第5話

  第五話


 「朝ですよ、エレ-ヌさん……」

 と言うと声で目が覚めた……"アデレ-ナ"がに屈むような態勢で私の顔を覗き込んでいた……"お~い! この角度だとパンツ丸見えだぞっ"と心の中で呟きながら、知らないフリをする 


 「ふあっ……おはようございます」

 私が眠い目を擦りながら起き上がる……横には"ポチ"がまだ寝ている


 「朝食の用意が出来ていますよ」

 と"アデレ-ナ"がにこやかに私に言う……"何だか、不気味なぐらい機嫌がいい"


 「ありがとう……」

 私は大きな欠伸をしながら両手を上にあげた姿勢で体を伸ばした……そのまま起き上がると椅子に座る、テーブルには、パン、果物(リンゴのような物)、干し肉のスライス、水の入ったグラスが置かれていた


 「いただきます」

 と言うと食べ始める……"アデレ-ナ"が私を見ながらニコニコしている……

 「どうしたの……食べないの」

 と私が問いかけると


 「昨日の約束、覚えていますよねっ」

 "アデレ-ナ"が円満の笑みで私に話しかける……"あ~、あの事か……"と私が心当たりのあるような顔をすると


 「うっうん、覚えてるよ」

 と私は少し躊躇ためらったように答えると"アデレ-ナ"は安心したかのように食べ始める


 「期待してますからねっ!」

 と私に期待の眼差しを向ける……"なんだか心苦しいな……"と思いながら朝食を食べ終えた


 「片付けが終わったら聖都にご同行願えますか、大司教様にお会いして頂きたいのです」

 と食器を片付けながら"アデレ-ナ"が私に言う


 「いいよ、私も大司教様に会っていろいろ聞きたいことがあるし」

 と答えると……足元で"ポチ"がムクッと起き上がり"アデレ-ナ"の方に近付づいていく


 「ダメよ、貴方はお留守番っ!」

 と"アデレ-ナ"が言うと"ポチ"はガッカリしたように再びテ-ブルの下に潜り込むと寝てしまった……なんだか可哀そうな気がするが仕方がない……


 「そうそう、そこに置いてある服に着替えてくださいね」

 と言うとベッドの横のチェストの方を指す、そこには畳んで衣服らしいものが置いてあった……私は、今着ている服を脱ぐと言われた通りに着替える


 「よくお似合いです……凄くカッコイイですっ!」

 と言うと私の服の襟元を直し髪の毛を櫛で梳かしてくれる……修道士のような白のワンピ-スの上に膝下まである刺繍の入った白のフ-ド付きのロ-ブを羽織らせてくれた、背中には見たことも無い紋章が入ってる

 「うんっ! 何処から見ても凄いイケメンですよっ!!」

 と言うと私の胸をジッと見ている


 「何か、私の胸に付いてる……」

 と私が不思議そうに尋ねると


 「いいえ、からいいんじゃないですか……」

 と言うと私の胸をもう一度、ジッとみると大きなため息をついく

 「あ~っ、勿体ないな~っ、こんなにカッコイイのに……超イケメンなのに……胸なんて殆ど無いに……殆ど男なのに……」

 と小声で呟いた


 「ふぎゃーあああっ!」

 朝の森に"アデレ-ナ"の悲鳴が鳴り響いた、"ポチ"が一瞬こちらを見たが欠伸をするとまた寝てしまった


 私に掴まれた胸を押さえて床にうずくまるアデレ-ナに

 「じゃ、聖都に行きましょうか、アデレ-ナさんっ」

 と私がにこやかに言う


 「う~っ、胸を掴むのはもうやめてくださいっ!」

 「ホントに凄く痛いんですよっ!、エレ-ヌさんには分からないと思いますがっ!」

 と私に胸を押さえながら涙目で抗議するよう言う


 「アデレ-ナさ~ん、"私には分からないって"どういう事かな~」

 と私は"アデレ-ナ"に円満の笑みで問い返す


 「ひっ! そっそれは……それは……」

 "アデレ-ナ"の顔が引きると血の気が引いていく


 「"アデレ-ナ"よ、汝は一生を一人身で終えるがよい」

 と私が意地悪そうにそれらしく言うと

 

