天狐さんの観察


 稲田真白は震え上がっていた。

 九尾をあっさりと滅してしまったのが、スピンクスと呼ばれた猫……

 どう見ても、吉川姉妹は本当の姉妹ではない……


 上の二人は間違い無しに神に近いが……その中でも上下関係があるようで、吉川美子……この女が主……しかも……姉と呼ばれるものとは、間違い無しの愛人関係……

 多分下の二人も、この美子の愛人なのだろうと思った……


 あの時、こう言われた……

「代価が入りますよ」

 そしてこうも言われた……


「私は別にこの星のものなど欲しくは無いし、なにより、この星の生死を私は決めることができます」

「はっきり言えば、私が欲しいものは問答無用で手に入りますよ」


 この言葉に間違いはない……

 天狐である稲田真白であるが、神以上の存在に出会った気分である。


 千里眼を持つといわれる天狐であるのに、吉川姉妹については何一つ解らない……

 しかも九尾の滅しかたが凄すぎる。

 多分、あの猫にとっては片手間だったのだろう……


 そもそもあの九尾は、空狐に近い存在だった……

 稲田真白では敵わない存在だったのだ……悪神だった……


 果たして吉川姉妹は悪なのか……だったらこの世界は終わりであろう……

 代価を支払えばいいのか……

 しかし欲するものは、問答無用で手に入るという……


「一番大事なものとなりますよ」

 私にとって一番大事なもの……

 愛人関係……色がものをいうのだろう……

 価値観が違うのだ……

 相手は神さまなのだ……やはりもう一度会いに行こう……


 受話器をとって、あるところへ電話を始めました。

「変な喩えですが、相手は神様よりさらに神様でしょう、私たちを救える力はお持ちの様です」

「ただ代価として、一番大事なものを幾つか差し出さねばならないと思います」


「そう……多分、巫女の犠牲が必要でしょう……それは私が……そう……あの娘たちも……」

「確実に助けてくれるか談判に行きます……そう、最後には……空狐様が……お覚悟が必要かと……」


 翌日の日曜日、朝から稲田真白は、吉川姉妹が住むマンションに出かけることにしました。

「あら、稲田先生、何の御用ですか?」

 ドアを開けたのは吉川茜。


「今日はクリームヒルトとヴァランティーヌは、一緒に文房具を買いにいったのですが?」

 とも言いました。


「じつは……」と口ごもると、美子が出てきて、

「お話を伺いましょう、姉さん、このかたは天狐さんですよ、昨日の一件を気にしておられるのですよ」


「あぁ、あの九尾、スピンクスが自薦したのよ、ちゃんと手加減したでしょう」

「確かにね……でも危なかったのよ、周りを転移させかけていましたから……」


「いいじゃない、貴女がいたのだから、スピンクスが暴走しても、ちゃんとするでしょうし」


「あの……」

「稲田先生、どうせ代価とか云ったのでしょう、美子は真面目ですからね……」

「確かに代価が必要なのですが、チャラにしてあげますよ」


「代価なんて貰うと面倒な事になるから、それとも美子、この綺麗な先生を抱きたいの?」


「嫌ね、姉さんは、大事なクリームヒルトの先生を抱いてどうするの!」

「ここは『蓬莱』よ、百合は歓迎されないわよ!」

「それに私は、この星のことなどに介入はしたくないの!」

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