36話 いまさらだけど、いきなりすぎる

 今日も今日とて、学校で誰とも話せないまま放課後を迎えた。

 以前なら重い足取りで帰り道を歩いていたけど、いまはファルムたちがいる。

 みんなのことを考えると無意識のうちに歩調が速まり、あっという間にアパートへ到着。

 鍵を開けていると中から足音が聞こえ、家の中に入ると三人が出迎えてくれた。

 帰宅した後の安心感は、実家に勝るとも劣らない。

 洗面所で手洗いうがいを済ませてリビングに戻ると、リノとサクレは最近ハマっているスマホアプリで一緒に遊んでいた。

 ブレザーをハンガーにかけていると、ファルムがスタスタと近付いてくる。


「そう言えば、大事なことを聞き忘れてたわ」


「ん、なに?」


 夕飯の献立かな。

 それとも、デザートのことだろうか。



「っ!?」


 私だけじゃない。リノとサクレもまた、ファルムの言葉に驚愕してこちらに注目する。


「セックスまで秒読みってところまで進展してるけど、あたしたちってべつに恋仲じゃないでしょ? 肩書きなんて些細なことだとは思うけど、ハッキリさせておきたいと思ったのよ。知っての通りあたしはカナデが大好きだから、カナデが同じ気持ちを抱いてくれているのなら、正式に恋人を名乗らせてほしいわ」


 動揺のあまり言葉が出せず無意味に口を開閉させていると、ファルムが丁寧に説明してくれた。

 迂闊に触れると話がこじれそうなので、序盤の発言についてはスルーしておこう。

 いまはもっと、大切な本題がある。

 生まれて初めての告白。この事実だけで、飛び跳ねてしまいそうなほど嬉しい。

 その場の勢いで返事をする危険性は女子高生として最低限理解している。

 だけど、相手がファルムの場合に限っては別だ。

 突然の告白に頭が真っ白になったものの、考えるまでもなく、胸の内にある強固な想いが答えを導き出している。


「私も大好きっ!」


 私は声を弾ませ、感情を抑えきれずにファルムをギュッと抱きしめる。


「んむっ、く、苦しい――けど、カナデの胸で窒息するなら本望だわ」


「ご、ごめん」


 喜びのあまり加減を誤ってしまった。

 いくら不老不死とはいえ息苦しさは感じるのだから、抱きしめるときは気を付けないと。


「名実共に特別な関係になったわけだし、さっそくセックスするわよ。ほら、早く服を脱いで股を開きなさい」


「……さてと、ご飯の準備でも始めようかな」


 私はファルムの肩を掴んでグッと遠ざけ、キッチンへ移動する。

 心から信頼しているし、愛情だって抱いている。

 とはいえやっぱり、デリカシーの欠片もない言動には呆れざるを得ない。


「ファルムさん、あなたって本当にどこまでも残念なエロエルフですね」


「……なんだか、かわいそう……」


 リビングではファルムが二人から憐れまれ、いつも通りの口ゲンカへと発展させていく。

 背後から聞こえる喧噪を微笑ましく思いつつも、心の中は穏やかじゃない。

 いままでよりももっと親密なつながりを持てるのだと、とてつもない期待と高揚感で胸がいっぱいだ。

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