第十三話:遭遇② ~少女に突き付けられたのは、惨劇の記憶と~


 「そっか、由美ちゃんは今年から小学生なんだ。お姉ちゃんになったね」


 「うん! ピーマンもちゃんと、たべれるようになったんだよ!」


 「おお、すごいすごい!」


 ニカっと大きく破顔する由美に合わせるように、麗菜もやや大げさなリアクションで相槌を打つ。


 「やめろよ大声で恥ずかしい。大体、お前まだニンジン食べられないだろ」


 「もう、うるさいなあ! あんなのたべられなくても、おねえちゃんになれるもん!」


 「いーや無理だね。ニンジン残してまだ母さんに怒られているお前が、なーにがお姉ちゃんだよ」


 「おにいちゃんだって、こないだドロんこのところでコケてドロだらけになって『ママ―!』って泣いてたくせに!」


 「バ、バカお前! なんてこと言うんだ! ていうかママなんて言ってないし、泣いてねえし!」


 「ま、まあまあ。陽人はるとくんも由美ゆみちゃんも、声落として。しーっ」


 麗菜が二人に挟まれる形で、三人揃って階段に腰かけていた。


 保護者の居ない子供の面倒は、高校生である麗菜の手に余る。しかしながら状況が切迫している現在では預けられる場所も人もないため、麗菜は二人に付き添うことにした。


 二人の兄妹――陽人と由美は幼心ながらに、麗菜は安心して頼れる存在だと理解したのだろう。笑顔を見せながら、こうして兄弟げんかを見せるようになるまで麗菜と打ち解けた。そして麗菜も二人と接することで、張り詰めていた緊張が幾分か緩和されたようだった。。


