第8話 悪人の末路

「さて、集まってもらったわけだが・・・あまり時間がねぇ。

 今から行ってやっつけ仕事にならねぇ程度にやる。

 解ったか?」


叔父さんのマンションの部屋に集まったは『アスガミ』のメンバー。

対応のメインを担当する「ショウ」

撮影を担当する「シャドー」

護衛をメインとする「ネイビー」

バックアップメンバーに「オジサン」「ハッピー」「ゼロイチ」

とメインで動くのは今日は3人。

残りは別場所に待機する事になった。


「まずは教師だが今ゼロイチが張ってる。

 今日あたりその先生様が動きそうだと言っていた。

 ちなみに今回は裏から手をまわしておいた」


まぁうちの学校の学年主任である。

噂では理事の関係者と言われていて権力をかさに着ているらしい。

で、うちの女子の情報を握って脅し体の関係を迫っていると。


簡単に言えば犯罪だが、高校生がどうにかする事ができるわけでは無い。

断れば親バレと退学は免れない情報だったからだ。

所謂、援交。

そんな話をされては言う事を聞くしかなかったのだろうが・・・。

やってしまった事に責任を取れとも言いたい。


「で、態々早退してお昼に集めたってわけっすか?」


「そうだ。悪いな。仕込みがちょっと大変でよ。今回はサツが動く事になる。

 まぁ俺の息が掛かってるからお前らには危害は無いがな」


どういう経緯で息が掛かっているのかさっぱりだけど叔父さんの人脈が謎なのは今に始まった事ではない。

警察が動くと言う事は、今回は刑事事件になると言う事だろう。


「さすがっすね。その人脈」


「そろそろ仕込みが終わってるはずだから学校戻るぞ。

 配置は先に連絡しておいた通りだ。わかってるな?」


「まかせてよ。おじさん」


「その恰好の時は『ショウ』を演じろ。間違っても素は出すんじねぇーぞ?

 正体バレなんて正直俺が何言われるかわかったもんじゃねーからなぁ。

 アニキんとこにはめーわくかけらんねーしよぉ」


「さすがにこの恰好で翔だと気付ける人はいないっすよ?」


「だといいがなぁ。今回は学校だ。気を付けるにこしたこたねーからよぉ」


「わかってるぜ。オジサン。今から『ショウ』でいくさ」


きっちりと切り替えて僕は翔から『ショウ』へと言葉遣いと態度を変える。

ふてぶてしく、大胆でワガママな人間に変わるのだ。


「んじゃ各自資料に目を通しておけ。マツリの開始だ!」





〇立花 裕香side

お昼休みの終わり間際に私は校内放送での呼び出しを受けた。

場所は生徒指導室。

普通なら問題のある生徒が呼び出されたりする場所で

そんな事にまるで覚えがない私が呼び出された理由が解らない。


「失礼します」


そう言って生徒指導室に入ると、学年主任の高藤先生が居た。

背が高くがっちりとした体育会系の人物だが以外にも数学教師である。


「来たか。とりあえずその席に座りなさい」


言われたとおりに席に着く。

部屋は教室に比べると狭く教員用のデスクが一つと

会議用のテーブルが置いてあるだけの部屋だ。

入った経験が無かったので意外と狭いと感じてしまった。


「こんな事は言いたくなかったんだが・・・」


そう前置きする高藤先生。


「お前が不純異性交遊しているとタレコミがあってな」


「はぁ?」


ちょっとまて。いったいどういう事だと。

確かにその京くんとは付き合っている。

が・・・実際は彼が私に手を出してきてはいない。

なんというか、奥手というか。

幼馴染で正直両親が公認しているので避妊さえすれば

問題無いとまで言われたくらいだが、襲われたことはない。

たまに部屋でさりげなくアピってみるも躱され続けているのだから。

だからはっきり言える。


「いえ、私そんな事してません」


「しかしだな。写真があってだな、

 お前がラブホテルから出て来る決定的瞬間がこれだ」


写真にはたしかに私と京くんが映っており、

背景はいかがわしいホテルになっている。


そこで思い至ったのが・・・先日の不良に絡まれた時の事だ。

逃げているうちにそう言う所に隠れたりしてしまっていた。

そこを撮られたようだった。


「あの、先生。これ誤解です。

 不良に絡まれた時に逃げ込んだだけで中には入っていません!」


「しかしだな。この写真がある以上お咎めなしとはいかない。

 この男子生徒の高校にも連絡する事になる。

 当然だが退学もありうる事だ。

 誤解だったとしてもそれが証明されるまでに

 謹慎処分に自主退学という形にさせられるだろう。

 学校の面子もある。

 そう言った行為を見逃していれば学校としての信用にかかわるからだ。

 相手校からの要請があればお互いに自主退学に持っていく事になるかもしれない」


誤解で・・・退学って。


「ちょっと待ってください!

 そんなの酷すぎます!」


「この事を言ってきた者には今の所口止めしている。

 ただ、今回の件はさすがに・・・な」


「そんな・・・どうすれば・・・」


こんな事で学校生活が終わるとは思ってもみない。

ましてや、やっても居ない事で・・・。


「その、俺から提案があるんだが・・・」


長い沈黙のあと先生がいう。


「え?」


「今回のお前の事を黙っている代わりに、俺に抱かれないか?

