第41話 酒と女は、男の力の源になる

「ミノタウロスさん、ミノタウロスさん、随分と興奮しておるじゃないですか。」


いつの間にか、向かいの部屋から小さな爺さんが、酒瓶片手にやって来た。


ヨレヨレのだらしない下着を着ている。


パーティが最初に見た方の、扉の奥にいた男である。


「ありゃまぁ。おそそしてしまいましたか。これは臭いですなぁ。」


小さい爺さんは、小便をかけられた女の後ろに回り、その桃のように大きく柔らかな尻に顔をうずめた。


「アアン!」


全裸のサキュバスは、痙攣してのけぞった。


「プハーッ!ええ匂いじゃ。」


目の前で繰り広げられる罰当たりな光景に、ロイはずっと心を奪われている。


「河童どんも来たか。手出し無用じゃぞ。


お前たちにも言っておくが、戦いの相手はわしだけじゃ。


この爺さんは、戦いを楽しんで見るだけじゃ。


そしてこの女は、快楽の魔法しか使えんサキュバスじゃから気にするな。


万一お前等が勝ったら、女は好きなようにしていいぞ。ハーハハハッ!」


「河童・・・」


ユキがつぶやいた。


「知ってるのか?」マットが聞く。


「ええ。頭の上の皿が乾いたら死ぬと言い伝えがあるけれど・・・伝説上の生き物かと思ってたわ。」


小さな爺さんの頭には皿こそないが、丸っこい形に禿が出来ている。


ユキの言うように、それは塗れているようにも見える。


「うおおっ!そっちの姉ちゃんは、もしかして日本の姉ちゃんかいの?


久しぶりじゃ。久しぶりじゃ。数百年ぶりじゃ。


ミノタウロスさん。その姉ちゃん、絶対に殺したらいけませんでっせぇ。」


涎を垂らして、河童が喜ぶ。


「俺も殺す気などないぞ。


血みどろの戦いのあと、血の池にまみれて楽しむつもりじゃ!ハーハハハッ!」


「わしも混ぜてくれのぉ、ミノタウロスさん。


秘薬を飲ませて縄で縛り、快楽のツボを突きまくって、女の最高の喜びを教えてやらねば。


それが故郷を同じくする者の、責任でもあるのじゃ。ヒャッヒャッヒャッ。」


「わかったわかった。ハハッハー!


そちらも準備はよいな?やり残したことはないな?魂を奮い起こしたか?皆早く部屋に入れ、歓喜の戦いが始まるぞ!」






ロイは気を引き締め、中央広間に背中の宝箱と鞄を降ろして部屋に入ると、ギュッと大剣を構えた。


股間はまだ興奮したままだったが、誰もそれに気づかなかった。


マットは、サキュバスの裸がどうしても気になるようだ。


サキュバスもそれに気づいて、時折マットにほほえんでいた。


ジェイコブと目が合って、パーティを見逃した女とは別人のような尻軽さではないか。


シカルは、ミノタウロスと河童の変態行為に対し、非常に嫌悪を感じていた。


「何が義務を果たすだ、何が魂を奮い起こすだ。汚らしいことばっかりして。」


ユキは、ミノタウロスと河童に性の対象として見られてしまったが、心の動揺はなかった。


それどころか、冷静に相手の動きを頭の中に入れていた。


腰に着けていた薬草と桃の入った木編み袋を、ロイの背負っていた宝箱の傍らに置き、部屋に入った。


その時、ユキをいやらしい目つきで眺めていた河童が、宝箱の存在に気付いた。河童は目を見開いて驚いた。


ジェイコブはといえば、ウイスキーの瓶を片手にし、さらにサキュバスに追加の瓶を持って来るように頼んでいるのだから呑気なものである。


しかしジェイコブは、酒によってみなぎる力を実感していた。


丸1日前に食べた薄焼きパンとハム以来の、胃袋にドスンと来るエネルギーだ。


今まで酒のことが頭から離れることはなかったのだから、なおさらだ。


そして今や、その苦しみから解放されたのだ。


体中が、その喜びを感じていた。


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