多くの、そして一人の経済

 王見余一は仕事帰りに酒屋に寄ったものの、買い物を渋っている。何故なら王見余一の給料はこのところ益々低くなっているのに、消費税の割合は上がり続けているからだ。


 結局、王見余一は何も買わずに酒屋を後にした。


「ありがとうございました」


 王見余一の背中にそう声を掛けた店主も、王見余一だった。何故なら資本主義社会の国の住人は皆、貨幣価値という接着剤によって同一化しているからだ。


 王見余一は閑古鳥の鳴く店内で深々と溜息をついた。この頃売上は減ってゆく一方だった。王見余一には「値下げをする」という解決方法があったが、どちらにせよまた財布が寂しくなることは明白だった。王見余一はうんざりとした気持ちを味わいながら、消費税率が上げられ続ける現状に対して怒りを覚えた。

 

 しかし王見余一には、怒りの明確な行き場所がないように思えたので、激情は次第に沈静化してゆき、最終的に諦念で幕を閉じた。王見余一は、せめて自分が養わなくてはならない非生産人口が自分達への感謝を忘れずに、また謙虚に振舞っていることを望んだ。

 

 税金によって生活が支えられている対象もまた、王見余一だった。大見余一は酒屋に行こうとさえ思わない程、生活に余裕がなかった。時折通帳を印刷し直しては、この頃更に減ってゆく支給額を目の当たりにして首を絞められそうな思いに駆られていた。そしてその大きなストレスは、未来に限りがある王見余一に余裕を失わせてゆき、王見余一に迷惑行為をさせる一因となっていた。また王見余一は不満からよく、とある発想をしていた。それは政府の人間達が自分達庶民から金を搾り上げて裕福な暮らしをしている。というものだった。

 

 しかしルールの作成者達も例に漏れず王見余一なのだった。王見余一は政府の予算と自分の給料が減ってゆくことに頭を悩ませていた。そして支給額の下降線をせめてなだらかに保つ為に、また消費税を上げるしかない。と考えていた。それが王見余一達の給与を下げ、結果的にまた徴収する富を減らすことになると分かっていても、王見余一は「時代」を理由に悪循環を止めることの根本的な要因については考えなかった。王見余一は過去に王見余一達の消費を促す為の政策を幾つも打ち出したが、どれも不発に終わっていた。最早王見余一には悪循環の前で佇むことしかできなかった。



 一度店を出たものの、王見余一は戻って来て、酒を買った。


 それが全てに対する一応の解決策だった。

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