第46話 地下4階~2階 順調な帰路

――地下4階――




真っ直ぐ大坑道が続く。


マットたちがやって来た左の坑道を見ると、オークたちが多く倒れ、奥の方のランプが消えていた。


「やっぱり、それで酸欠になって死んだんだね。」


「でもシカル。お前、確か油を全部使って、ミノタウロスを焼いたんだろ。あれは危なかったんじゃないのか?」


「あの時は仕方ないよ。生きるか死ぬかだもんね。」


「たぶん、空気孔が城のはるか上にあるぞ。」そう口を挟んだのはジェイコブだ。


「目では見えないが、空気の流れは感じた。俺たちが最初に行った、崖の辺りにつながるんじゃないか。」


「ふーん、そうなんだ。でもそこから脱出するのは、さすがに難しそうだね。」


シカルの言葉に、ジェイコブも同意する。


「ああ。はるか上にあるし、無理だろう。」


パーティは巨大蛙の宴会場へは近づかず、まっすぐに坑道を進むことにする。




「トロルとの戦いから逃げて行ったオークもまだいるはずだ。


気をつけて進もう。」


一度はユキに隊長を譲ったジェイコブだが、彼の声を合図に我らのパーティが出口目指して進む。


先頭はジェイコブとマット、2列目にユキ、3列目にシカルとロイが後ろを警戒する隊列である。




最大の難関であったミノタウロスとの戦いを終え、順調に歩みを進める。


この物語も、その足取りに合わせてスイスイと進もう。


もう一団のオークたちの宴会のあとが見えた。


酒瓶が散らばっている。


「どこへ行ったんだろうね?」シカルが言う。


「そうそう。ここで楽しくやってたオークの一団が消えちまったな。上に行ったのか?」


そのすぐ先に、昇降機があった。


オークを警戒しつつ、階段を上っていった。


この時パーティのはるか後方から、貯水タンクに潜んでいた河童が後をつけていたのだが、そのことには誰も気が付いていなかった。




――地下3階――




我らのパーティは地下3階へと上ってきた。


はじめて通る坑道だが、迷いはなく真っ直ぐ進む。


歩くとすぐに、見覚えのある場所に来た。かつてオークのヨダレが垂れていた場所だった。


十字路を右に曲がる。我らのパーティ5人が知っている道だ。


ただ、来るときには暗い坑道であったが、今や全てのランプに明かりが灯されている。


皆、魔法使いの老婆を思い出していた。


明るい坑道を順調に進むと、地下2階への昇降機が見えた。


ここは、マットたちが初めてオークを見た場所だ。


あの2人組はどうしているのだろうか?


「来た道とは違うが、ここから行くのが正規の道だろう。」


ジェイコブが階段を上る。


そして、地下2階へとパーティは着いた。




――地下2階――




ここから坑道は狭く、上り勾配になっている。


そして、ところどころに横穴があるのだ。


何かが潜んでいるかもしれぬ。注意して、我らのパーティは進む。


来る時には二頭蛇鳥が飛んでいたが、今はどうだろうか?


ランプの明かりは、この階も坑道を明るく照らしている。


アンモニアの臭いが鼻をつく。小便のあとがある。


オークのものであろう。


さらに進むと、オークのにぎやかな声が聞こえてきた。




「トロルの野郎も、さすがにここまでは追ってこないだろうよ、ギーヒッヒヒ!」


「確かになそうだろうよ、イヒッヒヒ!」


「それによ、城にはあの恐ろしいミノタウロス様がおられるぞ。戦ったらいくらトロルでも負けるんじゃねえか?」


「どうだかな。ミノタウロス様は、わしらオークのことを虫けらほどにしか見てなかったから、その強さはあまりよく知られていないぞ。


本当は大して強くないっていう噂があったくらいだからのう。エーヘッヘっへ!」


「わしも聞いたぞ。勇気あるオーク5人が酒をもらいにいったら、大人しく5本くれたってな。ギヒヒヒ。


ミノタウロスちゃん、心の中では怯えてたんじゃねえの。ヒヒヒ。」




3人のオークの姿が見える。


それぞれ腰に長剣を差し、兜と鎧をかぶっている。オークの戦士だ。トロルとの正門での戦いから、脱走した奴らだ。


ここで、我らのパーティの装備を紹介しよう。


前衛のマットは金属製のムチを右手に、革製のムチを左手に持っている。


同じく前衛のジェイコブは、腰に十字剣を差している。


2列目のユキは手に二つのクナイを持ち、紐付きのクナイは服を結ぶためにそのまま体に巻いている。


最後列のロイは大剣を握り、シカルは、もはや何の仕掛けもない空になった杖を持って、特に後ろを警戒している。




3匹のオークがパーティの存在に気づいたと同時に、マットが前に踏み出した。


二つのムチが伸びて、革ムチはもう一人のオークの剣に、金属ムチはオークの首にからまった。


グイと力を入れて引っ張ると、左のオークの手から剣は地面に落ちて、右のオークの首から血しぶきがあがる。


「このクソ野郎!」3匹目の無傷のオークがマットに剣を向ける。


その剣をかわして、腕に蹴りをいれると、3匹目のオークの手からも、剣が落ちる。


首から流血しているオークは、呼吸が出来ないので、地面を転がり回っている。


3匹のオークの手からは長剣がはなれ、圧倒的にマット優勢だ。


「ウギャー!」奇声をあげたかと思うと、2匹のオークはマットから逃げた。


二つのムチが、そのオークたちの首にからみつく。


苦しさでムチをほどこうと、手を首に当てるが指が入るスキマもない。


2匹は向きを変えてマットに突進してきたところを、ロイが大剣のひとふりで、2匹とも上半身と下半身を斬り離した。


ジェイコブとユキは見ているだけだった。


シカルもそうだが、他のものを見たのだった。


シカルは、ほとんど後ろを警戒していたのだが、何か動いたような気がしたのだ。


目の錯覚だろうか?




オークの死体をそのまま放置し、先へと進んでいる時にシカルはその話を切りだした。


「もしかしたら、河童かもな。」ジェイコブが答える。


「どこかで生きているのは確かだろう。」




坑道を進むと分岐の場所についた。ここは、初めてジェイコブが金貨を置いた場所である。


右に行けば、クモ女が焼けて灰になったあとがあるはずだ。


もちろんパーティはそこには行かず、先に進む。


マットが先頭に立ち、2列目にジェイコブとユキ、最後列にロイとシカルだ。


シカルは特に注意して後ろを見ている。目のいいユキも、時折後ろを警戒する


出口が近いと思うだけで気がはやり、運ぶ足も速くなる。もう少し心に余裕が必要だぞ、とマットも自らを戒める。


「やっぱり誰かが、僕らをつけて来ているよ。」シカルが言う。


「ええ。間違いないわ。あの河童よ。」ユキも同意する。


河童としては、挟み撃ちを狙っているのだろう。


我らのパーティは挟み撃ちをを避けるため、しばらくその場で河童が来るのを待った。


―――しかし、いくら待っても来ないではないか。


「仕方ないな。進もう。」ジェイコブが言う。




我らのパーティは坑道を抜け、大きな広間に出た。


ランプはすべて灯されている。来るときは、暗闇でその広さを見ることが出来なかった場所である。


昇降機が照らされている。


パーティはその横の階段の手前まで来た。

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