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クリストファーがレオンハルトの兄の第一王子で、ミルドワース伯爵がレオンハルトを王太子の座から引きずり降ろそうとしていた――
レオンハルトに今回のことについて説明を受けたあと、カトリーナはしばらく茫然としていた。
その驚きは次の日も引きずっていて、邸の自室でぼーっとしていたとき、突然エドガーがやってきた。
「カトリーナ嬢、今回は巻き込んで申し訳ございませんでした」
「そんな……、エドガー様に謝っていただくことは何も」
「いえ、もとを正せばあのろくでなし王太子の身勝手のせいです。本当にカトリーナ嬢にはなんとお詫びしてよいやら……」
確かに、レオンハルトとの婚約解消があったからカントリーハウスに来るはめになったのだが、今回の事件までレオンハルトのせいだと言うのは可哀そうである。
「その……、レオンは、今日は?」
「殿下はクリストファー殿下とともに事後処理に追われています」
「まあ、大変ですわね」
「自業自得です」
エドガーが冷たく言い放ち、「そういえば」と紙の袋を取り出した。
「これはカトリーナ嬢のものだとお聞きしましたが、お間違いないでしょうか?」
カトリーナはエドガーから紙袋を受け取り、中を開けて誘拐される前に購入していて、ミルドワース伯爵の部屋においたままになっていた毛糸が入っていることに気がつくと、ぱあっと顔を輝かせた。
「そうです! まあ、ありがとうございます!」
カトリーナがぎゅっと紙袋を抱きしめる。
「その毛糸をどうされるのですか?」
夏に毛糸という季節外れなものを、宝物のように抱きしめるカトリーナを見て、エドガーは不思議に思う。
「それは秘密ですわ」
ブランケットがうまく仕上がるかどうかわからないし、プレゼントするときはレオンハルトを驚かせたいから、エドガーにも内緒だ。
カトリーナが小さく微笑むと、エドガーはそれ以上追及しなかった。
エドガーも忙しいのだろう。カトリーナにもう一度「本当にご迷惑をおかけしました」と告げると、立ち上がる。
「そうそう、クリストファー殿下から伝言です。夕方、カトリーナ嬢に会いに行くから時間を作ってほしいとのことでした。それでは」
エドガーが軽く
(クリス様が……)
カトリーナはふと窓の外を見た。まだ昼前の空は青く澄んでいる。
クリストファーが何をしに来るのか――、想像はつく。
「答え……、なきゃね」
好きだと言われ、一緒に国外に逃げてくれと誘われた。その答えを、まだ返していない。
カトリーナはぎゅっと締め付けられたように苦しい心臓の上をおさえて、クリストファーの瞳の色と同じ青い空を見上げた。
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