第39話 魔法の解明をするパーティ
ユキの魔法も解け、ジェイコブの意識も戻った。
そこで、マットも加えパーティの面々はここで起こったことを整理した。
「たぶん、あのお香が魔法をかける下地となっていたの。」
今では、飛び散ってしまったお香をユキが指さす。
「その香りで、私たちの脳を催眠がかかりやすい状態にして、魔法の言葉を言うの。」
「くっそー。そう言えば俺が閉じこめられた部屋でも、妙な香りがしてたぞ。」マットは膝を叩いた。
「そして、その言葉は定期的に相手の耳に入れなきゃいけないんだよね。」
シカルが続けて説明する。
「もし時間を過ぎてしまえば、かかっていた幻覚は切れてしまうんだよ。
だから崩落した螺旋階段も、大量の水も、マットの首も、サキュバスは何度も僕たちの耳に入るように繰り返したんだ。」
「なるほどなぁ。」
ジェイコブがぼんやりと口を開く。
「やはりな。何か匂うから怪しいと思ってたんだ。
実は、最初の階段の崩壊のあと、ロイからもらった野ブドウを鼻にすり込んでおいたのさ。」
そう言って、赤くなっている鼻の穴を指す。
「吸った空気を洗浄してくるようだ。野葡萄を鼻にこすりつけた時から、階段の崩壊が幻だとわかったんだ。」
「ユキが煙玉を投げたあと、どうしてたの?」と、シカルが聞く。
「ユキの後を追って、魔法陣の円から出たのさ。ユキは廊下に入ったが、俺は煙に紛れ真正面からサキュバスに近づいて、そのまま天井に飛びついたんだ。気付かれなかったよ。」
続いてユキが発言した。
「わたしにかかっていた魔法は、サキュバスが死んでも効果があったけど、お香の香りが薄くなることによって、徐々に効果がなくなっていったわ。
いずれにしても、言葉による効力が時間切れになったでしょうけどね。」
「魔法陣の解除はどうやったんだ?」ジェイコブの疑問にシカルが答える。
「2種類の魔法陣は、髪の毛を直接当てることで消えるんだよ。ほら、こうやって。」
シカルは実践して見せた。
スーッと魔法陣が消えていく。
「ほう。それが解除方法だったのか。
大きな魔法陣はどうなんだ?」
皆、大魔法陣を見る。
「これはおそらく、治癒の魔法陣だよ。」シカルが言う。
「治癒?傷が治るのか?」ジェイコブが問う。
「うん。でも、僕らにも効力があるのかどうか、わからないよ。
なんたって僕たちに見えるところに、堂々とあるんだもん。
治癒の魔法陣だとわかれば、僕たちも当然使うよ。間違って入ることもあるだろうし。
だから人間が入って来たときには、何らかの仕掛けをしていてもおかしくない。例えば、領域に入った人間が爆発するとかね。
とにかく、これだけ大きな魔法陣だもの。二つの効果を含んでいてもおかしくないんじゃないかな。
それに、ここに入った後のサキュバスは、傷こそ完治していたけれど、少し老けたようにも見えたんだよ。」
シカルの説明に、皆も納得する。
「さわらぬに越したことはないな。」
ジェイコブが締めくくった。
それから、パーティは休憩をとった。
ジェイコブは、締め付けられた首を気にしている。
実際は、首ではなく脳に異常があったのだ。
というのも、脳に酸素が行き届いていないため、頭が働かないでいる。
どうしたものかと、寝転がる。
マットとシカルは話をしている。
「なんだか俺だけ、仲間に入れてない感じがするぞ。」
幼いサキュバスの死体を、少し悲しそうに確認しながら、マットが言う。
「それに、シカル。
もしかしてもう目的を果たして、帰り道ということはないだろうな?」 その辺も説明してくれよ。」
「マットの方こそ説明しなくちゃ。」覚めた目でシカルが言う。
「その女の子に、かなり惚れ込んでいたそうじゃない。
僕たちのこともベラベラしゃべって、気に入られようとしたそうだね。」
「な、な、何言ってんだ。俺は、魔法にかかってたんだよ。
俺の意志に反して、何かしゃべったかもしれんが、ま、魔法だから防ぎようがないだろ。わかるだろ?」
「あ、そう。」
素っ気ないシカルの返事に、マットは、いつか見とけよと腹の中で考える。
ユキは、3人のサキュバスの死体から手裏剣を集め終わった。
「この死体はどうするの?」
ユキの質問に、寝転がり天井を見ているジェイコブが答えた。
「焼こう。シカル頼んだぞ。」
ロイは、黒髪サキュバスの死体を横目で見る。
確かに、一番いい死体処理方かもしれねえだ。本当は、墓でも作ってやりたいが。
マットも名残惜しそうに、少女サキュバスを見る。
シカルは、油をかけて、杖の先から火を発射した。
ロイは黒髪サキュバスに、せめてもの十字架を切った。
そしてシカルは杖を整備しながらも、マットに今まで何があったのかを説明した。
「うへぇ。ほんとに帰り道だったのかよ。」
マットは、これから下の階に下りる気でいたようだ。
上の階へ進む支度は、すべて整った。
ジェイコブが口を開く。
「死を覚悟しておけよ。
この上にいる奴は、おそらく今までと比べものにならないくらいの、とんでもない野郎だ。
仲間の命や自分の命を守ろうとしても、絶対守りきれないぞ。
だから、相手を倒すことを何よりも優先しろ。
そして、もうひとつ。
今までの気遣いありがたいが、酒を飲ませてくれ。」
そういうと、懐に隠しておいたウイスキーの瓶を取り出して、ゴクゴクと飲み始めたではないか。
皆は呆気にとられる。
マットを除いて、ジェイコブが酒を飲むということは、死へとつながることだとわかっている。
ジェイコブは何と、一瓶をゴクゴクと一気に飲み干してしまった。
「うまいな。
こいうわけだから、俺はもう当てにはならない。
代わりにユキ、お前が隊長をやってくれ。じゃあ行こうか。」
ジェイコブは足取りも確かに、張り切って階段を上り始めたのである。
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