25話 寝起きのワンシーン
「はぁ……最低の悪夢を見たわ……」
起きてすぐに、ファルムは額を押さえて呻くようにつぶやいた。
「どんな夢? オバケに襲われるとか? それとも、高いところから落ちたの?」
いつもの余裕がなく心底憔悴した様子なので、内容が気になって問いかける。
「ぽっと出のOLにカナデを寝取られる夢よ。見るからにキャリアウーマンって感じの美女で……あろうことか、あたしの目の前でカナデとセックスし始めたのよ! ブチ殺してやろうと思っても体が動かなくて、魔法すら使えない。トロンとした表情、生々しい喘ぎ声。普段なら興奮するところなのに、ただひたすらに苦痛でしかなかったわ。無理やり襲われて最初は必死に抵抗してカナデが、次第に自ら求めるように……くっ、まるでエロ同人だわ! ああもうっ、思い出しただけでイライラする!」
「そ、そうなんだ」
思っていたより反応しづらい内容だった。
というか、見ず知らずの相手に襲われるんだから、私にとっても悪夢だ。
「大抵のプレイは嬉々として受け入れる自信があるけど、NTRだけはダメね」
「心配しなくても大丈夫だよ。OLさんの知り合いなんていないし、私なんかに発情する変わり者はファルムぐらいだから」
「そんなわけないじゃない。カナデの体を見て情欲を催さない生物なんてどこにも存在しないわよ」
「なにそれ怖い」
お世辞だと分かっていても、想像しただけでゾッとする。
「安心しなさい、現実ではあたしがちゃんと守ってあげるわ!」
「あ、ありがとう」
さっきまでの態度とは打って変わって、普段の自信満々な姿を見せるファルム。
悔しいけど、心の底から頼もしいと感じ、胸が熱くなる。
「親睦を深めるためにも、セックスするしかないわね!」
「つくづく思うけど、ファルムっていつもエッチなことばかり考えてるよね」
ヘタレの裏返しで発言が際どいということは理解しているけど、それにしても息を吐くように卑猥な言葉が出てくる。
何気ない会話にも当然のように用いられるせいで、ゲシュタルト崩壊を起こして軽い下ネタなら普通に受け取ってしまうことも増えてきた。
「ふっ、もちろんよ。他のことを考えている最中でさえ、カナデとセックスしたいという欲求は常に持ち続けているわ!」
決して威張るようなことではない話を、さも偉業であるかのように語られてしまった。
「言っておくけど、私は簡単に体を許すような軽い女じゃないよ。なにをされてもいいって思えるぐらい信頼できる相手としか、エッチなことはしないからね」
「分かってるわよ。というか、よく未だにあたしと同じ布団で寝れるわね。言い出した本人が言うのもなんだけど、自分の体をエロい目で見る変態の隣で寝るのって相当怖いんじゃないかしら?」
「まぁ、きっかけはファルムのワガママだったけど……いまは心の底から信頼してるから、少しも怖くないよ」
「なかなか嬉しいこと言ってくれるじゃない。欲しい物があったらなんでも言いなさい! 星でも城でも、いくらでも創ってあげるわ!」
「あはは、じゃあ食器を洗うスポンジでもお願いしようかな」
さっき私が口にした言葉の真意を、ファルムはきっと分かっていない。
いまの生活が楽しいし、あえて自分から誘ったりはしないけど、ファルムがもう少しの勇気を出してくれたら、私は喜んで受け入れるのに。
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