第12話 壁のランプに明かりを灯す人影

マット、シカル、ロイの3人は、オーク2匹をやり過ごして、今までにない大きな坑道に出た。


きれいに四角に切り取られた坑道の真ん中に、レールが真っ直ぐ進んでいる。


「オークが人間の匂いと言っていたのは、ジェイコブたちのことも入ってるのかな。」


天井を警戒しつつシカルがつぶやく。


「んだ。オークは鼻が利くらしいだ。わしらの前から人間の匂いがしたと言ってただ。」ロイは頻繁に後ろを振り返る。


「しかし、あいつらはものすごく、くさかっただ。嫌な臭いがしただ。自分たちのにおいは何ともないのが不思議だ。」


「そうだな。ブタのにおいがする。それだけじゃなく、地面にもオークのヨダレがこぼれてるぜ。」


マットの言う通り、松明を近づけてみるとヨダレらしきものがポツポツと光っている。


「これを辿れば、あの森まで連れていってくれそうだ。でも、とんだ道しるべだね。」シカルが言う。


「金貨の次は、オークのヨダレか。俺らの導き手が天使から悪魔に変わったのでなければいいが。」


マットのその言葉が終わらないうちに、彼らは選択を迫られることとなった。


直線に進む坑道に、直角に交差する坑道が現れたのだ。


小坑道ではなく、彼らが進んで来た坑道と同じく立派な大坑道である。


交差している方にもレールがあり、交わるところは回転式になっている。


3人は何か目印がないかを探す。


「金貨はない。しかしオークのヨダレが左の道から来ている。」マットが言う。


「んだ。ヨダレが左だが、ジェイコブたちは印を残さなかっただ。」


「金貨が置いてあったけど、オークに取られたという可能性もあるね。しかし、ジェイコブたちは素直にまっすぐ進んだんじゃないかな。」


「わしもそう思うだ。オークのヨダレに従って進むのは不吉だよ。」


そのような短い話し合いの結果、3人のパーティはオークのヨダレ道しるべを拒否して、まっすぐ進むことにした。




すると、またしても直角に交差する坑道が現れたのである。


シカルはさきほどと同じ光景に驚き、思わずオークのヨダレがないか確認するほどであった。


「なんだか坑道というより、街の通りみたいに整然としているな。」


一応、ジェイコブたちの目印がないか調べるが、それらしきものはなかった。


しかしロイが別のものを見つけた。


「なんだ・・・あれは?」


ロイの視線の先、レールが続く暗闇の向こうに、かすかではあるが小さな明かりが浮かび上がっていた。


「松明を消そう!」


マットはそう言うと、足で踏みつけて松明の火を消す。


シカルとロイもそれに従う。


「ジェイコブらでねえかな。しかし、もしかしてオークだか・・・。」


ロイの大剣を握りしめる手に力が入る。


「このまま静かに壁に沿って進もう。もしオークならば、気づかれたら戦う。気づかれなければやり過ごす。それでいいか?」


マットの提案に、他の2人は暗闇の中でうなずいた。




足音をたてず、遠くの光りをたよりに慎重にパーティは進む。


そこに近づくにつれ、どうやら明かりが複数あることがわかった。


それだけではない。


その明かりが全く動かないのだ。


ということは、松明を持って歩いているのではない。


ジェイコブとユキが3人を待っているのだろうか?


それも違う。


そこに近づくほど、明かりの数が増えていくのだ。


10ほどの数の明かりが認識できる距離になって、マットはかすかな声を出す。


「おかしいな。仮にオークが大勢いるにしては、光の動きがない。」


その小さな声を聞き取ったのはロイ。


「んだな。それに静かすぎる。」


ロイは小さな声でささやいているつもりかもしれないが、その声の大きさにマットの肝が縮まる。


そのロイの声に気づいたシカルは、自分が二人よりはるか後ろを進んでいたことに気づき、足音を消しつつ素早く追いつく。


そしてパーティは再び足並みを揃え、暗闇の中、ひっそり光へと進む。




光の正体はランプであった。


地下3階のこの立派な大坑道にも、もちろん等間隔に壁掛けランプが設置されていた。


そこに明かりが灯されているのだ。


一体誰が火を付けたのだろうか。


今もひとつランプが灯された。そして、そこに浮かびあがる人影・・・




3人の動きがピタリと止まる。


息を潜めて、人影を見つめる。


小柄なシルエットである。


老婆のように腰を曲げ、杖をついている。


確認出来るのは、その1人だけだ。


マットの額に汗がにじむ。


老婆らしき人影は、またひとつランプを灯した。


ロイはオークでないことに安心しているが、かといって油断しているわけではなく、剣を握る手には力が入る。


シカルは、老婆がどうやって明かりを灯しているのか見ている。


3人は、金縛りにあったかのようにそのままの態勢で身構えるが、それとは対照的にゆっくりと優雅に老婆のシルエットは、次々とランプに明かりを灯していくのであった。

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