50話 ファルムの笑顔には勝てない

「えっと……ファルムさん、なにかいいことでもあったんですか?」


 朝食の最中。満面の笑みを絶やさないファルムに、リノが若干の躊躇を挟んでから問いかける。

 ちなみに、今朝はお赤飯を用意した。理由は言わずもがな。


「えへへぇ、やっぱり分かっちゃうかしら?」


「まぁ、明らかに様子が変ですから」


「ふふっ、確かにそうかもしれないわね~♪」


 ファルムの声が明るく弾む。

 リノとサクレは一旦箸を置き、興味深そうに注目する。


「実は、とうとうカナデと身も心も一つになれたのよ!」


 次の瞬間、二人の視線がものすごい勢いで私に向いた。

 私は変にごまかしたりせず、コクリとうなずく。

 内容ゆえに、どうしても顔が熱くなる。きっと耳まで真っ赤になっているだろう。

 あえて言いふらすようなことではないと思うけど、この二人には知ってもらいたい。


「おめでとうございます! なるほど、だから今朝はお赤飯なんですね」


「本当におめでとう、二人とも。余も自分のことのように嬉しいぞ」


 リノとサクレが笑顔で祝福してくれる。

 最愛の恋人と結ばれて、家族同然の子たちに祝ってもらえて。こんなにも幸せなことはない。


「ありがとうっ」


 私も自然と笑顔がほころび、感謝を口にする。


「これからは好きなときに好きなだけセックスするわよ! ねっ、カナデ?」


 刹那、場の空気が凍り付いた。魔法の一種かと思うほど、完璧に。

 しばらくして、溜息が連鎖する。


「そういう発言は、むしろ逆効果だと思うぞ」


「ファルムさん、デリカシー皆無どころの問題じゃないですよ」


 サクレとリノが続け様に苦言を呈する。

 なんというか、既視感を覚えるやり取りだ。羽目を外し過ぎないよう、この流れが重要な役割を果たしてくれていると言えなくもない。

 不安気に私を見やるファルムの頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに表情を緩ませてくれた。

 さっきの言動には私も呆れちゃったけど、この笑顔を見るとすべて許せてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る