第5話 モブが!

「今日も叔父さんとこ行くけど幸喜は来るの?」


「ああ、寄ってくよ。経過聞きたかったし」


あの次の日の朝にアドレス交換を要求されてしまい思わず許可した。

が、まったく会話アプリ等での会話は無い。

一体何がしたいのかわからない人だったが実害は全くないので放置している。


「おじさーん来たよ~」「お邪魔します」


「よう、お前ら3日ぶりか?どうしたよ?」


「『依頼』がそろそろくるんじゃないかと思ってみてたんだけど・・・

 何と言うかどうもうちの学校の人みたいなんだよね」


「ん?正直未成年は正直やりたくねーなぁ」


「学校の先生だよ。どうも猥褻行為してるみたいだ。

 叩けば埃だらけっぽいね。

 まぁこれやったら学校的に大ダメージだろうけどさ」


私立の有名進学校なのだからそれなりに評判が良かったんだけど、

実情はこんなものなのだろう。


「やらないわけにはいかないよね?」


「ったく、お前はそういうとこ頑固だからよぉ~」


叔父さんが頭を掻きながら「めんどくせぇ」という。

でもまぁやってくれるのだろう。


「で、いつやるんすか?」


「そうだなぁ、明日また来い。それまでに調べとく」


そう言うとPCに目を向けて作業を始める。

どこかしらに連絡しているようだ。


「あー、お前ら今日ちょっと買い物してこい!

 『ショウ』のアクセとか着替えを新調しとけ?」


「え?今回の衣装とかってまた変えるの?」


「ったりめーだろうが。毎回同じだったら周りにバレンだろうが。

 毎回、変えるんだよ。これが一番特定させない方法だ。

 できれば全国チェーンの量販店がベストだがなぁ」


「じゃぁ、今回はスーツとかどうっすか?」


「なるほど、悪くねぇな。黒服ヤクザ系で行こうじゃねーの?」


「絶対二人で僕の事着せ替え人形にしてるよね?」


「スーツはまぁ俺が発注しておくから。お前らアクセ勝ってこい。

 中2全開の痛いヤツだぞ?」


そういうと財布から6万円を取り出して僕に渡す。


「ただ、今日は俺塾っすから・・・」


「じゃぁ翔一人でいってこい。恥ずかしいんだったら『ショウ』で行け。

 コウキも時間あったら変装手伝ってやれ」


「それくらいの時間なら大丈夫っす」


この叔父さんの家には『ショウ』の服が置いてある。

間違っても家に持って帰ったら家族会議な服なのでここでしか来たりしない。

変装を行う事で思い込みをさせるように何故か叔父さんに訓練された。

『ショウ』という人物を演じるように。


小柄な『ショウ』は金髪に派手なアロハシャツと顔にはタトゥーシールが張られた。


「で?オレは何を買ってくればイイワケ?」


「アクセっつったが、出来れば既成品じゃないほうがいいか」


「じゃあ露店系ので良くないっすかね?」


「まぁその方が足つかねーか、つーわけだ、ショウ、頑張って探してこい」


「わかったよ、オジサン」


部屋を一人で出るとそのまま駅前まで出るとすでに17時を過ぎた頃だった。

7月初旬で外はまだ熱気がすごい。

15分程離れた大きな駅で降りて繁華街を歩く。

駅裏の路地の方に怪しげな店があったりするがアクセサリを路上販売するその場所もあったはずだ。

改札を出た所で人にぶつかる。


「あ、すいません」


学生服を着た高校生だろうが背はまぁ俺よりも高かったが、

驚いたのはその男の腕に甘えるようにしがみついていたのが見た事ある顔だったからだ。


「チッ、気を付けろボケ!」


睨んでそいつに返すと二人して怯えてどこかへとそそくさと逃げて行った。

バレたくは無かったので逃げ出すように促したが、

やっぱりこの格好はDQNというやつなのだろうか。

夕方の帰宅ラッシュなのに僕の周りだけ人が寄らないのだ。

まぁ歩きやすくていいけどね。


裏路地の頭が悪そうな奴に値段の交渉をしつつシルバーのアクセを購入。

万札を出していくつか見繕ってもらった。

経緯はこんな感じ。

「ちょっと、にいさん。これアンタが作ってんの?」

「そっすよ。オレオリジナルっすね。他じゃまねできねーっすよ?」

「指輪とネックレスとイヤーカフスがいくつか欲しんだケド。

 コレでドンくらい包んでくれんの?」(万札を出す)

