第50話 坑道からの脱出

光があった。


岩が開いたのだ。


老婆の灯していたランプの光は、本物の光ではない。


太陽の光こそが、真の光であり、光とは太陽なのである。


神話では、太陽は重要な意味を持つ。


ユキの産まれた東洋の島国では、太陽の女神が岩の中に隠れたおかげで皆が困り果てたという神話もある。


これは、今パーティが置かれている立場とは逆であるが、岩を挟んで向こう側に太陽があるという意味では同じと言って良いかもしれぬ。


とにもかくにも、人類にとってだけでなく、我らのパーティにとっても、太陽の光はまさに希望であった。


「おーい。大丈夫か!」グレイの声だ。


「何とか大丈夫だ!だが急いでくれ!」マットが叫ぶ。


「鍵を投げるぞ。まず、扉を開けるんだ!」


わずかな岩の隙間から腕が伸びて、現実世界へつながる鍵が落とされた。


鉄格子の扉越しにそれを受け取ったのは、神様の言葉に従って生きてきた、心の清いロイであった。


ロイの清い手によって、外側から鉄格子の扉の鍵穴に鍵が差し込まれた。


カチャリと金属音が響き、その音が我らのパーティに安心感を与えた。


ロイは手前に両扉を引っ張ると、キーッと高音の音が響く。


積み重なった岩は、積み方が非常に良かったために、残念ながらと言うべきか、崩れなかった。


光が射し込む上部の隙間を、人が出られるほどの大きさに広げていくしかないようだ。


内部からも力を貸す。


ロイがマットを肩車し、そのマット上にシカルが乗って、岩を押す。


もちろん、そんなことをしている間にも、蛭が這い寄って来ているのだ。


触手の射程圏内にすぐにでも入りそうだし、液体を発射されれば、ロイたちは避けられないだろう。


ジェイコブは、いざとなれば自分が犠牲になろうとロイと背中を合わせて、十字剣を構えている。


そんなジェイコブの意志をユキは知っている。


何か時間を稼ぐものがないのかと無意識に手が伸びて、腰に結びつけた木編み袋の桃を探り当てた。


消化するのに、わずかでも時間を稼ぐことが出来るかもしれない・・・


ゴンと鈍い音が、外から聞こえた。


「やったぞ。とりあえず、シカル出て来てくれ!」


一つの大きな岩を取り除かれて、子供が通れるほどの大きさであるが、シカルならばいけそうだ。


「了解。すぐに岩を除けるから、待っててね!」


シカルはそう言い残すと、マットの頭を足で踏みつけ手を伸ばし、グレイとピートに引っ張られて外の世界へと脱出した。


赤ん坊でも産まれて来たかのように、グレイとピートは、シカルを祝福し受け止めた。






シカルが加わったところで、大した力の応援にはならないと予想出来ようが、ところが大いに役に立った。


「縄を持って来て!」


シカルが声をかけたのは、岩の下で様子を伺っていたマリーであった。


マリーはレールを辿って走り、岩置き場へと消えていった。


グレイの従者一人もマリーに着いて行った。


大岩たちの上に巨大な岩がドスンと居座り、どうにもこうにも動かせないのだ。


マリーと従者は間もなく戻ってきた。


言われた通り、縄の束を物置小屋から二人でかついで持って来たのである。


ピートが指示をして、巨大岩にうまく縄が結ばれると、残りの者で縄を引っ張った。


そして、とうとう岩が動いたのだ。


巨大岩が転がり落ちると、他の岩も安定を失って、ゴロゴロと転がった。


マットは素早くロイの肩から飛び降り、ロイも崩れる岩から逃げた。


ジェイコブとユキも、前へと避けた。


これは必然的に、蛭の位置に近づくことになった。


目も耳も鼻ない蛭が、どこでそれを感じたのか知らないが、早速触手を伸ばしてきた。


今度は正直にユキにめがけてである。


ユキは用意していた桃を、躊躇せずに投げた!


蛭はその桃を触手で受け止めると、やはり体内に吸収した―――が、何やら様子がおかしい。


白く濁った色をした蛭の色が、透明に変化してきたのだった。


攻撃の触手も引っ込め、液体の体をあらゆる形に変える姿は、激痛に苦しんでいるようにも見えた。


次第に色はほぼ透明になり、形も維持できなくなって、とうとう本当の水のように、地面に散らばっていったのである。


岩の山を超えてグレイたちが走って近づくと、そこには、いくつかの水たまりがあるだけだった。

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