第40話 地下6階 ミノタウロスと呼ばれる男
酒の力で頭が軽くなったジェイコブが、先頭に立って階段を進む。
2列目にユキ、3列目にマット、シカル、最後尾にロイの順である。
ジェイコブは酒を飲んだおかげで、一時的とは言え気分がすっかり良くなり、表情にも余裕が出てきた。
しかし他の4人は動揺し、ジェイコブを心配している。
螺旋階段をグルリと3周するあいだ、女が一人、上からパーティが上って来るのを覗いていた。
以前、ジェイコブと目が合った着物の女だ。
今見ている彼女の目から察すると、今度は見逃してはくれなさそうだと、ジェイコブは思った。
地下6階に近づくにつれて恐ろしい殺気を感じるが、ジェイコブは堂々と進んだ。
相手がとんでもない奴であることは間違いない。対策など、施しようがないではないか。
おそらくサキュバスであろう着物の女は、頭を引っ込めて扉の奥へと入った。
そんな慌ただしい動きにもパーティは動ずることなく、ゆっくりと地下6階の床を踏んだ。
――地下6階――
ここを降りていく時には、静かに閉ざされていたふたつの扉だが、今はひとつが大きく開かれている。
殺気が漂っていた方の扉だ。
華やかで豪華な部屋が目に映ってくるが、皆の目がある者に釘付けになった。
牛だ。
牛の頭と人の体を持った、化け物である。
「ミノタウロスだ・・・」
シカルの声が震える。
「ミノタウロスだと?俺もその名は聞いたことあるぞ。
大昔、雄牛と人間の女との間に出来た化け物だな。こいつは、その子孫なのか?
それとも、また牛とやった馬鹿女がいたのか?」ムチを構える口達者なマット。
「お前たちが谷の向いから来た者たちだな。
下にいたサキュバスから聞いていた。歓迎するぞ。」
もはや牛が言葉をしゃべることは、この物語の読者にとって何も不自然なことではないだろう。
「生きるか死ぬか、お互い魂を燃え上がらせて勝負しようじゃないか。のう。ハーハハハッ!」
地の底から響くような、迫力ある大きな声で豪快に笑う。
「どうしても戦わなくちゃいかんのかね?」
部屋に入ることを留まって、ジェイコブが牛の化け物に向かって口を開く。
「戦うことがわしの義務じゃからのう。お前たちも仕事を邪魔するものと戦うのが義務じゃろう。
お互い義務を果たそうではないか。
結果など気にするな。勝っても負けても後悔するな。今すべきことをしよう。お互い全力で戦おうではないか。」
ミノタウロスの言葉に、シカルは困惑する。
「なんだか哲学的なことを言ってるぞ・・・」
「ところで、お前たちも飲むか?」ミノタウロスが言う。
上から覗いていたあの着物のサキュバスが、盆にウイスキーを数本載せて色っぽく歩み寄ってきた。
「まぁ、戦う前に1杯やろうじゃないか。望むなら、この女も今抱かせてやるぞ。
男は飲んで、食って、戦って、女を抱くもんだろう!のうデカイの!ハーハハッハ!」
話を振られてしまったロイは、思ったことを正直に返答する。
「違うだよ。男は、働いて、飲んで、食うだけだ。」
ミノタウロスは、ロイをにらみ付けた。
「おい、デカイの!」
そういうミノタウロスは、高さも横幅もロイの1.5倍ほどある。
「気に入った!やはり人間!オークのアホ共とは違う。
あいつらは、心まで醜いからのう。信念というものが全くない!だから、戦う気にもならん。
そこのデカイ奴と俺とでは信念が違う。俺も信念を曲げる気など、毛頭ない。
お互い信念が違うなら、戦うしかないじゃろう。
これでこそ男じゃと思わんか。お前と拳を交える時まで待ちきれんのう。ハーハハハッ!」
陽気に笑って、ウイスキーをガブガブ喉に流し込む。
「お前等も遠慮せずに飲め!戦前酒じゃ。毒など入っておらんぞ。ハーハハハッ!
それより、はよう部屋に入れ。客人を部屋の前に立たせておくなんて、無礼じゃからの。」
「じゃぁ、俺が代表して頂こう。」
ジェイコブが一番に部屋に入り、サキュバスからウイスキーを受け取った。
瓶に口を付けて、グビグビいく。
「いい飲みっぷりじゃ!ハハハー!
ところで、お前等は下にいたサキュバスを殺して来たんじゃろうな?」
「ああ。4人殺した。」 素っ気なくジェイコブが答える。
「ハーハハッハ!殺しは魂を震えさせる。
わしの魂も、だんだんと熱くなってきておるぞ。
まさに生きておるという実感がする!これこそが、生きる本質じゃのう!ハハハハーッ!」
ミノタウロスはウイスキーをもう1本とり、またグビグビと飲む。
「虫けらオーク共が、トロルが来たとパニックになっとったが、お前等が殺したのかのう?」
筋肉隆々としたミノタウロスと、至近距離で酒を飲んでいるジェイコブは、今度も素っ気なく答える。
「ああ。殺した。」
酒瓶に酒瓶をチンと当てて、ミノタウロスは祝福する。
「あああー!これは楽しみだ!
絶頂を!絶頂を迎えられるかもしれんのう!
血がほとばしり、死と直面する!なんという快感だ!」
ミノタウロスはたまらず、サキュバスの服を脱がして、彼女の白い肌を皆の前に露わにさせる。
そして毛の生えたごつい手で、白く輝き張りのある片方の乳房を力強くまさぐり、もう一方の乳房のツンと尖った桃色乳首を汚い舌で舐め回す。
「アアッ・・」
サキュバスは顔を赤らめ、熱い息を吐いている。
その禁忌で官能的な光景に、ロイの股間は膨らんできた。
「おっと、これは失礼。ハハハーッ!
俺だけが楽しむとは、礼儀知らずだった。
戦う前に抱きたいのであれば、遠慮はしなくていいぞ。どうだ?」
「遠慮しておくよ。」間髪入れず、ジェイコブが返答した。
マットも嫌な思い出がよみがえってきたのか、女から目を逸らしている。
「ハーハハハッ!正直でないのう。
俺は、そちらの東洋の女も抱きたいぞ!
戦う前にするか?それとも戦った後にするか、どちらがいい?」
ユキは何も答えず、クナイを手に握る。
「後からだな。ハハハハーッ!強気なところも色っぽいぞ。
俺のモノを見ろ!」
ミノタウロスは唐突に衣服を脱ぎ捨て、ユキにハチきれんばかりのイチモツを見せる。
「デカイだろ。たまらなく、興奮しておるのじゃ。
これでお前も快楽の虜にしてやるからのう。
アアア!たまらん!たまらんぞぉ!どんな戦いが待っているのか!」
ミノタウロスは興奮し、サキュバスの衣服をすべて破り、丸裸にする。
そして自分のモノを手に取ると、なんとしたことか!サキュバスの顔に向けて小便を放った!
快感に浸る、ミノタウロス。
「狂ってるな・・・」マットがつぶやく。
パーティの面々は、唾を飲んでそれを見守るだけであった。
付け加えておくと、ロイは我を忘れるほど興奮していた。
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