~ 目覚めたら石棺の中 ~   

ひまじん

第1話

  目覚めたら石棺の中   ~ 第1話 ~ 



 私は、暗闇の中で目を覚ました


 私の名前は、"エレーヌ・ブノワ"十七歳、ピレウス高等白魔術学園に通う花の女子学生のはずなんだけど……どうも記憶がはっきりしない……と言うか記憶がないっ!

 

 ここは、何処なんだろうと思い体を起こすと"ゴチッ"と頭に固い物が当たった

  

 「いたぁ~!なにこれっ!!」

と思わず声を上げる……焦って手足を動かすと石造りのとても狭い所に閉じ込められ居てることが分かった


 両手で上下左右の壁を手で押すと上の壁が"ゴリッ"という音を立てて少し動く

 そのまま、満身の力を入れて壁を手で横に滑らせるように少しづつ動かしていく


 彼是、汗だくになりながら押し続けること三十分ぐらい"ゴトッ"という音と共に上の壁が下に落ちるような音がする……


 「はあっ!、はあっ!、か弱い女子にはけっこうきついわねっ!」

と肩で息をしながら私は、恐る恐る体を起こし周りを見回す……周りも真っ暗闇で何も見えない


 「ライティング」

と呪文を唱えると辺りが明るくなる

私がゆっくり辺りを見回し自分が石造りの広い部屋の真ん中に置かれた石の棺の中に閉じ込められていたことに気付く


 「何なのこれっ!」

と声上げると周りの壁に声が反響し山びこのように響き渡る


 とにかく、こんな所は嫌だから立ち上がると自分が丸裸だという事に気が付く

 「エッ~、何でスッポンポンなのよっ!」

 「これじゃ、外に出れないじゃないのっ!」

いちおう年頃の乙女の私は、大事なところを手で隠すと再び石の棺桶に身をしゃがめ周りに人がいないかを確認する


 「よしっ!誰もいないっ!!」

と自分に言い聞かせると周りを気にしながらゆっくりと石の棺桶から外に出る


 辺りを見回すと地面に木の棒切れがいくつも落ちている

 「あれで何とかなるかなぁ~」


 私は、その棒切れ四、五本を拾い集めると錬成呪文を唱える

 「リビルト」


 棒切れは光の粒となった後に徐々に一か所に集まつまり茶色い物体となり地面にそっと落ちる

 私は、出来上がった茶色い物体を手に取ると

 「こんなものかな」

と言ってその茶色い物体を頭から被るように着ると

 「まぁまぁねっ、ちょっと、地味で肌触り悪いけど……贅沢は言えないわ」

棒切れはワンピ-スのような服になっていた


 何を隠そう実は私は、魔法の実技は学園一なのだっ!


 「さてと……次は出口ね……どこかにあるはず」

 「大概は、ここら辺の壁の辺りに仕掛けがあったりするものね」

と一人事を言いながら部屋の中を探し回る



 探し回る事、一時間余り……あれっ!出口らしきものが見当たらないっ!!

 ヤバい、ヤバい……このままだとここで飢え死にじゃないのっ……と最悪の事態が脳裏をよぎる

 「グウ~ッ」

とお腹の音が部屋の中に響きわたった


 "どうする、どうする……こんな所で爆裂魔法は危険すぎる、下手すりゃ天井が崩れてきてペシャンコになる"

 "ペシャンコなのは、私の胸だけで十分よ……て言うかこれ以上、ペシャンコになったら困るわよっ!!"

 と混乱した私の脳味噌は自虐的に現実逃避を始める


 ウジウジ考えていても仕方がないっ……この至近距離だと危険だけどやるしかないか……

 両手を合わせると上級魔法の詠唱を始める

 「……岩をも溶かす、業火となれっ……プロミネンス」


 と叫ぶと同時に強烈な炎が槍のように石積みの壁を溶かして穴を開けていく

 猛烈な反射熱が私に降り注ぐ

 「あちっ!あちっ!」

と私は体中を手でさすりながらのたうち回る


 暫くすると空いた穴から薄明りが差し込んでくる

 「やったっ! 上手くいったっ!!流石、私~っ!!!」

と自分を褒める……が……んっ!!

 「ギャ~! 燃えてるっ! 燃えてるっ!!」

 自分の服に引火して燃えている事に気が付いて焦る……

 原料が木だから紙みたいな服……そりゃ、景気よく燃えるわなっ……そんなこと言ってる暇ないわいっ!!!

 「水っ! 水っ!!」

 「レッ……レイン」

と叫ぶと、頭から豪雨が降り注いだ


 火は消えたが、服も奇麗さっぱり流れ去り、私はずぶ濡れで再びスッポンポンになった ……

 「……クシュン……」

とクシャミを一発すると、スッポンポンで再び残っている僅かな木の棒切れを集めて同じように錬成術で服を新調する

それを着てみると、原料不足でスカ-トの部分が短い……

 「うえっ! 屈むとお尻が丸見えじゃん……」

 「それより、早く学園に戻ろう……」

と、スカ-トの後ろを気にしつつ空いた穴から外に出た、外に奇麗な月が出ていた


 「あ~っ! 空気がうまいっ!!」

と言うと両手を組んで大きく伸びをした瞬間"グキッ"という嫌な音がした

 「ヴッ……こっこ腰がっ……」

 「何なのこれっ……バァバァみたいじゃない……」

 「なんか……体中が痛いような……これって筋肉痛……」

と言うと私はその場にうずくまる……あうっ……お尻がスースーする……

 暫くして痛みが弱まってくるとから周りを見回す、雲間から月明かりが漏れてくると背後の小高い丘にぼんやりと廃墟が浮かび上がってくる


 「えっ……これって……ピレウス神殿じゃないの……」

 「間違いない……どうして……」

私の後ろには、崩れかけ廃墟と化した巨大なピレウス神殿が月明かりの中で草木に覆われて建っていた


 私は、呆然として神殿に向かって歩いていく……何か憑かれたように神殿を隅々まで探し回る


 そして、神殿の前に真新しい石碑を見つけた……そこには……


 "我らが祖、ノワの神殿"

 "神聖にて不可侵なる者"


 神聖歴1525年  神聖皇帝 ゲオルギオス・サマラスⅤ世


 と刻まれていた……

 「神聖歴1525年って私の住んでた時より1000年も未来じゃないのっ!」

 「これって、どういう事……私、1000年も石の棺の中で寝てたの……」

 「……クシュン……寒っ……私これから、どうすればいいの……」

 

 神殿の廃墟の建っている小高い丘から下を見下ろすと海だったはずのところに人家の灯りらしきものがたくさん見えた……そしてその後ろに大きな城が見え、その向こうに海の海面が月明かりを反射してうっすらと輝いていた


私は月明かりの下、その場に立ったまま神殿の廃墟を吹き抜ける風にスカートが煽られながら呆然とするだけだった……


 "あ~、お尻がス-ス-する……"

 "お腹も減ったな……これからどうしよう……"



 ~ 目覚めたら石棺の中 ~   第1話 ~ 終わり ~

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