18話 カナデさんの朝 byリノ
ボクがカナデさんと出会って、二度目の夜が明けました。
カナデさんは変わらず明るく接してくれつつも、今日はどことなく悲しそうというか、時折表情が曇っているように感じます。
こっそりファルムさんに話を聞いてみたところ、どうやら学校で一人ぼっちであることが原因のようです。
家では色ボケエルフに振り回され、学校では気を許せる相手もいない。なるほど、気が滅入るのも納得です。
「今日は炊き込みご飯を作ってみたよ。けっこう自信作かも」
朗らかな笑顔を浮かべながら、カナデさんが食事を運んでくれました。
ボクが目を覚ましたときにはもう制服に着替えて朝食を作り始めていたので、きっと平日は朝が早いのでしょう。
異世界から来たボクたちを差別せず快く受け入れてくれたばかりか、当然のように食事まで用意してくれる慈愛に満ちた精神。初対面のときに彼女をゴミ扱いしてしまったことは、ボクの人生において最も恥ずべき愚行であったと深く反省しています。
「おいしそうね! デザートはカナデのおっぱいかしら?」
このババァ、本当に自重というものを知りませんね。
ボクはお年寄りに優しいと自負していますが、こいつだけは例外です。
見た目が幼女だからって、なにを言っても許されるわけではないと思います。
年増扱いすると怒るので、口には出しません。
「ぷぷっ、どうせ触れもしないくせに、口だけは積極的ですね~」
「黙れバカ! あんたには関係ないでしょうが! 小便臭いメスガキが偉そうなこと言ってんじゃないわよ!」
ちょっと本当のことを言っただけなのに、逆ギレされてしまいました。
なにかにつけて小便臭いと言われますが、言いがかりも甚だしいです。
用を足した後はきちんと拭いていますし、お風呂でカナデさんにしっかり洗ってもらっていますから。
お風呂と言えば、カナデさんの胸は壮観でした。ファルムさんのような汚らしい劣情ではなく、純粋に芸術的な女体の神秘に対して感動を覚えました。
「二人とも、冷めないうちに食べてね」
そうでした。
せっかくカナデさんが作ってくれた食事ですから、温かいうちにいただくとしましょう。
「いただきます」
今朝のメニューは具だくさんの炊き込みご飯、お味噌汁、玉子焼き、冷奴、野菜炒めです。
栄養バランスがよく彩りも鮮やかで、おいしそうな見た目と匂いが食欲を刺激します。
「どう? おいしい?」
「最高よ! まったく、カナデは見た目も性格も料理の腕も非の打ちどころがないわね。あたしも鼻が高いわ! カナデも存分に誇っていいわよ!」
口の周りに米粒を付けて間抜けな顔を晒すファルムさん。
カナデさんがそれを指摘して指で米粒を取り、自分の口に運びます。
さすがヘタレと言ったところでしょうか。ファルムさんは顔を真っ赤にして固まってしまいました。
「ファルム、もうちょっと落ち着いて食べないとダメだよ」
「わ、分かったわ」
傍若無人なファルムさんが、まるで借りてきた猫のようです。
それにしても、おいしい。カナデさんが自信作と言うだけあって、炊き込みご飯が特に素晴らしい。高級料亭のことはよく分からないですけど、どんな店で出しても絶賛されると断言できます。
金貨――じゃなくて、お金をいくら積んでも足りない最高の朝食を食べ終え、食器を台所に運びます。
カナデさんは慣れた手つきで食器を洗うと、学校へ行く準備を整えて玄関に向かいました。
「待ってるわよ! 全速力で帰りなさい!」
「カナデさんが帰宅するまで、この家はボクが死守しますよ」
ファルムさんと一緒に声をかけると、カナデさんは太陽のように眩しい笑顔で「行ってきます!」と返してくれました。
後で聞いた話によると、こうして送り出してもらえること、帰ったときに出迎えてもらえることが嬉しいようです。
「やっぱりカナデの笑顔は素敵ね。あ~、早くセックスしたいわ」
「……あなたって本当にブレませんね」
色ボケエルフの下品な言動にはつくづく呆れます。
ただ……口には出しませんけど、カナデさんへの一途な気持ちだけは確かなようです。
なんだかんだ過激なことを言いながらも、ファルムさんはカナデさんを悲しませるようなことはしません。
もしヘタレじゃなかったとしても、無理やり襲ったりはしないでしょう。
ボクとしては、発言をもう少し自重してほしいですけどね。
「さてと、確か最後にトイレを使ったのはカナデよね。まだ温もりが残ってたりしないかしら」
いや、本当、ちょっとだけでいいから自重してほしいです。
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