2
カトリーナはゆっくりと瞼をあげた。
視界に飛び込んできたのは、見慣れたベッドの
(わたし……、どうしたのかしら?)
カトリーナは天蓋の白いレースを見つめて、ぼんやりと考える。
「カトリーナ?」
すぐそばから呼ばれて、カトリーナはハッとした。
頭を横に向けると、そこには心配そうな顔をしたレオンハルトがいる。彼の顔を見た途端、カトリーナの心臓がトクンと音をたてた。
「大丈夫か? 気分は悪くない?」
レオンハルトがそう言って、カトリーナの顔を覗き込む。
レオンハルトに間近で見つめられて、頬が熱を持つのを感じながら、カトリーナはコクンと頷いた。
体を起こそうとすると、レオンハルトが背中に手を添えて支えてくれる。
身に着けているものは、ドレスのままだった。
「君はあのあと、馬車に乗った途端気を失ってしまったんだよ」
説明されて、カトリーナは思い出した。
ミルドワース伯爵の邸の、二階の部屋から飛び降りたあと、レオンハルトの指揮で伯爵や邸にいたものたちが捕えられるのを見た。
伯爵たちが引き立てられたあと、庭に降りてきたクリストファーに、あとは引き受けるからいったん邸に戻って休むようにと告げられて、カトリーナはレオンハルトとともに馬車に乗り――、そして、そのあとからの記憶がない。レオンハルトの言う通り、どうやらそこで気を失ってしまったのだろう。
気が張り詰めていたこともあるだろうが、おそらく昨夜は眠れなかったので、そのせいだろう。レオンハルトに恥ずかしいところを見せてしまった。
今は何時だろうかと窓外に目を向けると、オレンジ色に染まっている。
「わたし……、ずっと寝ていたのね」
「疲れていたのだろう。まだ休んでいていいんだぞ」
カトリーナは首を横に振る。
そして、レオンハルトの夏の空のように青い双眸をじっと見つめた。
「な、なんだ?」
黙って凝視してくるカトリーナにレオンハルトがうっすらと頬を染めてたじろいだように視線を逸らす。
(レオンが……、十二年前の王子様なのよ、ね)
レオンハルトは、覚えているのだろうか。
「レオン……」
「どうした?」
カトリーナは十二年前のことを訊こうと口を開きかけて、――結局何も言わずに首を振った。
十二年前の王子様はレオンハルトであってもそうでなくても、覚えていてもいなくても、別にいい。カトリーナは今のレオンハルトが好きなのだから。
「あのね、結局なにがなんだかちっともわからないの。説明してくれる?」
かわりにそう訊ねると、レオンハルトは「そうだったな」と頷いて口を開く。
カトリーナは説明するレオンハルトを見つめながら、そっと心臓の上をおさえた。
カトリーナがどれほど好きになったとしても、レオンハルトには別に好きな人がいる。
泣きそうになるのを堪えて、笑顔を作るのが、つらかった。
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