第11話 地下3階 女に飢えたオーク2匹

 ――地下3階――




降り立ったところは、天井も低い小さな坑道だった。


入り口にレールがあるだけである。


(本当にこっちで良かったのだろうか?)


シカルの頭に疑問が浮かぶ。


(しかし、何よりジェイコブたちの後を追うのが一番の策だ。この道を突き進むしかないだろう。)


「小さい坑道だな。俺が先頭を行く。ロイは後ろに気を付けて、シカルはいつでもあの火を出せるようにしてくれよな。」


マットは表情を引き締める。


(さっきまでは、恥ずかしがってたくせに、何でそんなに偉そうになれるのかね。本当に男ってやつは・・・)


坑道は3人が横に並べるくらいの幅で、高さはロイが手を伸ばせば届くくらいである。


もしトロッコが通っていれば、すれ違う相手は壁に背中を付けないと危ないほどの狭さである。


「キュピー!」


二頭蛇鳥の鳴き声とともに、マットのムチがしなる。


マットはムチの先で掴むと、そのまま二頭蛇鳥を壁に叩きつける。


グシャリと潰れる音が3人の耳に残る。


(マットのやつ、荒れてるな・・・クモ女の媚薬が完全に抜けず、興奮が収まらないのだろう。)




もう二頭蛇鳥の死を確認することも、焼くこともせず、マットの足に合わせてパーティが進むと、坑道が大きくなり、間もなく大きな広間に出た。


昇降機があるが、それは地下4階へと降りるものではなく、地下2階へと上がるものであった。


「なるほど、最初に金貨があった分かれ道の一方が、ここにつながってたのかもな。」


マットは階段を少し調べただけで、先へと進もうする。


すると、にぎやかな声が遠くから響き渡って来た。


3人はすぐさま松明の火を足で踏んで消す。




「おーいローザ!逃げても無駄だぞ!必ずつかまえてかわいがってやるからな!ガハハハ。」


「しかし、こうやって追いつめるのもたまらんじゃないか。わしのはずっとカチカチに興奮しとるぞ、イヒヒヒ。」


「ギヒヒヒ。今から興奮しとるだって?だったら、ローザのエキスを飲んだらすぐに出ちまうぞ。」


「なにを言ってら!触られた瞬間にすぐ出しちまったのは、どこのどいつだったかな。あれにはローザも大笑いだったよな。ハハハ!」


「うるせえ!そんなことより、早くローザを見つけて、わしら2人共気持ち良くしてもらえばええじゃねえか。」


「ああ、もちろんだ兄弟!上官に取られる前に、早く捕まえてやっちまおうぜ!」




声からすると、どうやら2人のようだ。


マットたちは、レールから離れて身を屈め、暗闇に溶け込んでいる。




「おい、また階段があるぞ。どこまでわしらを上らせるつもりだ!」


「まてまて兄弟。こっちにもレールが続いているぞ。ローザはどっちに行ったんだ?」


「わしの推測を聞きたいか?逃げている身になって考えれば、おそらく階段を上るだろうぜ。出口があるとすれば、上にしかないからな。ガハハハ。」


「確かにそうだ。なかなかいい推測だ。しかし、わしらが上に行くとローザが予想し、このレールをそのまま進んで行ったのかもしれないぜ。」


「うるせえ!どっちだっていいんだよ!ローザの匂いのする方へ進めばいいんだ!」


「匂い?そういえばさっきから変な匂いがするよな。これは・・・人間のような匂いだぜ。」




マットたちは、この二人を暗闇の中から見ていた。


彼らは豚の顔を持ち、人間の言葉をしゃべる。


伝説に聞く、オークである。


二本足で歩き、上半身は裸だが丈夫な豚の皮に覆われている。


腰には剣をぶら下げ、手にはランプを掲げている。


二人・・・いや二匹とも鼻をヒクヒクさせて、口からヨダレを垂らしている。




「そういえば、少し前から人間の匂いがしていたぞ。確かに人間の匂いだ。しかし、今はローザの匂いもするぜ。どういうことなんだ?」


「ローザが近いってことよ。それに、人間がいても不思議じゃねえ。ここは人間が作ったところだからな。見つけたらなぶり殺して食うだけだ。」


「グヒヒヒ。人間の女はたっぷりと犯してやらないとな。たまんねぇぜ!ここを出たら人間の女とグヒヒヒヒヒ!」


「イヒヒヒヒ!兄弟、まずはローザのエキスを飲んで絶倫といこうじゃないか!真っ直ぐだ。階段を上らずにローザは真っ直ぐ行った。匂いがそう言ってるぜ。」


「わしも興奮してきたぜ。ヒヒヒ、今すぐ行くからなローザ!人間の女も待っておれ、どでかいのを入れてやる!」




二人のオークは笑い声をたてながら、マットたちが来た道を進んで行き、やがて声も聞こえなくなった。




「やっつけるべきだったかな。」


最初に声を出したのはマットだ。


「あいつらの強さはまだわからないよ。言い伝えに出てくるオークのようだったね。」


シカルは杖から火を出して、それぞれの松明に明かりを灯す。


「んだ。あれはオークだ。初めて見たがほんとに醜いやつらだ。」


ロイの声には怒りと軽蔑が含まれていた。


「ローザとは、あのクモ女のことだろう。骨だけの死骸でクモ女と判別つくかどうかわからんが、もしかしてやつらが引き返してくるかもしれん。それまでにジェイコブたちと合流したいな。」


マットは先頭に立ち、少し早足にオークが来た道へと進んで行った。

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