33話 大きな一歩

 毎日のお楽しみ、バスタイム。

 浴室から漏れ出る爽やかな檜の香り。いつも嗅いでいるのに、今日も今日とて期待感で胸が膨らむ。

 逸る気持ちを押さえつつ、そわそわしながら服を脱ぐ。

 下着を洗濯機に入れて棚からタオルを取ると、ファルムがなにやら神妙な面持ちで話しかけてきた。


「カナデ、今日からあたしに体を洗わせてくれないかしら?」


「私の体を、ってこと?」


 リノやサクレ、もしくはファルム自身という可能性もあるので、念のため確認を取っておく。


「ええ、もちろん。嫌なら無理強いはしないけど」


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。でも、変なことはしないでね?」


 ヘタレだからできないだろうけど、という言葉は頭の中に留めておく。

 リノとサクレも同じことを思ったのか、なにか言いたげな視線をファルムに向けている。なんとなく表情がニヤニヤしているように感じるのは……気のせいかな?

 浴室に移動した後はいつも通り三人の体を洗い、リノとサクレには先んじて湯船に浸かってもらう。

 ファルムは正面から洗いたいとのことで、普段より後方にバスチェアを動かしてから腰を下ろす。

 自信ありげな表情で私の胸を凝視する様子を見ると、少しばかり不安になる。


「さぁ、始めるわよ!」


 声高々に宣言し、大げさな動作でボディソープを手に垂らすファルム。

 左側を一瞥すると、リノとサクレが並んで湯船の中から興味深そうにこちらを眺めていた。

 ファルムは深呼吸を繰り返した後、カッと目を見開いて勢いよく手を伸ばす。

 私の胸に、ファルムの小さな手が沈み込む。

 腕でも肩でもなく、胸から洗われることになろうとは。

 意図的かどうかは分からないけど、中指の付け根辺りの骨が乳頭に当たり、痺れるような刺激が脳にまで響く。


「カナデ、痛くない? 気分が悪くなったりしたら、すぐに言いなさいよね」


 パン生地をこねるように指を動かしながら、ファルムが心配の声をかけてくれた。

 大丈夫だと答えると、ホッとしたように表情を緩ませる。

 かわいらしい手で一所懸命に洗ってくれる姿は、健気で甲斐甲斐しい。

 ほどよい力加減が心地よく、マッサージを受けているような気分だ。




 ぎこちなくも丁寧な所作で隅々まできれいにしてもらい、仕上げにシャワーで泡を洗い流す。

 アソコをまじまじと見られたのはさすがに恥ずかしかったけど、何事もなく終わってよかった。


「やり遂げたわよ! カナデの体、ちゃんと洗えたわ! そうよね、カナデ! あたし、しっかりできてたわよね!」


「うん、ありがとうね。ファルムのおかげできれいになったよ」


「確かに、ヘタレとは思えない手つきでしたね」


「……見直した……」


 湯船の中で、和気あいあいと会話を弾ませる。


「ところでカナデ、普段より乳輪がぷっくりしてて、乳首もビンビンになってたわよ? いったい、なにが原因なのかしらね~? 寒いから、ってわけじゃないわよねぇ~?」


 痛いところを突いてくる。

 実際に触られている以上、とぼけることもできない。


「だ、だって……ファルムが、エッチな触り方するから」


 本当のことだけど、羞恥で顔がどんどん熱くなる。


「それってつまり、あたしに触られて興奮したってこと?」


「ちっ、違うよ! いや、違うこともないけど……もうっ、恥ずかしいこと言わせないでっ」


 私はいたたまれなくなって、照れ隠しでファルムにお湯をかけながら顔を背けた。




 翌朝。起きてすぐのこと。

 ファルムに胸を揉まれ、おぼろげだった意識が瞬時に覚醒した。


「なっ、なにゃなっ、にゃにをっ!?」


 突然の出来事に激しく動揺し、思いっきり噛んでしまう。


「おはよう、カナデ。今日もいいおっぱいね。約束通り、遠慮なくセクハラさせてもらうわよ」


 どこか余裕を感じさせる表情のファルム。

 私は先日交わした約束を少し後悔しつつ、憤りや不快感は皆無で、もっと触ってほしいとすら感じていることに驚く。


「ねぇ、ファルム。お風呂の件なんだけど、体を洗うときにエッチな触り方をするのはやめてね。もし嫌なら、次からは自分で洗うから」


「えっ!? ま、まぁ、仕方ないわね。カナデが望むなら、素直に従うわ」


 見るからにショックを受けているものの、胸を揉む手は止まらない。

 いまはまだ、服越しだから問題ない。どうにか耐えられる。

 だけど、お風呂では当然ながら裸だ。

 直接またあんなふうに触られたら、次は我慢できるか分からない。

 想像を絶する気持ちよさも、場合によっては考え物だ。

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