26話 何気にすごすぎる面子

 今日も今日とて一人寂しく学校から帰宅して、三人に迎えられて心が温まる。

 夕飯を用意するにはまだ早いので、おなじみの緑茶を淹れて会話を楽しむ。


「みんながこの世界に来てけっこう経つけど、不便なことはない?」


 自分で訊いておきながら、不便に決まっているだろうとツッコミを入れたくなる。

 ファルムたちには、暗黙の了解として外出を自重してもらっている。窮屈なことこの上ないはずだ。

 以前にファルムとリノはこっそり学校に来たけど、それも一度きり。

 魔法の力を持ってすれば、私が危惧しているような事態――警察とか怪しげな組織に目を付けられたりといったことには、ならないかもしれない。

 慎重に検討するのは前提として、いずれはみんなでお出かけしてみたい。近所の公園とかコンビニだけでなく、カラオケとかボーリング、キャンプやバーベキューにも憧れる。


「不便というか、カナデとセックスできな――」「はいはい、そういうのはいいからね」


 食い気味でファルムの意見に口を挟む。


「ボクはべつにありませんね。元の世界にいたときと違って、穏やかで暮らしやすいです」


「……余も、いまの生活……楽しくて、好き……」


 リノとサクレが迷うことなく答える。

 ファルムのおかげで快適とはいえ、家の中に閉じ込めているような状況だ。嫌な顔をせず文句も言わないなんて、この心の広さは私も見習わなければ。


「実際のところ、カナデが心配してるほどあたしたちは窮屈だって思ってないわよ。超絶美少女なカナデと一緒に暮らせて、おいしいご飯を用意してもらえて、退屈しない時間を提供してもらえる。これで不満なんか言うやつがいたら、細切れにしてドラゴンのエサにしてやるわ」


「珍しく意見が一致しましたね。ボクも同意見ですよ」


「……余も、手伝う……」


 三人の気持ちはすごく嬉しいものの、わりと危険な思想だ。

 みんな根は優しいから、実行しないということは分かっている。


「そう言えば、異世界にはドラゴンがいるんだよね」


 空想の生物だと思っていたけど、実在すると知った以上は興味も沸く。


「いるわよ。個体数が少ないから滅多に遭遇しないけど、あくびしたときに吐かれる炎で森が焦土と化すから、人間にとっては災厄の象徴として恐れられているわ」


 聞くだけでも恐ろしい。

 あくびでそれだけの被害が出るなら、意図的に攻撃されたらどうなってしまうのか。想像しようとするだけでもゾッとする。


「ボクも、ドラゴンが確認された際には王宮の守護より撃退を優先するよう命じられていましたね。まぁ、ボクほどの実力があれば、退けるどころか倒せてしまうわけですけど」


 誇らしそうにドヤ顔を浮かべるリノ。

 ファルムはフッと笑い、わざとらしく肩をすくめる。


「その程度で調子に乗るなんて、所詮は有象無象のザコってところかしら」


「……でも、リノは人間……倒せるの、すごい……」


「んー、それもそうね。この世界で言うなら、子どもが生身で核兵器を無力化するみたいなものだし。実際、リノは人間としてなら世界最強を名乗っても問題ないんじゃないかしら」


 え……サラッと言ってるけど、すごすぎない?

 私なんて、プラスチックのバットにも勝てる自信ないよ?


「……うん、間違いない……」


「ファルムとサクレもドラゴンに勝てるの?」


「勝てるもなにも、あたしやサクレに遭遇したらドラゴンの方が尻尾巻いて逃げるわよ」


「……確かに、そう……」


「癪ですけど、この二人の実力はもはや次元が違いますからね。さすがのボクでも、一瞬で惑星を消し飛ばすことはできません」


 ということはつまり、ファルムとサクレには可能ということ。

 リノにしても、一瞬というタイムリミットを設けなければべつに不可能ではないのだろう。


「ほぇ……」


 開いた口が塞がらないまま、間抜けな声が漏れる。


「そろそろお腹が空いてきたわ。今日はハンバーグが食べたいわね」


「ボクはいつも通り、お味噌汁と玉子焼きを所望します」


「……カツオの、たたき……」


 話題が夕飯のことに切り替わり、三人が各々の要望を口にした。

 先ほどまでとは打って変わって穏やかな内容で、微笑ましい気分になる。


「ふふっ、分かった。すぐに作るね」


 なんだかんだで、ちょうどいい時間だ。

 また機会があれば、異世界のことを少しずつ教えてもらおう。

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