ある日の出来事


 バスが目的地につきます。

 細い参道の周りには、お土産物を売るお店が軒を連ねています。

 四姉妹の、妖精と呼ばれる下の二人と、お友達の三人は大はしゃぎ、参道はまるで夜店が並ぶ、お祭り状態ですからね……


「茜姉様、甘酒がある!」

「どこどこ!」

 茜さんも、少女に混じって大はしゃぎ、走って行ってしまいます。


「稲田先生、甘酒、子どもにいいのですか?」

 と、美子が聞きますと、まぁ構わないとのことでした。

 しかし、その前に飲んでいましたよ。


「姉さん、お代は誰が払ったの?」

「クリームヒルト」

 なんと茜さんは、妹におごってもらっていたのでした。


「まったく……これからは妹におごってもらうことは、無いようにお願いします」

「クリームヒルト、困った姉に無心されたら、私にいいなさい、姉といえどキツく叱っておきますから!」

「わかったわ、美子姉様」


「ねえ、クリームヒルト、あそこにたこ焼きがあるわ、今度は私がおごるわよ」

「みんなも一緒におごってあげる、この茜さんに任せなさい」


 わぁわぁ、きぁきぁ、そのうるさい事……

 後ろから歩く美子さんの、眉間の皺が深くなっています。


 そんな中、美子さんが、

「そろそろ目的をおっしゃったら如何、私と茜姉さんを呼び出して何のようですか、天狐さん」

 稲田先生は驚いたようですが、

「九尾を退治していただけたら……」


「貴女のほうが格は上でしょうに……それでもなら代価が入りますよ」

「どのようなものでも」

「一番大事なものとなりますよ」

「……」


「私は別にこの星のものなど欲しくは無いし、なにより、この星の生死を、私は決めることができます」

「はっきり言えば、私が欲しいものは問答無用で手に入りますよ」

「……」


「九尾以外にもあるのでしょう?まぁ、いいわ」

 ここで美子は恥ずかしげもなく、大きな声で、

「茜姉さん、先に行っていて下さい、すこしトイレです」

 すると、囁くような声が聞こえました。


「私がいたしましょう」

 と言って、スピンクスが目立たぬようにしながら、浮き上がってきたのです。

「ミコ様のお手を煩わせる程のことはありません、私が片付けてきますよ」


 美子さんが、

「程々に出来る?」

「オフ・コース」

「どっからそんな言葉拾ってきたのですかね……まぁいいわ、参道を外れましょう」


 参道を外れ、人気がない場所に来ると、スピンクスが、

「そろそろ出てきなさい、気を使ってあげたのですから」


 突然、九つの鎌鼬が襲って来ましたが、スピンクスに吸い込まれるようにして、消えてしまいました。

 その後、ある一角の空気がなくなったような……そして禍々しい雰囲気がなくなりました。


「相変わらず凄いわね、どこに放り込んだの?」

 と美子が聞きますと、太陽の中心部との返事でした。


「後の手下はどうしますか?」

 と、スピンクスが囁き、

「稲田先生、どうしますか?」

 と、美子が聞きます。


 かなり青ざめた稲田先生ですが、

「この者たちは、元々このあたりの産土神(うぶすながみ)……お見逃しください」


「そうですか、後は任せますよ、ただこの地の稲荷神さん、ここに出てきなさい」

 すーっと、小さい白狐があらわれました。


「今回はこの天狐の願いで行ったこと、以後は心してこの地を守って下さい」

 頷いた白狐さんでした。


「では行きましょう、スピンクス、ご苦労様でした、たい焼きでもおごってあげましょう」

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