 「れいなおねえちゃんは、あのおにいちゃんといっしょにおでかけ?」


 由美が黄色い声で麗菜に尋ねる。


 「そうだよ。ゴールデンウィークだから、ちょっとお出かけしに来たんだ」


 「わー! デートだデート! ふたりはこいびと? つきあってるの?」


 表情を輝かせる由美。幼い少女からそんな質問が飛び出すと予測していなかった麗菜は、戸惑いと気恥ずかしさを頬の色に示した。


 「おい由美! 失礼だろそんなこと聞いて! 麗菜おねえさんもすみません」


 「う、ううんいいよ。でもおませさんだなぁ、私は小学生の頃どうだったかな……あーでもそういえばひよりは、こんな感じだったかも」


 「ひより? おねえちゃんのおともだち?」


 「そうそう。いや、じゃなくって」


 麗菜は苦笑しながらわざとらしく咳払いを一つ置いて。


 「イセルさんも私の友達だよ。イセルさんはその……日本に来たばっかりだから、案内してたの」


 「そーなんだ。やっぱりがいこくからきたヒトなんだね」


 「う、うーん……そんな感じ、かな」


 異世界から来たのだと言っても、今は信じてもらえるわけもないと考えた麗菜は、嘘にならない範囲での当たり障りのない言葉を並べる。


 「おねえちゃんもがいこくじん? それともハーフ?」


 由美が麗菜の空色の瞳を見ながら、興味津々な様子で尋ねる。


 「私は生まれも育ちも日本だよー。この目はお母さん譲りなんだ。お母さんはヨーロッパの方の血が混じっているみたいで――」


 「ちが、まじる?」


 「ああ、ええと。ハーフ、みたいなものかな」


 キョトンと疑問を呈する由美。麗菜は幼い少女の認識に合わせるように、あえて正そうとしなかった。


 「他の人と違うからね。びっくりしちゃったかな?」


 「ううん、そんなことないよ! おねえちゃんの目、すっごくきれい! ね、おにいちゃん!」


 「そうです! 透き通ってて、とても綺麗でびっくりしました!」


 「あ、あはは。ありがと二人とも。面と向かってそんな風に言われたことあんまりないから、なんだか照れるな……」


 大袈裟な反応を示す二人に、麗菜は気恥ずかしそうにはにかんだ。


 「イセルおにいさん、すごい強かったですよね。警察の人みたいに魔法使ってるように見えなかったし。プロの空手家とか、スポーツやってる人ですか?」


 陽人の興味津々な様子に、しかし麗菜は表情を微妙に曇らせる。


 「うん、そうだね。イセルさんはすごく強いんだ。元居た場所では、自分の力で色んなものを守らなきゃいけなかったんだって」


 声は変わらず穏やかだが、その顔色は少しだけ沈んだものとなる。恐らく麗菜本人も気付いていないそれを見た陽人は、それ以上追及することはなかった。


 「ねえねえ、あんなにかっこいいヒトなんだよ? おねえさん、つきあいたいって思わないの?」


 年齢に対してやや不釣り合いともいえる礼儀正しさや、察しの良さを見せる陽人に対し、妹の由美は年齢相応の屈託のない態度だ。


 「付き合いたい、というか、えっと、その……」


 「だーかーらー! お前はいちいちうるさいんだって! 恥ずかしいからやめろバカ!」


 「えー? いいじゃんべつにー。ねえねえ、れいなおねえちゃん、じゃあさじゃあさ! イセルおにいちゃんのことは好き?」


 「えっ!? いやあの、ええと……!」


 好奇心の赴くまま無邪気に振る舞う子供は、ある種最強の存在なのかもしれない。陽人が諫めるのを無視して質問を重ねてくる由美に、いつの間にか麗菜は取り繕う余裕もないほどに圧倒されていた。


 そして頬を赤くし、はにかんだまま。


 「は、はい……」


 蚊の鳴くような控えめな肯定に、陽人も頬を赤らめ、由美は表情と瞳をさらに輝かせる。


 「じゃあもうどんどんアタックしなきゃだよおねえちゃん! だいじょうぶ、おねえちゃんカワイイからぜったいオーケイだよ! フラれるわけないって!」


 「いい加減にしろお前は! 大体、ついこの間まで幼稚園通ってたこどもが何を偉そうにしてんだ!」


 「ふーんだ。がっこうで好きなおんなのこにちょっかい出してるおにいちゃんよりはこどもじゃないもーん」


 「バカ、お前この……!」


 「ふ、二人とも。しーっ、しーっ」


 他の人の迷惑にならないように、ヒートアップする二人を諫める麗菜。そして由美はにっこりと可愛らしく笑って、麗菜に言う。


 「じぶんがおもっていることはね、あいてをこまらせたり、きずつけたりしないものだったら、ちゃんとことばにしなきゃいけないんだよ!」


 「っ!」


 由美はその言葉に、そこまで意味を持たせたつもりはないのだろう。けれどそれ故に、幼子おさなご特有の純真さを乗せたそれは、まっすぐに麗菜の心に届いた。


 「パパもママも、いつも言ってるの! ね、おにいちゃん!」


 「ま、まあ……そう、だな」


 「でしょ! だかられいなおねえちゃんも……おねえちゃん?」


 「麗菜おねえさん?」


 突然反応を示さなくなった麗菜に、二人が戸惑いを見せる。


 ――思いはちゃんと言葉にしなきゃ、か。こんな子でも分かるような、分かり切ったことだよね。


 先ほどまで自身の思いを伝えられずに悶々としていた麗菜は、由美の言葉に背中を押されたことで晴れやかな心地となっていた。


 ――それからイセルさんの思いも、ちゃんと知らなきゃいけないんだ。私はあの人のこと、もっと知りたい。知らなきゃ、いけないんだ。


 思いを一方的に伝えるだけでなく、イセルが抱える本当の想いを知ろうと。

 