 これはバレる事は互いの人生が終わる事になる。

 つまり、お互いに切り札として黙っていればこの問題は片づけられる」


この先生は何をいってるのだろうか・・・。

意味が解らない。


「だから、こういう事だ」


いきなり立ち上がった先生は私を掴んで床に押し付ける。

そしてそのまま覆いかぶさるように迫ってきた。

あまりの事態に頭が付いて行かず、精一杯の抵抗をするが

制服のブラウスが引きちぎられボタンが飛んでいくのがゆっくり見えた。


「大丈夫だ。悪いようにはしない」


そんな先生の言葉が聞こえた。




〇ショウside 


授業中の学校にサボリで来るのはちょっときがひける。

だが、これは依頼の為だ。

最初から目的の生徒指導室だ。

インカム経由で入ってくる情報にはすでに中に

ターゲットが連れ込まれたと言う事は分かっている。

中では話し合いが行われているらしい。

その指導室前に着くと一人の女生徒が部屋の扉の前でスマホをいじっている。


「アレアレ~?どうしてこんなところにいるのかなぁ?」


「アンタたちなに?ここ学校なんだケド?」


そんな事は分かっている。

が確かに怪しい黒スーツの3人が現れたらいぶかし気もするだろう。


「ああぁ? ナニ? オレの行動を妨げるんのかぁ?」


ちょっとした脅しをかけるも、あまり効いていない。

扉の前から動こうとはしない。

インカムからの情報でどうやらセンセが強硬手段を取り始めたらしい。

仕方ないので、壁ドンの勢いで彼女の顔面のすぐ隣をぶちぬいた。

鍵が掛けられていた扉は折れ曲がり部屋の中へと轟音を立ててすっ飛んでいく。


「そのキレイな顔面も同じにすんぞ?分かったらドケよ?」


扉を塞ぐようにしていた女生徒は思いっきりビビりながら入り口を離れてへたり込む。

それを無視して中へと入ると、女生徒を押し倒すおっさんの図があった。

顔を上げて驚いた表情をするおっさんは焦ったように叫ぶ。


「なんだキサマは!」


「まずはそこからどけや!」


俺は一瞬で間合いを詰めてアッパーをその腹に決める。

くの字に折れ曲がりながら教室の奧の窓際まで吹っ飛んでいく。

時間はかなりきわどかったらしくすでに彼女の服が乱れていた。

仕方がないので暑い中着ていた黒ジャケットを脱いで彼女にかけてやる。


「あ、ありがと」


少し放心状態のようだがまだ状況が分かっていないだけだろう。


「すまねぇなぁ。カレシクンじゃなくて」


その言葉に何か反応する。

「カレシクン」をちょっと強めに言ったからだろう。


「あ、あなた昨日あの時に助けてくれた人!」


どうやらやっと思い出したらしい。

あまり忘れられる恰好をしているわけじゃないのだが、

今日のスーツ姿が昨日のアロハとは重ならなかったのだろう。


「忘れられてるとはひどいねぇ。だが、テメェは運がいいゼ。

 オレ様が来たのだからなぁ」


倒れていた高藤先生はうめき声を上げて起き上がる。

ガタイが良いだけあってそれなりにタフなようだ。


「キサマ、一体どこから入ってきた!部外者が!不法侵入か?!」


殴られたお腹を押さえて起き上がるとすぐに喚き散らすおっさんセンセ。


「ああん?許可とってマスよ?」


すでに学園理事には話が付けてあると報告書に記載があったのは確認済み。

警備の者も理解しておりすんなり入ってきている。


「そんでもってここからショウタイム!の始まりだ!」


ネイビーが座り込んでいた女生徒を引きずる様に連れてくる。

オレはその顎を掴んでセンセの方に向けてみる。


「まずはこのクソ女だ。センセの脅しで随分ヤリまくったらしいじゃねーの?」


そうだよな?

と声をかけると女生徒はビビリながら頷く。

先の扉の一撃がかなり効いているらしい。


「そ、そんなのでたらめだ!俺は何もしていない!」


「さらにはこの女利用して他校の生徒まで使って、

 そこのカノジョをはめたんだろ?

 実はレイプまがいの写真にしようとしたが・・・

 オレ様がたまたま通りかかったんで上手い事撮れた写真で今脅しをかけてる。

 違うか?」


すべての情報は筒抜けである。

昨日、偶然会った事になっているが実際はオジサンの計画通りなのかもしれない。

真相は分からないけれど一人の知り合いが助かったと思う事にしておこう。


「俺はこの学園の理事の親族だぞ!そんな話誰が信じる!

 そこの女の発言なんてすぐにもみ消してやる!」


「アンタ、オージョー際悪すぎじゃね?

 物理で勝てない。証拠は握られてる。いい加減諦めなヨ?

 ちなみにケーサツ呼んであるから。

 あと、ここの部屋の監視カメラの画像とかあるからニゲラんねーよ?」


「デタラメだ!キサマのような社会不適合者が何を言っても警察が信じるか!

 世の中はなぁ社会的信用がものを言うんだ!」


まだ、分からないようなのでさらに付け加える事にする。

ゆっくりとクソ女の顎から手を放し、センセの元へと歩み寄る。


「もうちっと痛い目見とくか?

 ちなみにオレは治外法権ってやつでお前を殺しても裁かれねーんだよ?

 だよなぁ?そこの警察官の人!」


生徒指導室の入り口に二人の警察官が立っていた。


「はい。そのように報告を受けています。

 たとえそこの先生が殺されても日本国では裁けません」


「そんなバカな!」


「バカはテメェだ!死んどけ!」


小柄な俺とは違い随分と高い位置にある顔面を殴り飛ばす。

頬骨が砕けたかもしれないがまぁ生きてはいるだろう。

気絶した先生と女生徒二人をそのまま警察官へと引き渡す。


「あとはよろしく」


そう言って部屋を出た。

ジャケットは返さなくて良いと言っておいたし、

「ショウ」としてかかわる事はもうそうそうないだろう。

今回の依頼人はクソ女の方の親だった事は伏せておくことにした。

親に知られたくない事を高藤に利用された挙句に知られる事になるのだ。

隠しきれていなかった事をいちいち言う必要もないのだ。

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