第2話 冬
最近、恋人との会話が減った気がしていた。だから、面倒くさがる彼を引きずり、近くの公園まで散歩にきた。二人して出掛ければ、少しは今の状況が改善できるかもしれないと思ったから。
でも、道中も公園に辿り着いた今も、私達の間に会話は全く発生していない。
結局は、二人して無言で公園の池を見つめているだけだ。
「オシドリってさ、毎年毎年、つがいの相手を変えるんだって」
不意に、公園の池に浮かぶ派手な色の水鳥を指差しながら、彼はそう言った。
今の状況を何とか打破しようとしている人間に向けるには、心なさ過ぎる台詞ではないだろうか?
「だから、何なの?」
不機嫌になりながら問いかけると、彼は目を泳がせて、別に、と呟いた。別に、と言うのなら、わざわざそんな話題を出さないで欲しいし、あからさまに動揺しないで欲しい。ただ、ここまで分かりやすいと、追及する気にもならない。
まあ、彼と会話をする、という目的だけは達成しておきたいから、適当に話を続けよう。
「地域によっては、食材としても利用されてるんだって」
私は話題を変えながら、水面に浮かぶ派手な色の水鳥に目を向けた。
「そうなんだ。食べたこと、あるの?」
すると、意外そうな彼の声が耳に届いた。
「何回かあるけど、そんなに美味しい物でもなかったよ」
灰色の空が映り込んだ池を進む派手な水鳥を目で追いながら、彼の質問に答える。
「ふーん、そうなんだ。どんな味だった?」
「筋っぽくて、酸味が強いね。臭いも独特だし、美味しくはなかったよ」
正直なところ、食べられた物ではなかった。ただ、今の時期なら、ネギと生姜が安く大量に手に入るから、少しはまともな料理にできるかもしれない。
そういえば、前に食べたのはいつだったかな?
寒い季節ではなかった、ということは覚えているのだけど……
「そう言われてみると、ちょっと食べてみたいな」
記憶を掘り起こしていると、興味を隠しきれないといった調子の彼の声が聞こえた。前々から物好きなヤツだとは思っていたけど、まさか食べてみたいと言い出すとは思わなかった。
「あー……やめた方がいいよ。本来食べる物じゃないから、あまり食べすぎると体によくないらしいし」
興味本位の言葉に忠告すると、彼は、え、と驚いた声を上げた。
「そうなの!?何回か食べたことあるって言ってたけど、大丈夫!?」
「まあ、二回くらいだし。それに、そんなに大量に食べたわけじゃないから」
私が答えると、彼は心配そうな声で、でも、と呟いた。
家を出る前なら、私のことを心配してくれた、と嬉しがりもしたかもしれない。でも、私から離れようとしていると分かった今は、何の感慨も湧かない。別の相手ができたなら、もうこちらに構わなければいいのに。
半ば呆れていると、彼は黙り込んでしまった。このままでは、らちがあかなくなりそうだ。
「……じゃあ、貴方も食べてみる?そうすれば、味も危険性もたいしたことないって分かるだろうし」
ため息まじりに提案すると、彼は訝しげな声で、え、と呟いた。
「そんなにすぐに手に入る物なの?」
「まあ、ちょっと手間はかかるけど……今日ちょうど食べようかと考えてたから」
そう言った途端、派手な色の水鳥は水面から飛び去っていった。別に、君のことを食べると言ったわけではないのに。
「じゃあ、帰りに材料を買って行こうか」
水鳥を目で追っていると、楽しげな彼の声が聞こえた。顔を向けると、屈託のない笑顔が目に入る。
この笑顔は、わりと好きだったのに。
でも、心変わりをしてしまったのなら、仕方がないか。
「じゃあ、ネギと生姜、クコの実と花椒、あと鷹の爪を買って帰ろう」
私の言葉に、彼は笑顔で頷いた。
「分かった!何か手伝えることはある?」
手伝えること、か。
前に食べた部位だと、二人して食べるには少なすぎるかもしれないか。
「じゃあ、右手と左手、どっちが要らないか教えて」
私が問いかけると、彼は不思議そうに首を傾げた。
「なんで、そんなことを聞くの?」
何故も何も……
「だって、貴方オシドリを食べてみたいんでしょ?ああ、手より足の方がよかった?」
私の質問に彼は答えなかった。ただ、青ざめた表情を浮かべて、黙り込んでしまっているだけだ。風も冷たくなってきたから、早く答えて欲しいんだけどな。
その後も、彼は何も答えず、時間だけが過ぎていった。会話のきっかけが欲しくて寒空の下、出掛けてきたいうのに、別れ話をほのめかされるわ、結局二人して黙り込む羽目になるわで、散々な結果となってしまった。
無言の彼を見つめるのにも飽きてきたので、私は何気なく池に目を戻した。
水面には再び派手な色の水鳥が浮かび、高い声でヒヨヒヨと
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