 怖がることなく、躊躇うことなく、イセルときちんと向き合おうと決意する。


 穏やかに微笑みながら、優しい手つきで由美の頭を撫でる。


 「ありがと由美ちゃん。私、頑張るね」


 「ん……? うん! おうえんするね!」


 あまりよく理解してなさそうな様子だったが、由美も大きく笑いながら頷いた。


 「……お! やっとネットがつながり始めたぞ!」


 「電話も繋がった! もしもし!?」


 周囲からそんな声が聞こえ始めたのは、その直後だった。建物内の人間が次第に、自身の持つ携帯電話を操作したり、通話を始めたりする。今回の事件で都内の電話回線やネット回線が混雑し、一時的に利用が困難になっていたのだ。

 

 「そっか、ようやく使えるようになったんだ。二人はスマホ持ってない?」


 「持ってたけど、あの時落としちゃって……」


 陽人が申し訳なさそうに俯く。麗菜は安心させるように、穏やかな口調で言う。


 「気にしないで、仕方ないよ。私のスマホ使って、今どういう状況か調べよっか。あっ、二人ともお父さんお母さんの電話番号分からない? こっちから電話かけられるかも」


 「あ! ゆみ分かるよ! まいごになったときのために、おぼえておきなさいっておしえられたの!」


 「そうなんだ。よく覚えてるね、すごいよ由美ちゃん」


 麗菜が頭を撫でると、由美は嬉しそうに笑った。


 「ぼ、僕だって、覚えて……ます」


 「……ふふ。そっか、陽人くんも偉い偉い」


 少し拗ねたように言う陽人。苦笑しながら麗菜は、空いた手で陽人の頭を優しく撫でる。陽人は咄嗟に俯いたが麗菜の行動を拒否するでもなく、照れ隠しなのは誰が見ても明らかだった。


 「おにいちゃんてれてるー」


 「う、うっさいバカ!」


 「バカっていうほうがバカなんだよーだ」


 「それじゃあお前も相当バカじゃないか」


 「あー、またバカって言ったー!」


 「二人とも! あんまり騒がないの!」


 すぐに兄妹喧嘩を始めようとする二人の頭を、麗菜がやや強めの手つきでワシャワシャと撫でる。陽人は小声で謝り、由美は楽し気に小さな悲鳴をあげた。


 「それじゃ、電話かけてみよっか」


 そうして麗菜が自身のスマホをポケットから取り出し、画面を開いたときだった。


 「わっ」


 画面を見た麗菜は驚きの声を上げる。前に確認したときは全く通知がなかったのだが、ネット回線が通じるようになった途端、それまで届いていなかった通知が一気に表示されたためだ。数十分前から連続で来ていた着信履歴やSNSの通知は、ほとんどが親友のものだった。


 「どーしたのおねえちゃ……わっ、いっぱいきてるー」


 麗菜のスマホを覗き込んだ由美が、面白そうにケラケラと笑う。


 「ほとんどおんなじ人ですね。ひよりさん、ってのは麗菜おねえさんのお友達ですよね?」


 「う、うん。そうそう。あ、おじさんおばさんからも電話来てる……」


 「麗菜おねえさんから先に済ませてください。僕たちはあとで大丈夫です」


 「うん。ゆみも、おにいちゃんも、あとでだいじょうぶ……」


 二人は声のトーンを落として言う。


 親友や、麗菜の親代わりでもあるひよりの両親に、一刻も早く無事を伝えたいというのが麗菜の本音だ。


 「もう。こんなときにまでそんなにいい子にならなくても、いいんだよ?」


だが自分よりも年下の陽人や由美の方が、より一層不安を感じているはずだと。そして早く両親の無事を確認したいはずだと、麗菜は思い直す。


 「大丈夫。私は後回しでいいから、二人のお父さんお母さんから先に電話かけちゃお」


 「あ、ありがとうございます……!」


 「ありがとう、おねえちゃん!」

 

