第2話


  第二話


 私は、暫くの間呆然としていた

 

 「グゥ~ッ」

とお腹が鳴る……そりゃまあ、千年も飯食ってなきゃ腹も減るわな……と思いながら神殿ある丘を降りると、すぐ横の森の中に入っていった


 「夜の森って何だか……不気味だな……」

と小言を言いながら歩いていく

 ……そのまえに……このキャバクラ嬢みたいなこの服を何とかしないとね……、森の中に落ちている物から錬成術で衣服になりそうなものを拾い集めると"リビルト"の魔法でなんとかワンピ-ス風の服を錬成し、そそくさと着替えた


 「こんなものかな……」

と自分で身なりを確認すると再び歩き出した、森の中には何か食べられるものがあるはずだ……そのまま、歩いていくとボンヤリと灯りが見えてくる

 

 "こんな所に人が住んでるのかな"と思い灯りの方に向かって歩いていく……そこには小さな山小屋のような家があり煙突からは煙が上がっている


 "人がいる"……私は躊躇わずにドアをノックする

 「はい!」

と若い女性の慌てたような声がするとガチャっとドアが開いた

 「どちらさまでしょか……」

ドアを少しだけ開けて隙間からこちらの様子を窺っている


 「あっあっあのっ……私っ、"エレーヌ・ブノワ"と申します」

 「夜分遅くに失礼いたします……実は、迷子になりまして困っています」

 「助けてもらえないでしょうかっ」

と焦ったように言うと頭をペコリと下げた


 "ガチャ"っとドアが開くと私と同じぐらいの年の女の子が出てきた

 背の高さは私と同じぐらいの長い黒髪の優しそうな少女だった……"胸は私よりも大きいっ!"

 「女の子がこんな所で迷子になっては、さぞや心細かったでしょう」

 「むさくるしい所ですがどうぞお入りください」

と言うと私を家の中へ招き入れてくれた


 「ありがとうございますっ!」

と私は泣きそうな声で言うとホッとして力が抜ける……その瞬間

 「グウ~ッ!」

とお腹が大きな音を立てた……私は慌ててお腹を押さえる……


 「随分とお腹が空いているようですね」

と言うと少女はクスッと笑う……そして、恥ずかしそうにお腹を押さえている私を見て

 「大したものはありませんが何か食べますか」

と私に優しく問いかけてくる


 「うっうっう~ありがとうっ!」

私は"なんていい人なんだろう"と心の中で感謝した


 「あっ! 申し遅れましたが、私は"アデリーナ・アルベリーニ"と申します」

と言うとペコリと頭を下げた

 「こちらにどうぞ」

と言うとテーブルの前の椅子を引き私を手招きをする


 私は、椅子に座ると安心したようで何だか眠くなってくる……ふと足元を見ると何かがいる……それをジッと見ていた私の顔が青ざめる

 「げえっ! せっせっせっ聖獣っっっ!!!」

椅子から滑り落ちると腰が抜けたように床にへたり込む


 「あらっ、言い忘れていましたわっ」

 「この子、人に慣れていますから何もしませんよ」

と"アデレ-ナ"が言うとテーブルの下でうずくまっていた聖獣に手を出す……すると、うずくまっていた聖獣がムクッっと起き上がり"アデレ-ナ"の手をペロリと舐めると頬ずりする


 「ほらねっ! 大丈夫でしょう」

と"アデレ-ナ"が言うと聖獣が低い声で"グォ~"っと鳴く……体調は2メートル近くある……こんなのが居るのに全く気が付かなかった……完全に気配を消していたんだ……


 「ヒィ~ッ! 嘘ッ!!」

私は、床にへたり込んだままその様子を見て引き攣ったような声で言う


 私だけでなく殆ど全ての人間は聖獣にご対面すると同じような反応をするはずだ

 この世界で最も強力な力を持った生物……それが聖獣である

 全身を灰色の針のような毛で覆われたデカい犬のような外見をしたこの生物は強大な魔力を持ち殆どの魔法攻撃と物理攻撃を跳ね返す、一頭で一軍に匹敵するほどの凄まじい攻撃力と防御力を誇り……滅多な事では人に懐いたりしないはず……

 "こんな化け物を手なずけるなんて……この娘なんて子なの……"

