5

「行ってしまわれたわ」


 カトリーナは金髪の男性の姿が見えなくなると、頬に手を当てて首を傾げた。


「大丈夫かしら?」


 ふらふらと足元もおぼつかない様子だった。酒に酔ってしまったのだろうか。酔っているようには見えなかったけれど、気分が悪いと言っていたから心配だ。


 カトリーナは彼を地獄に突き落としたのが自分だとはちっとも気がつかずに、彼が消えた先をしばらく見つめていたが、いつまでもここにいても仕方がないと立ち上がる。


 そして、彼がカトリーナのために敷いてくれた白いシルクのハンカチに気がついた。


「まあ、どうしましょう」


 ハンカチを忘れて帰ってしまわれたようだ。


 カトリーナはハンカチを持ち上げると、その隅にひまわりの小さな刺繍を見つけて微笑んだ。


(ひまわりがお好きなのかしら? 可愛らしい方)


 カトリーナは持ち前の能天気さで「きっとそのうち会えるわね」と、ハンカチを大切に畳むと、次に会ったときに返すことにした。


 そうして、次のときめきを探しに会場に戻ったのだった。

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