 「ひぃ~っ! それだけはご勘弁を"衝立の女神"様っ!!」

 「なんでもしますからっ! それだけはお許しをっ!!」

 と床にひれ伏すと土下座する


 「嘘だよっ」

 と私が笑って言うと


 「そんな、恐ろしい啓示を出すのは金輪際こんりんざいしないで下さいね」

 「胸を掴まれるよりよっぽどキツイですからっ」

 不貞腐ふてくれたようにブチブチ言いながら立ち上がり服の膝に着いた汚れを払う

 「さあ、聖都へ行きましょうか」

 「これ以上、しょうもない事で時間を潰せませんから」

 と言うと家のドアを開け私の方を見る……私はローブのフ-ドを被るとドアの方に向かって歩き出した



 「聖都までは遠いの」

 と私は疲れた口調で"アデレ-ナ"に問いかける……もう、森の中を三十分以上は歩いている


 「そうですね……もうすぐ聖都の裏門の入り口に出ますよ」

 と"アデレ-ナ"は言うと立ち止まり前を指さす……その先には城門らしきものが見えていた

 「裏門から、教会まで十五分ぐらいですよ……」

 と言うと再び歩き出した



 裏門に差し掛かると門番の兵士数人が私達の前に立ちふさがる


 「何者だっ!」

 と一人の兵士が厳しい口調で言うと、"アデレ-ナ"は被っていたロ-ブのフードを外す


 「これは、アデレ-ナ様っ! 大変失礼をいたしました」

 「どうぞお通り下さい」

 と兵士は急に態度を改めると私の方を見て

 「そちらの者は……」

 兵士の一人が"アデレ-ナ"に問いかける


 「私の連れです、怪しい者ではありません」

 私を見ながら"アデレ-ナ"が兵士に言うと


 「分かりました、お通り下さい」

 兵士は、私にも礼儀正しく挨拶をし道を開けてくれた、私もペコリと会釈をすると"アデレ-ナ"の後ろについて歩き出した



 聖都の中を歩いているとすれ違う人々が"アデレ-ナ"さんを見ると会釈して道を開けてくれる……その光景を見て

 「アデレ-ナさんて本当に高位聖職者だったんだね」

 私が意外そうに言うと


 「失礼ですねっ! こう見えても教会では序列第三位なんですよっ!」

 と少し自慢げに言う……"ただの嫁に行き遅れそうなお姉さんじゃなかったんだ"と心の中で呟いた


 「ここです」

 と言うと"アデレ-ナ"が立ち止まる


 私も立ち止まる……そこには巨大な教会がそびえていた

 「ここが"聖・衝立の神殿教会"です」

 と私に言うと複雑な彫刻の施された荘厳な入口の横の門を叩く……

 「私です、アデレ-ナです、大司教様にご面会したいことがあります」

 「門をお開け下さい」

 と言うと……ギッギギーッと音を立てて門が開く


 「どうぞ、お入りくださいアデレ-ナ様」

 門の中から声がすると灰色の修道服に身を包んだ数人の若い五人の修道女が出迎えてくれる……私が門を潜ると直ぐに門は閉じられた


 「そちらの方は……」

 真ん中の修道女が私を見て言うと残りの四人の修道女がヒソヒソと騒めく……すると

 「アデレ-ナ様、ここは男子禁制です、たとえアデレ-ナ様のご命令でも男を入れる訳にはまいりません」

 と淡々とした口調で私を見て言う


 「フッフフフフフッ……」

 それを聞いた私は不気味な笑い声を出す……そんな、私を見て"アデレ-ナ"の顔から血の気が引いていく

 

 「だっ! ダメですっ!! アレクシアっ!!」

 と"アデレ-ナ"は必死になって真ん中の修道女(アレクシア)に向かって言う


 「何がダメなのですか、教会が男子禁制な事はアデレ-ナ様もご存じなはずです」

 と淡々と口調で何の疑いも無く私の事を男と言い放つ


 「グヒッグヒヒヒヒヒヒッ」

 自分でも気持ちの悪い笑い声が出て来る……それを聞いた"アレクシア"は


 「やだっ! 何て気持ちの悪い下品な声で笑うのかしら……この男っ!!!」

 とさげすむような目で私を見る


 「あわっ……あわわわわわっ」

 その様子を見てと"アデレ-ナ"をは完全にパニック状態になる……次の瞬間


 「パ-ジッ!」

 容赦なく私は魔法を発動させた……一瞬にして五人の灰色の修道服は消えてなくなり丸裸になる

 「えっ!」

 五人とも何が起きたのか分からず暫く呆然としていたが、自分達が丸裸になっている事に気が付くと

 「キャーッ」

 と言う五人の悲鳴と共に胸と股間を手で隠して床にへたり込んだ……それを見ていた"アデレ-ナ"の表情が"あ~あ~やっちまった"という表情に変わる


 「なっ何ですかっ! これっ! 何で私達、丸裸になってるんですかっ!」

 とアレクシア達は、なにがなんだか分からずにパニックになっている……


 騒ぎを聞きつけた他の修道女達が集まってくると私達を取り巻く……その内の何人かが裸の五人にロ-ブをかけている

 「何事ですかっ、この騒ぎは」

 その中から声がすると上品そうな感じの、歳の頃なら六十代後半の老女が前に出て来る

 

