第29話 地下10階 トロルと門番オークの戦い
魔女が灯したランプはまだ消えておらず、明るく照らされた洞窟をパーティは順調に降りていった。
これまで知らない道ばかり進んで来ただけに、一度通ったことのある道は、気分的に楽にさせてくれる。
知らない道であれば慎重に足を運び、無意識にも道の特徴を認識しながら進まなければならない。
そして何より、終着点がわからないところが焦りを与えるのだ。
しかし今やパーティの足どりは軽く、下り坂ということもあってスイスイと早く進む。
我らのパーティは、化け物とも遭遇することなく、それほど時間を要さずに最深部の池の場所まで着いた。
ここからは上りに変わる。
門のところで暴れていたトロルは、どうなったであろうか?
パーティは、気を引き締める。
先頭はジェイコブとユキだ。
ロイが2列目、シカルが最後尾につく。
この二人は、いつでも戦えるように武器を握っている。
池にかかっている3つの石橋を渡り、洞窟を進む。
シカルは、トロルについて知っていることを他の者に話しながら歩いた。
「太陽の光を浴びれば石になって、二度と生き返らないと、本には書いてあったんだ。
この地下坑道の中じゃ太陽も昇らないから、あいつにとっては都合のいい場所だと思うよ。
そして、トロルは一つ目なんだ。
顔面の上半分を占めるほどの大きさの目だけど、一つしかない。
ユキから聞いた実際のトロルもそうだったね。
とにかく目をつぶしてしまえば、僕たちは有利に戦えるよ。」
シカルは、トロルのとてつもない力のことも話した。
「巨体の全身が筋肉の塊なんだよ。」
ユキも、手のひらでオークが握りつぶされた光景を語った。
「しかし俺たちには、ミント草がある。」
トロルの力強さに緊張するメンバーを、ジェイコブが力づける。
「ロイの持っている木編み袋には、ミント草が少し残っている。それを最大限利用しようじゃないか。」
賢者は戦いを好まぬ、という言葉があるかどうかは知らないが、むやみやたらに戦うのは愚か者のやることである。
最後のミント草をロイは左手に握り、我らのパーティは洞窟を抜けて、城を仰ぎ見る場所まで着いた。
――地下10階――
下水池を渡って、池沿いに城の正門が見える位置まで移動すると、ゾッとする光景が目に入った、
オークの死体が山となって、暴れるトロルの周りに山のように積み重ねられていたのだ。
トロルの身体には、無数の矢が突き刺さり、足には剣と槍も深く刺さっている。
全身から血がしたたり落ちているが、衰える気配のないその力は、まさに圧巻である。
「まだ戦ってたの・・・。あれからずっと戦っているのじゃないかしら。」
ユキの言うように、トロルは独りで休まずに10時間近くもオークと戦っているのだ。
人間ではとても考えられぬほどの、驚異的なスタミナである!
スタミナだけではない。身体の大きさに似合わず、素早い動きでオークの命を次々に奪う。
「頭の良さそうな動きだ。」ジェイコブがささやく。
「本によると、頭は鈍いと書いてあったんだけどなぁ。」シカルが納得いかないという表情をする。
「動きに無駄がない。オークの門番は全滅するだろう。」
パーティは、それまで待機しておくのが無難だと考え、下水池の前にしゃがんで戦いを見守る。
ジェイコブの言葉通り、兵の大半を失ったオークの劣勢は明らかになった。
オークの中には、城の中へ逃げていく者もいた。
「こら!逃げた者はぶっ殺すぞ!火あぶりにするぞ!」
門番長らしきオークのおどしにも耳を傾けず、勝ち目がないと悟ったオークたちは恐怖におののき、持ち場を放棄して逃げて行く。
「クソったれめが!」
そして、門番長自ら剣を振りかざし、トロルに向かって行くと、彼の真横からトロルの蹴りが強烈にヒットした。
門番長の体は、門の壁まで吹っ飛び、ビチャ!っと血と肉が壁に散らばった。
それによって、残った門番オークらの戦闘意欲が完全にもぎとられてしまった。
皆、城の中へと逃げ去り、もはや生きたオークの姿は1匹もトロルの前に見えなくなった。
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