10話 不審

 近くのコンビニに飲み物を買いに行き、お茶で喉を潤わせつつ公園に戻る。

 ファルムは自分が魔法で創ればいいと言ってくれたけど、あまり頼りすぎるといろんな感覚がマヒしそうなので、今回は丁重に断らせてもらった。

 そんなこんなで公園に戻った私たちは、今日初めて自分たち以外の利用者を目撃した。


「あ、女の子だ」


 少し離れたところにあるベンチで、中学生ぐらいの少女がソファにでも寝転ぶかのように堂々とくつろいでいる。

 ツインテールにした長い髪はきれいな水色だ。

 傍らにはゲームに出てきそうな西洋風の剣が立てかけられており、これが明らかに少女の背丈よりも長い。

 なんのキャラか分からないけど、コスプレと見て間違いなさそう。

 服は上がタンクトップで下はホットパンツと、露出度が高い。


「見知らぬ女に反応するなんて……カナデ、あんたは少し分からせる必要がありそうね」


 ファルムは腰に手を当て、上目遣いで私を睨み付けた。

 べつに恋人というわけでもないのに、なぜか悪いことをしたような気分になってしまう。


「ち、違うよ、ちょっと気になっただけだって」


 罪悪感のせいか、他意はないのに言い訳っぽいセリフが漏れる。


「チッ、仕方ないわね。アへ顔ダブルピースで勘弁してあげるわ」


 アへ顔ダブルピースってなんだっけ。

 ほとんど白目の上目遣いをしながら両手でピースすること、だったかな?

 確かエッチな言葉だった気がするから、スルーさせてもらおう。


「舌打ちしなくても……」


 ただ、気持ちは分からなくもない。

 もし逆の立場だったら、私も少なからず不機嫌になっていたはずだ。

 恋愛感情とは違うけど、なんだろう……うん、自分でもよく分からない。多分、独占欲とかそういうの。


「なんにしても、はやめておきなさい。あんたにとっては厄介よ」


「どういうこと? あの子を知ってるの?」


「話したことはないけど、同郷よ。あたしほどじゃないにしても、桁外れの魔力を内包してるわね」


 同郷って、異世界出身ってこと?

 じゃあ、あの髪も地毛なんだ。

 なんて冷静に受け止められているあたり、私の順応力もファルムのおかげでかなり鍛えられている。


「あの子もファルムと同じ事情でここに来たのかな?」


「それはないわ。あたしだから追放で済んだけど、普通は神に歯向かったら魂まで消滅するわ」


「じゃあ、観光とか?」


「二次元の文化ぐらいしか取り柄がない辺境の世界に?」


 散々な言われ様だ。


「なんにしてもワケありなのは間違いないわ。もしカナデが襲われでもしたらトラウマを植え付けることになるから、接触は避けたいわね」


「トラウマって……私、そんなひどい目に遭わされるの?」


「あたしがいる限り、あんたには指一本触れさせないわよ。でも、目の前で生き物が肉塊に変わる瞬間なんて、見たくないでしょ?」


 とてつもなくかっこいい発言の後に、半端なくグロテスクなことを言われてしまった。


「襲われることはないにしても、コスプレじゃないってことはあの剣も本物ってことだよね。危ないから、一言かけておこうかな」


 この世界の常識を知らないまま銃刀法違反とかで逮捕されたらかわいそうだ。

 私は一抹の警戒心を抱きつつも、ベンチに横たわる少女の元に歩み寄る。


「もし告白されても断りなさいよ」


 隣を歩くファルムが不機嫌そうにつぶやく。

 告白なんてされたことがないので、心配は無用だ。

 ファルムからは『世話をさせてやる』って言われたりエッチな要求を何度もされているけど、あれは告白にカウントしてもいいのかな?


「うん、分かった」


 そんなやり取りを交わしながら、あと数メートルの距離にまで近付いたとき――


「敵ですかぁ?」


 ――少女が目を覚まし、同時に握った剣の切っ先をこちらへと向けた。

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