物置のある方へランプをもって行ってしまった


 "もう一つあるなら、初めっから用意して欲しかったな……"

などと思っているとアデレーナが戻ってくるとリュックの中から丸めて押し込んでいたシーツと毛布とランプを取り出した 


 「この前はベッドの予備があったんですけど、シーツと毛布の替えが無くて……」

 「物置ですが狭いし、埃っぽいですが今日はゆっくりできますよっ」

そう言うと、また物置の方に行ってしまった


 「ありがとう」

私は物置に方に行くアデレーナにお礼を言った


 「ベッドの用意が出来ましたよ……そろそろ寝ましょうか」

そう言うとアデレーナは予備のランプに火を灯すとそれを手にして自分のベッドのある部屋に歩いて行った


 私はアデレーナの後姿を見送るともう一つのランプを持って物置の方に歩いていく

 ベッドに横になると毛布に包まった……頭の中でいろいろ考える……

 "仕方ないか……寝よっ"

私は小さく独り言を言うと眠りについた


 少し寝てふと気が付くと横に何かがいることに気が付く、"暖かい……ポチか……"そう思って体を寄せるとフニッっとした感触がする

 "あれっ"っと思いよく目こらして見ると……アデレーナが横で寝ていた

 私は、ちょっとびっくりしたがアデレーナは小さな寝息をたてている


 "……いつの間に潜り込んだんだ……きっと、不安なんだろうな……"

叩き出すのは止めようと思っていると、寝ぼけて私に抱きついてくる

 "もうっ……仕方ないなぁ……"


 私が少し体を横にするとアデレーナは私の胸に顔を埋めるとスリスリする

 "ちょっと……くすぐったいっ……でも……柔らかくて暖かくて気持ちいいな……"


 何だか、私も人肌が恋しくなってくる……アデレーナの頭を少し撫でる

 「んっん~……」

小さな声を出すとギユッと抱きついてくる

アデレーナの寝顔を見ていると何だか、小動物みたいで可愛いような気がしてくる


 暫くそのままでいた……すると、アデレーナの手が徐々に私の背中からお尻に伸びていくとゆっくりと撫で始める

 「アデレーナ……お前……起きてるだろう……」

と私がささやくように言うと、"ビクッ"とアデレーナの体が反応してお尻を撫でていた手が止まると、小刻みに体が震えだした


 「もうっ! ほんとに仕方ないなっ……今日だけだよ……」

と私が呆れたように言うと、アデレーナがむくっと顔を上げるとギラついた目で私を見る


 「ほんとですかっ! 今日だけならいいんですかっ」

と言うと甘えるようにすり寄ってくる


 「ちょっとっ! あんまり変なことしないでよ」

と私が言うと私の胸に顔を埋めたままで話し出す


 「……私って、こう見えても"聖女"なんです……ですから……その……男の人とは出来ないんです……その……教会の修道女たちもそうですが……男の人とアレが出来ないんです」