「これくらいっすかね?」(品を8個目の前に並べてきた)

「んじゃそれで。まとめて包んでくれよ」

とあっさり購入。叔父さんのいう『中2くさい』のが手に入った。

他も見て回ったがあまり変わり映えしていない。

この頭の悪そうな奴だけがかなり奇抜なアクセを売っていたからここでの購入となった。


大分時間が経ってたらしく日も暮れて薄暗くなっていた路地に何やら揉めてるカップルがいた。

帰り道なのでそこを通らなきゃ駅にたどり着けない。

いや、回り道すればいいかもだが、さすがに帰りが遅くなるのもまずい。

時間を見ると18時半だ。

次の電車に乗り、叔父さん家によってから、

変装を解いて帰ったらギリギリちょっと怒られそうな時間になる。

まぁそそくさと通り抜けようと思ったが・・・絡まれていたのが見た事ある顔だった。


「にーさん達。こんなガキ捕まえて何してんの?」


しょうがない。後味が悪すぎるのだよ、視て見ぬふりはね。

ましては見た事ある顔だった。恐らく立花さんだったと思うが。


「てめぇにはかんけーねーだろ!すっこんでろ!」


軽く突き飛ばされてたたらを踏んで後ろに下がった。

4人の強面のお兄さん達だが・・・どうも立花さんの連れと同じ高校生のようだ。

制服で分かったが・・・。


「楠木くんよ~可愛い彼女をちょっと貸せっていってるだけじゃんかよ?」

「だめです!絶対!」「京ちゃん!」

立花さんの彼氏なのだろうが二人がくっついて離れない。

瞬間接着剤よろしくしがみついてちょっと怯えている。

「俺らに2時間ご休憩させてくれって言ってるだけじゃんかよ?」

「どうぜ、お前らもイッパツ頑張ってきたとこなんだろ?」

後ろで携帯で110番しようと取り出した立花さんは

その手を捻られて携帯を落としてしまった。

「何おまえ?ケーサツよんじゃうん?空気読めよ?

 お前らだってエロイ事してましたって親バレしちまうぞ?」

「はははぁそりゃおもしれー!」


そんな会話をしながら結局の所小柄な僕はまぁ無視されている。


「おい、テメぇーら。そいつ輪わすのかよ?」

「んだ、てめぇ。まだいたのかよ?お前の順番は回ってこねー・・ガハァ」


無防備に近づいてきた一人の股間を蹴り上げた。

地面でのたうちまわっているが、その顔面を蹴り飛ばして道を開ける。


「お前ら邪魔なんだよ。このゴミ連れて失せろ!」


金髪から覗くように見える鋭い眼光が相手を少し怯えさせたが、

まだ3人いると強気に出てくるものだ。


「っざけんな!不意打ちカマしやがって!ブッコロ!」


そういうと殴りかかってくる馬鹿な一人。


「おらぁ!」と叫びながらの蹴りを躱して軸足を凪ぐと簡単にすっころんだ。


「なに?お前?叫ばねーと蹴れねーの?」


尻もちをついた男の顔を見下ろしながら顎を掠めるように蹴るとそのまま床に沈む。


「そろそろ、連れて帰らねーと明日の朝に裸で寝てる事になんぞ?」


脅すように言うと仲間を置いて残った2人は逃げていく。薄情なこって。

振り返って立花達を見るとこちらを伺うような視線がふたつ。


「あ、あの。た、たしゅけてくれてありがとうございあした」


彼氏がカミカミでお礼をいう。


「あんた、カレシさん?」


「はい・・・」


そう聞いただけなのに怯えられている。


「で、その娘、俺に2時間貸してくれんの?」


「それは、出来ません!」


はっきりもの事を言う奴だった。

さっきの4人を軽く凌ぐ脅威をもってしてもその意思がある。


「ハハハハハッ、アンタ、カッコイイね!ジョーダンだよ。

 助けといて、んな事してたら悪者じゃんかよ?

 ホラ、そこの可愛い彼女つれてさっさと行きなよ?」


「「ありがとうございます!」」


今度は立花さんもお礼を言った。

まぁ僕も駅方面いくんですけどね・・・ちょっと気まずいので電車1本ずらそう。

はぁそれとこのゴミは警察でも呼んどけばいいのか?


結局、帰り着いたのが遅くなり親に小言を言われてしまった。ついてないなぁ。

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