スピンクス騒動 其の二


 額を抑えている二人の姉を見て、クリームヒルトが、

「ねえ、スピンクスさん、何事も程々という事を私と一緒に学びませんか?」

 クリームヒルトに抱きかかえられて、背中をなでられて……

 ゴロゴロ……

「そうですか……分かりました」


「やれやれ……ところでスピンクス、キャットフードは買っていないのですが?」

「私は猫ではありません!」


「でも猫に見えますよ、餌はお皿から直でしょう、お箸やスプーンは使えないでしょう?」


 茜さんが

「美子、猫はお魚でしょう、私が小魚でも買ってきましょうか?」

「だから、私は猫では無いですから!」


「じゃあ、どうやってご飯を食べるの?」

「別に私は食事を取らなくても構わないので……」


「とにかくご飯をつくりますよ!スピンクス、このマンションは飼い猫禁止、ここにいるのなら見つからないようにしなさい」


「そしてヴァランティーヌ、ここに居るなら私と同じ学校に通いなさい、たしか聖ブリジッタ女子学園山陽校には小学部もあったはず」

「今からマレーネさんを呼びますので、明日、マレーネさんと一緒に転入手続きをして来なさい、転入の言い訳はマレーネさんが何とか考えるでしょう!」


 少々プリプリしながら、カレーを作り始めた美子さんでしたが、美味しいカレーを作ってくれます。

 そこへマレーネさんが、「お呼びでしょうか?」と浮き上がって来ました。


「マレーネさん!」

 と、エライ剣幕で怒っている美子さんに対して、平気な顔のマレーネさんではあります。


「多分呼ばれると思っていました」

「なら何故ですか!」

「スピンクスは、惑星バステトの執政官に予定されています、あそこは難しい所……スピンクスは適任でしょう」


「そのためにも、ここでマスターの護衛をしながら、ヒューマノイドの生態を研究させればと思いまして」

「……」

 結局、美子さんは、スピンクスの件を了承したのです。


 ということで、スピンクスは吉川家の飼い猫におさまり、もう一人のお客様、フランス人形の様なヴァランティーヌ、つまり吉川ヴァランティーヌ嬢については、後の言い訳はマレーネさんが引き受けると約束しています。

 そして次の日、小学部の三年に、吉川姉妹の末っ子がやってくることになったのです。


 こうしてクリームヒルトには妹ができてしまいました。

 最初は美子姉様を取られるのではと、不安でしたが、ヴァランティーヌに「クリームヒルト姉様」と呼ばれると、ヴァランティーヌが可愛くて……満更でもないクリームヒルト。


 しかも、茜姉様にもものすごく上手に取り行って、完全に吉川姉妹の末っ子という立場を認めさせています。


 ヴァランティーヌの指には、采女と呼ばれる寵妃見習いの位の証、ピンクゴールドのリングが輝いています。

 チョーカーと違い、堂々と左薬指にしています。

 なんでも親が決めた許嫁がいると、公言しているそうです。


 こうして吉川四姉妹の、女学校生活が始まったのです。

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