 「初めて会ったときに話したと思いますが……他の修道女は改姓して結婚も出来ますが……」

 「"聖女"の私は一生、処女のままでないといけなんです……だから……私の恋愛に異性との選択肢は無いんです」

 「仕方がないですけどね……でも……何だか、このまま一生を終えるのは何だか、寂しくて……私ってホントに自分勝手ね」

 「ごめんなさい……迷惑で気持ち悪いでしょう……」

そう言うとアデレーナは黙ってしまった


 「"異界の門"を私が封印出来たら"聖女"しなくてもいいの」

私が問いかける


 「どうかな……分かりません……」

そう言うと本当に眠ってしまった

スヤスヤと寝息をたてて寝ているアデレーナを見ているうちに私も眠ってしまった



 「んっん~っ」

私が目覚めると目の前にアデレーナの顔がある

 「うわっ!」

びっくりして飛び起きると


 「おはようございます、エレーヌさん」

 「朝食の用意が出来ましたよ」

そう言うとテーブルに座るように手招きするので私は言われるままに椅子に座る

 「昨日はありがとうございました」

私のグラスに水を注ぎながら何気なく言う


 「お礼を言われるほどの事じゃないよ」

と私がちょっと堅くなったパンをかじりながら言う


 たいした会話もなく食事を終えると私は手鏡の穴に紐を通すと首から吊るした

 アデレーナはチェストの中から短剣と防具を取り出すと身に着ける、リュックに荷物を詰めると私の方を見る

 「こっちは準備出来ました、エレーヌさんはどうです」

とリュックの口を縛りながら言う


 「うん、私もいいよ」

と言うとアデレーナは私の服装を見てちょっと慌てる


 「エレーヌさんっ! そんなのでいいんですか」

 「短剣と防具なら予備がありますよ、使います」

と心配そうに言う


 「大丈夫だよ、私には剣も防具も必要ないよ」

そう言うと手のひらに炎の球を浮かび上がらせる


 「凄いっ! 流石"衝立の女神"ですね」

アデレーナは私の掌の火球をじっと見ている


 アデレーナはリュックを背負うとテーブルの下のポチの方をみると

 「ポチっ一緒に行こうね」

ポチは"クォ~ォ~ン"と遠吠えをするとアデレーナの後に付いていく……



 森の中を二人で歩くポチは姿を隠しながら付いてきているのが気配でわかる


 「お嬢さんっ、何処に行くんだいっ!」

突然、五人の汚らしい男が前に飛び出してくる

 

 「少し用件がありましてピレウスの遺跡に参る途中です」

 「すいませんが先を急ぎますので通してもらえませんか」

とアデレーナが丁寧に対応する


 「そうはいかねえなっ!」

 「身包みぐるいで丸裸にした後でゆっくり楽しませてもらうぜっ!」

 「ひっひっひっ」

気持ちの悪い笑い声を出しながら剣を手に近付いてくる


 「あなた方は盗賊なのですか」

とアデレーナが平然と問いかける


 「そんな事、見りゃ馬鹿でもわかるだろうがお嬢さんっ!」

盗賊のかしららしきが馬鹿にしたような口調で言うと


 「ポチっ食べてもいいわよ」

とアデレーナが平然と言う


 「お嬢さん……恐怖で気がふれたのかい、可哀そうに……」

 「ぐっひっひっ」

 「何が、ポチたっ!!」

盗賊の頭が少ない台詞を言いきる前に体の上半身が無くなっていた


 「えっ!」

私も盗賊も何が起きたのか分からずに呆然としている、事態が分かっているのはアデレーナだけだった


 「ぎゃあ!」

と言う悲鳴が聞こえるともう一人の盗賊の頭が無くなり首から血が噴き出している

 「何なんだ これっ!」

と残りの盗賊が混乱していると

 

 「うげっ!」

また、悲鳴が聞こえると今度は下半身を食いちぎられた三人目の盗賊が地面に内臓をぶちまけて痙攣けいれんしている


 「何しやがったっ! このあまっ!!」

と怒鳴り声を上げて四人目の男がアデレーナに剣で斬りかかる

 「ぎゃあ~っ!!!」

剣を振り上げた手が腕ごとごっそり無くなっていた肩口から噴き出る大量出血に失神して倒れる


 「ひぃっ!」

五人目の男は腰を抜かして失禁し小便をちびったまま這って逃げようして振り返る……そこには口を血で真っ赤に染めたポチが立っていた

 「せっ! 聖獣っ!!」

そう言った瞬間に悲鳴を上げる間もなく頭から丸かじりにされた


 "バリッ! バリッ! ボリッ! ボリッ!" っとポチは口から血を垂らし盗賊の骨を咬砕く音を出しながら片腕を失って呆然としている盗賊に容赦なく襲い掛かる

 盗賊は成す術もなくポチに引き裂かれて生肉の塊になった


 「ポチっ! 残しちゃダメよっ! 美味しくなくても全部食べてねっ!」

普通に表情を変えることもなくアデレーナはポチに話しかけている

 

 「あがっ~」

余りに突然で凄惨せいさんな出来事に私は開いた口が塞がらない

 「アデレーナ……いいの……こんなことして」

と私が呆気にとられたように聞くと


 「いいんです、神聖ノーワ帝国では"火付け・盗賊"は大罪、どのみち死刑です」

 「それも、市中引き回しの上に獄門、磔、斬首の後に晒し首です」

 「ポチの餌になったほうがよっぽど楽に死ねますよ」

そう言うとポチが全部残さずに食べるのを待っている


 「行きましょうか」

ポチが食べ終わると何事も無かったかのように歩き出す


 "あんな森の中で若い女が一人でいても何もないのかと心配したけど……なるほど……そういうことか……みんな、ポチの餌になっちゃったんだね"


 前を歩くアデレーナの大きなお尻を見ながらポチがあんなに大きくなれたの原因を理解するのだった……


 そして、ポチの前でアデレーナを虐めるのはやめようと心に固く誓うのであった



 第九話 ~ 終わり ~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る