48話 身も心も
布団に入って電気を消し、後はもう眠りに就くだけ。
先ほどまでしりとりをして遊んでいたリノとサクレは、すでにぐっすりと眠っている。
二人に背を向け、同じ布団の中にいるファルムと向かい合う。
おやすみのキスは日課となっているけど、この高揚感には一向に飽きが来ない。
「んっ」
どちらからともなく顔を近付け、唇と唇をピッタリと合わせる。
ファルムのぷるんとした唇の感触が実に心地よく、確かな温もりが全身に伝播していく。
やがて息苦しさを覚え、呼吸のために唇を離す。
二人の唇を結ぶ唾液の糸が、窓から漏れる月明かりを反射してキラキラと輝いていた。
雫となって唇を濡らす生温い液体を、ペロリと舐め取る。ほとんど無味であるはずのそれは、上等な蜜のように甘く、情欲を掻き立てる。
「ファルム、大好きだよ」
紛れもない本心だけど、言葉にするとどうしても照れてしまう。
キスの興奮も相俟って、私の顔は真っ赤になっているはずだ。
「あたしも大好きよ。それで、その……」
ファルムは穏やかな微笑を浮かべて愛を囁いてくれた後、切なげに眼を細め、歯切れ悪く言いよどむ。
もしかして、いまのキスで嫌な思いをさせてしまったのだろうか。
憶測から生じた不安が見る見るうちに広がり、サーッと血の気が引くのを感じる。
そんな私の手をギュッと握り、ファルムは潤んだ瞳で見つめてきた。
いままさに告げられようとしている言葉を、心して待つ。
「どうしても、したくて……ダメ、かしら?」
嫌な予感が外れてホッとすると同時に、油断すれば取り乱してしまうほどの焦りが生まれる。
深呼吸をして、頭を落ち着かせる。
彼女が言わんとすることが分からないほど、私は鈍感ではない。
いつもと違って直接的な単語こそ口にしていないけど、本気だという意思は如実に伝わってくる。
思えば、ずいぶんと我慢させてしまっていた。
煮え切らない態度に憤ることもなく、私の意思を尊重してくれた。
いままでずっと待たせてごめんと胸中で謝りつつ、言葉ではなく行動で答えを示す。
ファルムを抱き寄せ、唇を奪う。
意図は無事に伝わったようで、普段とは異なる行為に発展していく。
ファルムの手が私の胸に触れ、ゆっくりと指を突き立てる。
「んぁっ」
二人の雰囲気や気持ちが影響しているのだろうか。単調な動作でありながら信じられないぐらいの快感に襲われ、思わず嬌声を漏らしてしまう。
ハッとなって背後を一瞥し、リノとサクレが寝静まっているのを確認して安堵する。
「いざというときは、あたしが口を塞いであげるわ」
「あ、ありがとう」
どういう方法で唇を塞ぐのか、考えるまでもなく理解できた。
目を合わせ、熱い吐息を漏らしながら、初めての経験に戸惑いながらも、本能のままに体を重ねる。
日付が変わる頃には汗だくのパジャマと下着を脱ぎ捨て、産まれたままの姿で愛し合っていた。
全身を使って、ときには声に乗せて、素直な想いを、最愛の相手に届ける。
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