第49話 大蛭
蛭のような白い化け物は形を変えた。
おぼろげながらも、体のほかに頭と両手のようなものが確認出来る。
足はなく、両手を地に着いて、這って進んでいる。
そのため、歩く速さよりも遅いのだ。
しかし、積み重なっている岩が取り除かれる方がもっと遅いだろう。
ジェイコブは十字剣を握りしめている。
ユキは、手始めにクナイを投げた。
見事に頭らしき部分に当たるが、クナイはそのまま物体の中に飲み込まれてしまった。
まったくの無傷だ。
ジェイコブは十字剣で、腕らしきものを斬り落とした。
しかし斬り落とされた腕は、グシャリと地面で液体のように変形し、再び胴体に吸収された。
そして何事もなかったように、腕がまた形作られたのである。
次にジェイコブは、その物体を滅多切りにする。
今度は、水を斬るようなものであった。
いくら切れ味のよい剣でも、液体を斬ることは出来ないのである。
そして、その行為は相手を怒らせたようだ。
腕が伸びて、ジェイコブに襲いかかってきた。
今までの鈍い動きがうそのような、素早い動きだ。
ジェイコブはあわてて避けるが、肩がその物体に触れてしまった。
ジューッと音をたてて肉が焼ける。
硫酸がかかったかのように、ただれる。
顔をしかめるジェイコブ。
肩の一部を、白い物体に食われてしまったようだ。
実際、ジェイコブの肉片を消化しているかのように、蛭のような物体は形をモゴモゴと変えている。
その味を、蛭は気に入ったようだ。
なぜならば、ジェイコブにまたしても手が伸びてきたのである。
今度はジェイコブも、大きく後ろに飛び跳ねて避ける。
二度と同じ失敗を犯さないのが、ジェイコブの信頼出来るところである。
と言いたいところであるが、実は蛭の手は先ほどよりも速く伸びてきたばかりでなく、4つに細分化してスピードが増し、ジェイコブの足首にそのうちの1本が的中したのだった。
間髪入れず本体からもう1本の手が伸びて、新たな獲物であるユキに向かっていった。
果たしてユキは、ジェイコブの動きを見て、対策を思いついたであろうか。
ユキに伸びた手は細分化し、その1本1本がさらに細分化し無数の手、いや、ここは触手という表現が正しいかも知れぬが、無数の触手となってユキに襲いかかったのだ!
ユキは、無数の触手の動きを嫌い、ジェイコブのように精一杯後ろに飛んで避けた。
それによって、触手はユキに届かないように見えたが、触手の方が賢かったといえよう。
なぜならば、ユキに届かないと認識した触手は、細分化された触手の一部を切り離し、液体となってピュッと勢いよく発射したのである。
その白い液体はユキの顔にかかろうとしたが、避けるのが間に合わないと判断し、ユキは腕で顔をかばったのだ。
女にとって、顔が特別な意味を持つことは言うまでもないが、代わりに腕に白い液体がかかってしまい、そこは見るも無惨にも、ひどく焼けただれてしまった。
しかし、それだけの負傷で良かったと言えよう。
蛭はユキに狙いを定め、さらにピュッピュッと液体を発射する。
激痛を負っても、冷静に頭を働かせているところが、ユキの優れているところである。
次の攻撃を予想して、触手からさらに遠くに飛び跳ねて逃げていたのである。
ジェイコブも同様だ。
二人は、蛭の触手の届かないところまで、退避した。
それはつまり、シカルやマット、ロイがいる場所であり、後ろは扉と岩に阻まれているところなのだ。
蛭はその姿を変えて、またモグモグと肉片を消化している。
飛び散った液体も、自らの意志で本体に吸収され、蛭はさらに強化されたように見えるではないか。
蛭を倒す方法があるのだろうか?
この物語は、いよいよ終盤を迎えようとしている。
心地良く終われるよう、我らの頼もしきパーティに期待しようではないか。
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