私は、そう心の中で呟いた……


 私の様子を見ていた"アデレ-ナ"が少し悲しそうな表情で私の方を見る

 「皆、この子を怖がるんですよね……普通に接していれば何もしないのに……」

と自分の手に頬ずりをする聖獣に目をやった


 「もしかして……貴方がここに一人で住んでいるのはこのせい」

と私が恐る恐る問いかけると


 「そうです……町だと皆が怖がって……仕方なくここに越してきました」

 「この子は、幼体の頃に私が森で弱って死にかけているのを見つけて保護して育てました」

 「初めは、オオカミの子供だと思っていたのですが……いつの間にかこんなに大きくなりまして……」

 「たとえ聖獣でも、こんなに懐かれると……ねぇ……」

と言うと聖獣を愛おしそうに見る


 "この人、博愛主義者なんだ……つうか、こんなに大きくなるまでに普通は気付くだろっ!"

と心の中で思いながら、私は"アデレ-ナ"を見ていると


 「あっ! そうそう、何か食べるもの用意しますね」

と言うと小走りに暖炉にかかっている大鍋の方に行く……暫くすると自分の分と私の分の二人分のパンとス-プと乾燥肉それに果実を用意してくれて


 「大したものはありませんが、どうぞお召し上がりください」

と私に笑顔で食べるよう言う


 「それじゃ……遠慮なくご馳走になります」

と言うと私はがむしゃらに口に詰め込んだ……その姿を見て"アデレ-ナ"嬉しそうに微笑んでいた


 「あ~っ! 美味しかったっ!! ありがとう」

と私はお礼を言うと


 「そんな事ありません……いつも食事は一人なので賑やかで楽しかったです」

 「それに、聖獣もあまり気にしていないようですし……」

と私を見て言うと微笑む


 「あっ! そうだった……お腹がすきすぎて聖獣の事を忘れてたよ」

と私が恥ずかしそうに笑いながら言うと……テ-ブルの下に寝ていた聖獣がムクッと起きると私の方に近付いてくる


 「へっ……まさかっ! 私を食べる気なの……今のご飯は私を美味しく頂く為の餌だったの」

と私は、近付いてくる聖獣と"アデレ-ナ"を交互に見ながら焦って言う


 「まさか……違いますよ……この子、貴方の事を仲間(家族)だと思っているようですよ」

 「ちょっと……激しいですが我慢してくださいね」

と"アデレ-ナ"が微笑むと聖獣が私に飛び掛かってきた


 「ヒィ!」

と私は小さな悲鳴を上げると同時に床に押し倒される……聖獣は私の顔をペロリと舐める

 「ヒィ! やっぱり食べるんだ……」


 私は、恐怖にグッと目をつむる……聖獣の様子がおかしい……次の瞬間、私の体を舐め回す

 「えっ? なんなの」

 「ちょっと! なにっ! あっ! そこダメッ!!」

 「ホントにそこはダメッ!!」

必死の私の抵抗も虚しく聖獣は私の体を隅々をくまなく猛烈に舐め回す

 「ヒッヒッ! 擽ぐったいっ!! やっやっ止めてっ!!!」

 「あんっ! あっ! あんっ! もう勘弁してっ!!」

 「たっ助けてっ! "アデレ-ナ"っ!!」

聖獣に体中のあんな所やこんな所を舐め回されて悶絶しながら、私の助けを求める声を聴いても"アデレ-ナ"は、にこやかに微笑んでいた


 どのぐらい、舐め回されたのだろうか……私の意識がなくなるぐらい舐め回すと聖獣は私の横に横たわり寝てしまった


 「終わりましたよ……"エレーヌ"さん」

ともうろうとする意識の中で"アデレ-ナ"の声が聞こえた


 「いっ一体何だったの……今の……」

と私は"アデレ-ナ"に尋ねる


 「アレはね、聖獣が貴方を家族の一員として認めたって事なのよ」

 「聖獣は、家族単位で行動するのよ私が貴方に食事を出したから家族が新しく増えたって思ったのね」

 「あの、猛烈な舐め回しは聖獣が貴方を家族だと認識するための儀式のような物よ」

と嬉しそうに言う


 「そっそうなの……で"アデレ-ナ"もやられたの……」

と尋ねると

 

 「私の場合は小さいころからずっと一緒だったからね……あそこまで激しくはなかったわ……」

 「それより、体中ベタベタのようだしお風呂に入った方が良いんじゃない……」

 「それに、もう遅いからここにとまっていってもいいわよ」

と"アデレ-ナ"が言うので私は好意に甘えることにした……


 これが、一人と一匹の相棒との出会いの始まりだった……



 ~ 第二話 ~  終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る