30話 反省 byファルム

 みんなが眠りに就く中、あたしは今日の致命的失敗について反省している。

 奇跡とさえ呼べる状況――カナデが両手を広げて迎えてようとしてくれて、情交に及んで然るべきという場面だった。

 にもかかわらず、取った行動は肩たたき。

 常日頃からセックスセックスと連呼しておいて、ヘタレにもほどがあるわよね……。

 情けなすぎて笑いすら起きないわ。

 まぁ、想定外にエロい喘ぎを聞けたのは収穫と言えなくもないかしら。

 肩たたきであの乱れっぷりなら、セックスのときにどうなるのか想像もつかない。

 隣を見やると、カナデはこちらに体を向けて無防備な寝姿を晒している。本当にもう、言葉にできないほど愛おしい。

 布団の中に頭まで潜ってみると、カナデが放つ特徴的な甘い匂いが体温と共に伝わってくる。

 以前であればパジャマに浮き出ていた突起は、あたしが提供した下着によって身を隠している。惜しいことをしたと思わなくもないけど、カナデに喜んでもらえたのだから後悔はない。

 そろりと顔を出し、天井を仰ぐ。


「はぁ……セックスしたいわね」


 あまりにも強く望んでいるためか、意図せず声に出してしまった。

 とはいえ、果たしてあたしはカナデを満足させられるのかしら。

 逆は考えるまでもない。毎日体を洗ってもらう際、カナデにそのつもりがないにもかかわらず連続絶頂させられているのだから。

 とりあえずは胸を責めるとして、自信満々に愛撫して「ファルム下手すぎ。オナニーするからもういいよ」なんて言われたら、まず間違いなく心が壊れるわね。

 そもそもこの世界においては『胸が大きいと感じにくい』という風説があるみたいだけど、信憑性はいかがなものなのか。

 意思疎通や生活に関係ない事柄は、正確な知識というよりも世間一般に広まっている漠然とした情報としてしか把握していない。

 性感帯を教えてもらうのが手っ取り早いけど……情緒がないというか、なにかが違う気がするわ。

 だったらどうすれば……。

 案外、その場の雰囲気に身を任せるのが最善だったりするのかしら。みんなから言われてるように口先だけのヘタレだから、あれこれ考えても実行できないかもしれないし。

 いやいや、なに弱気になってるのよ。

 今回は肩たたきに終わったとはいえ、自分からカナデの体に触ったと考えれば一歩前進と言えなくもない。

 次の機会がいつ訪れるかはともかく、今度こそ成功させてみせるわ!

 身も心も溶け合うような、最高の初体験を迎えるのよ!

 あわよくばキスだってしたいわ!


「……うぅん……ふぁるむ、まだ、おきてうの?」


 あたしの興奮が伝わってしまったのか、おぼろげに目を覚ましたカナデが呂律の回らない口調で訊ねてきた。


「も、もう寝るわ。あんたもさっさと寝なさい」


「うん。おやすみぃ」


 気の抜けた、にへらっとした笑顔を向けられる。

 なにこのかわいい生き物。この子の魅力と比べたら、あたしのアイデンティティーである創造魔法と歪曲魔法なんてゴミ以下にしか思えないわ。

 無駄に悩み続けて寝坊でもしたら、カナデとの時間が減ってしまう。

 一朝一夕でどうにかなるものでもないし、今日のところはもう寝た方がいいわね。

 結局なにも解決してないけど、カナデのおかげで満ち足りた気分で眠れるわ。

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