6
一方そのころ――。
カトリーナは退屈していた。
カントリーハウスについて早二日。
青々とした芝生に覆われている広い庭に、高い空、白壁の大きな邸の裏手には小川が流れて、小川のさらに奥にはそれほど高くない山が広がる。
邸から少し離れたところにはブドウ畑が広がり、少し幅広の川が流れる先には風車がある。
風車より低いところにある場所には民家が立ち並ぶが、カントリーハウスがあるこのあたりに家はほとんどなく、せいぜいブドウ畑の近くに小さな小屋と、ワインを作るための少し大きなレンガ造りの建物があるくらいだった。
つまり――、周りには何もないのである。
日の高いうちには庭に出るなと口うるさい母、クラリスがいないのをいいことに、カトリーナは庭の大木に括りつけられたブランコに腰を下ろして大好きな恋愛小説を読んでいたのだが、半分ほど読んだところで顔をあげ、はあ、と嘆息した。
「なぁーんにもすることがないわ……。このまま素敵な出会いもなく、おばあちゃんになったらどうしよう……」
ポツンとつぶやけば、ティータイムの準備を終えてカトリーナを呼びに来たアリッサがそれを聞きつけて、あきれ顔を作った。
「またそれですか。まだ二日しかたっていないのに」
「だって暇なのよね……。小川で水遊び―――」
「いけません」
「お菓子作りとか……」
「お嬢様はキッチンへの出入りは禁止です」
「ちょっとくらいいいじゃないの」
「だめです」
カトリーナはぷうっと頬を膨らませる。
恋愛小説は大好きだが、あまりにも暇すぎる。
しかも、暇だからと言って、昼まで惰眠をむさぼろうとしたら「怠惰はいけません!」とアリッサにたたき起こされた。仕方なく昼寝をしようと、庭師にお願いして木陰にハンモックをつるしてもらおうとしたら、これもやっぱりアリッサに怒られた。
「アリッサぁー」
カトリーナはブランコに座ったまま上目遣いでアリッサを見上げる。
「仕方ありませんね……。明日、買い出しに行こうと思っていたんです。隣町まで馬車を出しますので、お嬢様もご一緒に行かれますか?」
「本当!? もちろん行くわ!」
カトリーナはパッと顔を輝かせると、ブランコから立ち上がった。
そして、今日のティータイムのお菓子は何かしら、とうきうきした足取りで邸に向かって歩いていく。
アリッサはやれやれと肩を落としながら、カトリーナの背中に声をかけた。
「本日は料理長がスコーンを焼いています。クロテッドクリームをつけてお召し上がりくださいとのことです」
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