6話 とても眠れる状況じゃない byファルム

「それじゃあファルム、おやすみ」


「お、おやすみなさい」


 あたしは違う世界から来たハイエルフのファルム。

 この世界で一目惚れした人間の少女――カナデと、同じ寝床で眠りに就こうとしている。


「すぅ……すぅ……」


 幸せそうな寝息が聞こえる。

 信頼してもらえているのだと思えば、嬉しい限りだわ。

 問題はあたしの方。

 ドドドドドドドドドッッッ!

 心臓が異常なほどに早鐘を打っている。

 魔法でカナデには伝わらないようにしているし、たとえ心臓が破裂したところであたしは死なない。

 重要なのは、尋常じゃなく緊張しているということよ。

 かつて悪魔との戦いで瀕死の重傷を負う戦いを繰り広げたとき以上の緊張感。


「カナデ」


 ボソッと名前を呼んでみても、もちろん反応はない。

 意識のない状態でもカナデはあたしのことを優しく抱きしめてくれている。

 彼女が身にまとうのは、ピンクを基調としたシンプルながらもかわいらしいデザインのパジャマ。

 風呂上りに着替えた直後からずっと思っていたけど、明らかにサイズが合っていないわね、これ。

 本人が気にしているであろうことは明白だから、もちろん口には出さない。あたしだってそれぐらいの思慮深さは持ち合わせている。

 下は特筆してコメントするまでもないとして、問題は言うまでもなく上ね。

 体格より二回りほど大きめのサイズに見えるけど、胸の部分だけ明らかに面積が足りていない。

 ボタンは上から二つほど外されていて、滑らかできめ細やかな肌が露出している。

 それに対し袖は当然ながら丈が余っており、指先しか出ていない。

 ふむ……確か、この世界では萌え袖と言ったかしら。異世界出身のあたしも、萌えという感情の一端を理解した気がするわ。

 カナデは寝るときに下着を外す派らしく、服越しにも極上の柔らかさとその奥にある弾力が鮮明に感じ取れ、あたしの本能を強烈に刺激する。

 服を挟んで左右それぞれの突起があたしの薄っぺらい胸に押し当てられ、未だかつてない興奮により頭が割れそう。

 こうしてみると、この爆乳は本当に究極の宝と言う他ないわね。

 圧倒的な重量感を備えながら、型崩れなど想像も許さないほど見事な形を維持し、ハリツヤ共に感嘆を禁じ得ない一級品で、柔らかさも弾力も兼ね備え、しっとり滑らかな肌触りは筆舌に尽くし難い快楽をもたらす。

 思わずゴクリと生唾を飲む。深呼吸をして強制的に思考を切り替えようとしたら、カナデが身にまとう上品な甘い香りが鼻孔をくすぐって逆に心が乱れてしまった。

 このままじゃいつまで経っても眠れない。

 ふと視線を上げると、安らかな寝顔が視界に飛び込んだ。


「きれい……」


 無意識のうちに、感想が漏れる。

 こうして間近で観察すると、破壊力が半端ない。

 カナデは自分をボッチだと称していたけど、きっとあまりに桁外れな魅力が周囲を圧倒してしまっているのだろう。

 サラサラの髪、長い睫毛、かわいらしい鼻、血色のいいピンクの唇はぷるんっと艶やか。

 人間の言語でどのように表現すれば最適なのか、あたしはまだ完全に把握できていない。

 一つ断言できるのは、カナデを言い表す際に必要なのは最上級の言葉だけだということ。


「大好きよ、カナデ」


 ここぞとばかりに、心からの気持ちを言う。

 きっかけは本当に見た目だったし、彼女の体に対する尋常ならざる興味はこの先も尽きないと思う。

 ただ、あたしは外見だけではなく、その内面にも好意を抱いている。

 出会って数時間しか経ってないけど、カナデの優しさは身をもって味わった。

 いくら創造魔法による見返りがあるとはいえ、得体の知れない生き物であるあたしを受け入れてくれた。

 年頃の少女にとって貞操を脅かすような言動はさぞかし怖かったはずなのに、あたしを非難こそすれ問答無用で追い出すようなことはしなかった。

 悠久の時を生きてきて一度として体験したことのない感情。

 これが恋であることは、もはや疑うべくもない。

 あの女神――忌々しいメスガキに対しては、気が済むまで犯して肉欲を満たしたいという汚れた欲求だけを催していた。

 こんな辺境の世界に追放されたときは『いつか気が狂うほどの絶頂地獄を味わわせてやる!』と恨んでいたけど、カナデと出会うきっかけを作ってくれたと考えれば感謝すら覚える。


「んぅ……ぁうむ」


 カナデがもにょもにょと寝言を漏らした。

 名前を呼ばれたような気がして、ドキッとする。


「これは徹夜コースかしらね」


 心臓の鼓動は収まるどころか、より激しく脈を打つ。

 幸いにも一晩ぐらい寝なくても平気な身なので、この機会にカナデの寝姿を存分に拝ませてもらうとしよう。

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