 隠しきれない喜びが、二人の表情からも溢れ出した。そんな二人を微笑ましく思いながら、麗菜は自身のスマホを操作しようとした。


 その時、一つの通知が追加される。


 「……え?」


 麗菜の口から、小さな声が零れ出る。そして空色の瞳は画面を凝視し、瞬きもせずピタリと止まる。


 「麗菜おねえさん、どうしました?」


 「おねえちゃん?」


 二人の問いにも答えない。そもそも声が届いているのかすら定かではない。


 硬い表情のまま、麗菜がゆっくりと画面に触れる。


 小さく震える指先で、パスコードを打ち込む。


 息を呑む音と共に、麗菜の瞳がさらに大きく開かれる。


 陽人と由美は、恐る恐ると言った様子でスマホを覗き見る。


 画面に表示されているのは、ニュースアプリの記事だった。


 「『イノセント』? テロ、インターネット……おにいちゃん、なんてかいてあるの? かんじおおくてわかんない」


 「『緊急速報:東京都内における魔法生物テロに対し、イノセントがインターネット上に犯行声明を発表』だって。んーと、今回の事件を起こした悪い奴らが、イノセントっていう組織みたいだ」


 妹のために、陽人は平易な言葉に直して教える。


 「イノセントってなーに?」


 「世界中でテロを起こしてる犯罪組織だよ。日本でも確か、5年前くらいかな。こいつらのせいで沢山の人が死んだんだ。由美は1歳だから覚えてないよな。あの時は凄かったんだぜ、テレビつけたら全部その事件しかやってなくて。見たいアニメとかもぜーんぶ中止でさ。

 麗菜お姉さんも覚えてますよね――」


 陽人が話を振ったが、麗菜は答えることはなかった。


 体が小刻みに震え、スマホを取り落とす。


 呼吸も浅く頻回になっており。


 瞳は大きく見開かれたまま、表情は凍り付いている。


 「麗菜おねえさん?」


 「れいなおねえちゃん?」


 麗菜の突然の変化に、戸惑いを隠せない二人。だが麗菜は兄妹の呼びかけに答えることなく。


 「あ……あぁ……!」


 ポロポロと、空色の瞳から涙が零れ始めた。


 「おねえさん!?」


 「おねえちゃん!? だいじょうぶ!?」


 自分の身を掻き抱く麗菜に、二人の声は届かない。


 それなのに。


 「イノセントって、5年前のあの事件のやつでしょ……?」


 「またあいつらかよ! 日本の魔導士は何やってんだ!」


 「芳麻聖が居たらなぁ……」


 「アホかお前。あんなに持ち上げられてたやつも、結局誰も救えないまま死んでるじゃんか。ほんっとに使えない魔導士だったよ。つーか魔導士なんてみんなそんなやつばっかりか」


 心ない誰かの、そんな心ない言葉だけは届いてしまう。


 緊迫した状況下。気丈に振る舞ってはいたものの、やはり多大な心理的負荷が、麗菜にかかっていた。

 そこに『あの日』と強く結びついた言葉が揃ってしまう。

 

 テロ。


 父への謂われなき批判。


 そして、イノセント。


 心の傷トラウマの引鉄がひかれ、少女を惨劇へと引きずり戻す。


 







 轟音を立てて崩れ落ちる天井。


 誰かに抱きしめられる感触。


 衝撃に飲み込まれる麗菜。


 いつしか自身は仰向けに倒れており。


 土埃による、粉っぽい空気のせいで咳きこむ。


 窮屈さを感じるものの痛みはなく。


 気付けば大きな体が、麗菜を守るように覆い被さっていた。


 「大丈夫かい、麗菜」


 優し気に呼びかけるのは、男の声。


 聞き慣れた声音に安堵した麗菜が、自身の魔力光で辺りを照らせば。


 目に飛び込んできた色は、赤。


 血に塗れた父。


 父の下に居る麗菜の服も、その血を浴びて赤く染まっていた。

 






