6
クリストファーを見つけるのは容易なことだった。
というのも、クリストファー自身が、自らレオンハルトに会いに王家の別荘を訪れたからだ。
カトリーナは必ず助け出すからと言ってアリッサはアッシュレイン邸に返していたため、レオンハルトはエドガーと二人でクリストファーに向き合っていた。
「カトリーナは無事だな?」
レオンハルトが険しい顔で訊ねると、クリストファーは静かに頷いた。
「いろいろ、もうわかっていそうだね」
「ミルドワース以外に、今更こんな馬鹿げたことを計画する奴はいないだろうからな」
「確かに馬鹿げているかもしれないけど……、それを火種に、もう一度十年前のようないざこざが起こる可能性は無視できないよ」
クリストファーは弟の目をじっと見つめたあとで、諦めたような表情を浮かべた。
「本当は、君を巻き込むつもりはなかったんだけどな……」
クリストファーは高く足を組む。
テーブルをはさんで真向かいのソファに座る弟とエドガーの顔は険しいままだ。
「ミルドワースは、それこそ十年前のあのときから、君を失脚させることをあきらめていなかった。それでも、僕がこの国に戻ってこなければ大丈夫だろうと思っていたんだが、つい最近、彼が君の殺害を企んでいることに気がついてね。君が死ねば、必然的に王位継承権を持つ僕が呼び戻される。馬鹿げた計画かもしれないが彼は本気で―――、それに気づいた僕は、ミルドワースを説得するためにこの国に戻って来た」
クリストファーは紅茶に角砂糖を一つ落として、銀のスプーンでかき混ぜる。
「王太子を殺害しようとすれば、僕の祖父のようになる―――そう脅したら、さすがの彼もひるんだようだった。でも、そんなことで彼が諦めるはずはなく、何かないかとほかの策を探しているうちに、カトリーナを使うことを思いついたらしい」
「カトリーナを巻き込むな!」
「僕に言わないでくれ。まあ……、止められなかった責任は僕にあるが」
レオンハルトはチッと舌打ちする。
「カトリーナは無事なんだろうな」
「ああ、くれぐれも手荒に扱わないように言い含めてきた」
それを聞くと、レオンハルトは肩の力を抜く。
クリストファーは黙ってテーブルの上に紙の束をおいた。
エドガーが怪訝そうな表情を浮かべて紙に書かれた内容に目を通し―――、徐々に目を見開いていく。
「殿下―――」
「使われなかった君の暗殺計画だ」
クリストファーが言う。
「使わなくなったからと処分されているかと思ったが、ミルドワースの書斎の引き出しに残っていた。計画に賛同している貴族の署名もある。これで一網打尽だろう?」
レオンハルトがエドガーから紙の束を受け取り、書かれていることを確かめると眉間に皺を刻む。
「僕はミルドワースに信頼されているから、そう簡単には気づかれないだろうが、あまり悠長にも構えていられない。カトリーナは二階の西の部屋だ。それがあれば兵も動かせるだろう。ミルドワースが気づく前に、カトリーナを救い出してくれ」
クリストファーはそう言って立ち上がる。
「どこへ行く気だ?」
「あまりここに長居していては不審がられるからね。今日は君を説得すると言ってここまで来たんだ。僕は、ミルドワースの邸に戻るよ」
「終わったあとは?」
部屋を出て行こうとしたクリストファーの背中に、レオンハルトは声をかけた。
「え?」
クリストファーが肩越しに振り返る。
「カトリーナを助け出し、ミルドワースらを捕えたあと―――、お前はどうするんだ」
クリストファーは微苦笑を浮かべた。
「僕はまた国外に戻るよ。……本当は、カトリーナも一緒に来てほしかったけど、たぶん、振られちゃったかな」
じゃあね、とヒラヒラと手を振りながらクリストファーが部屋を出て行くと、レオンハルトは紙の束を握りしめて唇をかんだ。
「またあいつは……、一人で全部背負うのか」
苦しそうなつぶやきを落としたレオンハルトの肩に、エドガーはそっと手をおいた。
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