第48話 地上坑道門 老魔女

昇降機横の階段を、我らのパーティは上った。


そして、ついに地上へと再び戻ってきたのであった。


とは言っても、まだ坑道の中である。


そして、老魔女がまだ姿を現していないことを忘れてはならない。




パーティの先頭はジェイコブ。


その後ろにロイとユキ。


最後列にマットとシカルの隊列で、地上の坑道を進む。


壁のランプは灯っている。しかし、それは途中までだ。


数歩先には、老いた魔女が壁のランプに明かりを灯している最中だった。




パーティはゆっくりと歩を進めると、老魔女もパーティに気付いた。


「おや、お前たちかい。それにしても、血なまぐさいねぇ。


無事に宝箱を見つけてようだねぇ。ありがとうよ。


お礼は何が良いかね?何でもお言い。」


パーティは無言で老魔女と向かい合う。


老魔女も沈黙し、しばらく無言の緊張感が漂う。


「なぁ、婆さん。どうして明かりをつけてるんだ?」


ジェイコブが沈黙を破った。


「古代からの言い伝えにもあるじゃないか。『最初に光があった』と。


真っ暗なところでは、何も始まらんよ。」


またしばらく沈黙の時が流れる。


「あんたは、一体何者なんだ?」 


ジェイコブの質問に一呼吸おいて、老魔女が答える。


「さあね。わたしも自分のことを忘れてしまったよ。」


また短い沈黙の後、ジェイコブが口を開く。


「宝箱はもちろん婆さんに渡す。


しかしこの中に何があるか教えて欲しいんだ。それが俺たちの望む『礼』だ。」


老婆はジェイコブの目をじっと見つめる。


「いやじゃよ。他のに変えておくれ。」


「俺たちも無関係じゃないと思うんだ。」ジェイコブは続ける。


「箱の封印に使われているのが太陽十字、婆さんのペンダントも太陽十字、そして俺の預かっているこのペンダントも、ほら、同じ太陽十字だ。」


驚きのあまり、老婆の表情が豹変した。


「その太陽十字は!ああ!あの人のものだわ!


ビルトネルの!ああ、なんてこと!


少し前には、わたしのかわいい子、ワーリヒトの骨を見た!


そして今度はビルトネルの思い出のペンダント!


神はわたしを悲しませるだけでは気が済まない!


絶望からわたしを指で摘まみ上げ、再び絶望へと落として楽しむ!


名前を忘れようとしても、結局忘れていなかった!


あの人の顔も思い出も、すべてわたしの脳裏に蘇ってきた!


残酷な神よ!!」




老婆はあきらかに取り乱し、ジェイコブの太陽十字を握りしめる。


ジェイコブは老婆を落ち着かせようと、声をかける。


「ビルトネルって、確かガネル・グレイのお爺さんだったよな。


婆さん、その人と知り合いなのか?」


老魔女はもう立ってもおられず、膝を着いた。


「ああ、なんてひどい仕打ち!


わたしはあの時以来、時が止まっているのに、あの人には孫まで出来ていたというの・・・。」


今度は、地に伏して泣き崩れた。


「それで、今はどうしておられるのでしょう?


今でもビルトネルは達者なのでしょうか?」


ジェイコブは返答にとまどう。


「・・・亡くなったらしい。」


それを聞いて、さらに咽び泣く老婆。


「時とは無情なものよ!


私だけを置き去りにして、すべてを奪い去っていく!


私だけ、死のうにも死ねない!


皆から離れて、ただ孤独の中、化け物のように生きて行かなくてはならない!


残酷無慈悲な神よ!お願いですから、私を殺して下され!


憎しみで満たされたこの肉体から、解放して下され!」


老婆はジェイコブの足にすがり付く。


その時に、老婆は十字剣に触れた。


すると老婆の体中の毛穴から、白濁色の髪の毛のように細い物体が、ニョロニョロと湧いて出てくるではないか。


我らのパーティは、そのおぞましさに青ざめて、声も出ない。


「アギャーーーー!」


老婆は自分の体が、気味の悪い物体に覆われていることを見て、錯乱状態になった。


その髪の毛のような白濁色のニョロニョロした物体は、それぞれが重なって、人間ほどの大きさの蛭のような姿の生き物に変わり、老婆の体を舐め回した。


ジェイコブたちは、後ずさりする。


蛭のような化け物は老婆を包み込み、モゴモゴと奇妙に動く。


その動きはまるで、老婆を食べているかのようだ。


しばらくした後、蛭はモゴモゴと動くのをやめ、さらに大きな蛭の形となって、ゆっくり進む。


老婆がいた場所には、骨と服だけが残っていた。




蛭の化け物は物足りないようで、今度はパーティの方へ迫って来る。


正体不明の化け物に、パーティは後ずさりする。


いち早くマットが門に向かって走った。


ランプの明かりが届かなく薄暗くなっているが、無事に坑道の大門に到着した。


「おい!早くあけてくれ!聞こえるかピート!」岩の山に向けて、マットが大声で叫ぶ。


「聞こえるぞー!無事なのか!」小さな声だが、ピートの声だ。


「頼む!早く岩をどけてくれ!大至急だ!」


「わかった!待ってろ!」


声はそう言うものの、ロイの怪力で積み上げた岩であるから、そう簡単にはいくまい。


パーティは、戦いを決意する。

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