 「ごめんなさい、ごめんなさい……! おとうさん、やだ、死んじゃやだぁ……!」


 うわごとのように繰り返す麗菜。PTSDや急性ストレス障害に代表される心的外傷の追体験、フラッシュバックと呼ばれる症状が麗菜を襲う。


 「おにいちゃん、どうしよう!? おねえちゃん泣いてる……!」


 「だ、誰か、大人のひと呼ばないと……!」


 麗菜の突然の変化に、泣き出しそうな顔で狼狽える兄妹。周囲に目を向けるも、それぞれが自分のことで精一杯で、麗菜や二人に気を回す余裕を持つ者など、居るはずがない。


 そう思われたとき。


 「きみたち、どうしたの?」


 















 「もう大丈夫よ。ゆっくり、深呼吸して」


 そんな声をかけられて、ハッと目を覚ましたように麗菜は状況を再認識する。


 いつのまにか麗菜は歩いていた。誰かが横に並び立ちながら、麗菜を労わるように両肩に手を置いている。


 「え、あ、あの……?」


 状況が分からず、混乱から覚めやらぬ様子で隣に目をやる麗菜。


 付き添っているのは30代と思われる婦警だった。身長は麗菜よりも高く、婦警は見下ろすように麗菜を見る。


 「ようやく落ち着いてきたみたいね。いきなりでごめんなさい、あの場所は落ち着かないと思ったから、静かで安全な場所に連れて来ようと思ったの」


 微笑みながら言う婦警は、麗菜の肩を掴む手に僅かに力を込める。


 それはまるで麗菜を安心させるように。


 あるいは、有無を言わさず麗菜を連れていくように。


 「あ、あの。近くに二人の兄妹が居たはずなんですけど……!」


 「大丈夫よ。二人は近くの別の警官に任せてきたから。両親が居ない二人を見てくれてたのね。ありがとう」


 焦燥に駆られた様子で尋ねる麗菜に対し、婦警は穏やかな口調で答える。婦警の動じない姿勢を前に、麗菜は安堵したように吐息を零した。


 「ごめんなさい、ご迷惑をおかけして……!」


 「いいのよ。あなた高校生くらいでしょ? いきなりあんな事件に巻き込まれちゃ、混乱したって仕方ないわ。辛かったでしょう」


 麗菜の謝罪に対し、婦警は何でもないと言わんばかりに軽く返す。


 「でも、ああいうときは誰でもいいから警官捕まえて相談しなきゃダメよ? あなたの手に余るでしょ。次からは気を付けるよう……あ、こんな状況二度もあってたまるかって話よね」


 小さくウインクを飛ばしながら冗談を言う婦警。彼女の朗らかさに触れて、麗菜の表情はようやく微笑みを取り戻した。

 

 「さ、ここなら落ち着けると思うわ。入って」


 婦警の誘導に疑問を覚えることなく、婦警が鍵を使って開いた扉を麗菜はくぐる。


 「ありがとうございま……す……?」


 扉をくぐりながら、周囲を見渡す麗菜。どこをどう歩いてきたのか、麗菜はあまり覚えていない。

だが少なくとも現在の場所は、明らかに来店客が立ち入るようなスペースではない。台車や段ボールが雑多に置かれている。


 ――バックヤード、だよね? どうしてこんな場所に?


 違和感を覚えた麗菜は、振り返り婦警に尋ねようとした。


 「え……?」


 だが質問は言葉になることはなかった。婦警の表情と、その手に握られている物が、麗菜を混乱に陥らせた。


 「ごめんなさい。あなたは、私と一緒に来てもらうわ」


 表情も声も、先ほどまで親身に接してくれていた婦警とはまるで別人のように、冷たく険しいものだった。


 ――なん、で? どうして……!?


 混乱と、そして湧きあがる恐怖が、麗菜の心を無秩序に掻き乱す。


 ともすれば我を忘れて逃げ出してしまいかねなかったが、麗菜がその場に留まっているのは、無意識化の生存本能が身体の強直を選んだからだった。


 婦警から向けられる視線。それに劣らぬ冷たい光が、照明を反射して婦警の手元から放たれる。


 婦警が、麗菜に拳銃を突き付けていた。













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