 「だっ大司教様っ! 私ですアデレ-ナです」

 「是非とも、大司教様にお会いさせたい者がおりまして森を出てまいりました」

 "アデレ-ナ"は片膝を付いてお祈りをするようなポ-ズで言う


 「私に会わせたいというのはこの者か」

 と言うと私の方を見る……とても暖かい目だったが、その中には強い意志が感じられる


 「初めまして、私は、"エレーヌ・ブノワ"と申します」

 「ここにおります、"アデリーナ・アルベリーニ"の導きによりここに推参いたしました

 」

 「因みに、私は男ではありません……れっきとした女にございます」

 私は、礼儀正しく自ら名乗る……すると、大司教の顔付きが優しそうな表情に変わる

 そして、フ-ドを外して顔を上げる……周りの修道女達がざわめく


 「そうですか……私は当教会の大司教を務めさせていただいている、"テオドラ・サマラス"と言います」

 「私に、何か御用が御有りならばあちらの方で聞かせていただきます」

 と言うと私に付いてくるように目で合図する……私は、素直にその後に付いていった



 教会の一室に通された、私とアデレ-ナは装飾の付いた豪華な椅子に案内され座るとテーブルを挟んで反対側に大司教の"テオドラ"が座った……修道女がお茶を持ってくる


 「私にどのような御用が御有りですか」

 と私に問いかける"テオドラ"を見て"アデレ-ナ"が今までの経緯を話し出す……それを聞いた"テオドラ"は何も言わずに黙り込んでしまった


 暫くの沈黙の時間が流れる……


 「間違いなく胸に"ノーワの刻印"があるのですね」

 と"テオドラ"が"アデレ-ナ"に念を押す


 「はいっ! 確かに、間違いありません!!」

 と確信したように力強く言った


 「……まさか、本当に伝承の通りだとは……まさか……」

 と何か困ったように"テオドラ"が呟く……その様子を私は注意深く観察していた


 この大司教の名前は、"テオドラ・サマラス"……ならば、もう一人の"神"である神聖皇帝と何らかの繋がりがあるはずだ……もしも、血縁関係があるならば魔術師の資質があるはずと思い注意深く"テオドラ"の力を探る……


 そして"この人は、魔術師ではない"事を確信すると    


 「失礼ですが大司教様は神聖皇帝様と何か縁が御有りでしょうか」

 と問いかける


 「はい、私は先々代神聖皇帝の妹です」

 と私の目を見て問いに答える

 "そうか、ならば今の神聖皇帝も魔術師でない可能性が大きいな"と思った


 「貴方は、伝承にあるように奇跡を起こせるのですか……」

 と"テオドラ"がやや困惑気味に私に問いかける


 「奇跡ですか……たとえば、こんな事でしょうか」

 と言って、手元にあったお茶のカップを錬成術で皿に錬成する


 「うっ! ……」

 "テオドラ"の温厚そうな表情が一気に厳しくなり固まる

 「どうやら……本当に伝承にある"衝立の女神"のようですね」

 と呟くと戸惑うよに言うと暖炉の横に飾られた女神像に目をやる……

 それを見ていた"アデレ-ナ"が私と女神像を見比べて


 「ホントに全然、体型も顔も違いますよね……全くの別人ですよね」

 と大きくうなずきながら感心したかのように言う……


 「アデレ-ナさん~」

 と私はにこやかに言うと"アデレ-ナ"は背中を丸めて両手で胸を隠す


 「パージ」

 私は何の躊躇ためらいいもなく魔法を発動した"アデレ-ナ"は一瞬で丸裸になった


 「きゃぁ~!!!」

 「ちょっと! 酷いですよっ! こんな所でっ!!!」

 両手で大事な所を隠してモジモジしている


 その様子を見ていた大司教"テオドラ"は呆気に取られていたが、暫くして笑い出した

 「ワッハハハハハッ……」

 そして、笑い終えると私に向かって

 「間違いないようですね……貴方には"聖城"に赴き先代神聖皇帝に会って頂きます」

 と言うのだった


  第五話  ~ 終わり ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る