恋の予感

1

 ガタン――


 王都を出ると、舗装されていない道が続く。


 ガタガタと揺れる馬車の中で、カトリーナは不貞腐れていた。


 カトリーナの真向かいに座っているアリッサは、風船のように頬を膨らませているカトリーナにこっそりとため息をつくと、馬車の帳に手をかける。


「お嬢様、もう帳をあげても大丈夫ですわ」


 勤めて明るく言って、アリッサが馬車の帳をあげると、小さな窓の外に広がる一面の田畑の緑が太陽の光を浴びて青々と輝いている。


 だが、カトリーナは窓の外にはちらりと一瞥を投げただけで、頬を膨らませて拗ねたまま、馬車の座席にごろんと横になった。


 いつもなら行儀が悪いと注意するアリッサも、今回は多少なりともカトリーナに同情しているので黙っている。


 カトリーナは座席の天鵞絨ビロードに頬をぴったりとくっつけて、昨日のことを思い出していた。

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