大は小を絶対に兼ねない

 小さな人・・・営業マン。共感性が高く、相手の感情の機微に神経を張り巡らせる余り、中々営業成績が伸びない。


 大きな人・・・小さな人と同じく営業マン。相手の気持ちを考えることがない為、狩猟のように営業活動をこなし、成績は上々。



 大きな人には自身の歩みが大股である自覚はほとんどない。それは大きな人が常に前を向いて進み、その大きな足の裏で蓋をする、地面の細く入り組んだ路地とそこを歩く小さな人の存在をほとんど気にしないからだ。大きな人は自分と小さな人を比較したりはしない。

 

 しかし小さな人はそうはいかない。小さな人は陰に覆われる度に卑屈な気持ちに苛まれている。大きな人の足は天井を作るだけで小さな人を潰すわけではないから恐怖は覚えないが、なぜ自分はこのように細かいところを少しずつしか歩めないだろうと自己嫌悪に陥っている。

 

 小さな人は決して大きな人にはなれない。それはそもそもの種類が違うからだ。つまり大きな人も小さな人になることはできない。


 以前、珍しく大きな人が眼下に意識を向け細い路地を穿り返し小さな人を摘み上げて、


「お前なんでそんなちゃっちいところでチマチマやってんの?俺みたいに全部無視して越えて行けばいいでしょ」

 

 と言ったことがあるが、小さな人は苦虫を噛み潰したような面の上に冷や汗をかくことしかできなかった。

 

 小さいことの理由を聞いても相手が答えなかったので、大きな人は仕方なく、


「細い路地でしか見られない景色もあるんだろう」

 

 と思うことにした。


 大きな人は、時折その景色のことを想像して、小さな人が羨ましくなるが、歩みの速さとは天秤にかけるまでもないので、小さくなろうとは思わない。


 しかし小さな人は、大きな人が時々とはいえ自分を羨んでいることだけを喜びに、今日も綺麗ではない道を進むのだ。

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