第10話 妖艶なクモ女は、白い液体を好む

マット、シカル、ロイは、待ち受けている危機に全く気付くことなく進む。


3人が正体不明の生き物の真下へと来たとき、突然粘っこい大量の液体のようなものが、パーティに降り懸かった!


「うわっ!なんだ!」


マットたちは、何が起きたのか理解出来ぬまま、必死にもがいているが、粘っこいものは、もがくほどに体にからまっていく。


そこへ、壁から不気味な生き物が飛び掛かった。


マットのムチも、シカルの杖も、ロイの剣ですら、粘着にからまって自由に振りかざせない状態だ。


化け物は素早くマットとシカルの手から松明を奪うと、すぐに投げ捨てた。


しかしロイの松明だけは、ロイの握力の強さによって奪えず、松明の棒に噛みついたかと思うと、強力な顎の力で松明を2つに折ったのだ。


化け物は冷静に、火の付いた方の松明を投げ飛ばした。


放り投げられた松明の火で、化け物の姿が照らされ浮かび上がる。


巨大クモである!


そして驚くことに、この巨大クモは人間の上半身を持っていた。


上半身が人間で、下半身がクモなのである。


今まさに巨大クモが、尻からクモの糸を大量に3人に向けて発射した!


マットは自由に動かせなくなりつつある頭を、化け物の方に向けると、目を疑った。


「なんてこった。女だ。女が裸で、下半身がでかいクモに埋まっているぞ・・・」


まさに信じられない光景である。


女の長く伸びた黒髪が、白くふくよかな両の乳房に垂れている。


両腕は人間の女のように、細長くか弱そうだ。


引き締まった腰まわりはクビレをつくり、魅力的な曲線美だ。


しかし、その下にはおぞましい8本脚の巨大クモの胴体がつながっており、美と醜の混同生物と化している。




「あははは。人間ね。若い男だわね。どうやっていただこうかしら・・・」


クモ女が言葉をしゃべった。


「おいおいおい!てめぇ、これは何のまねだ!不意打ちは美女には似合わねえぜ。」


マットが必死にクモの糸から逃れようとするも、締め付けはひどくなるばかりだ。


「あら、あんたいい男じゃない。私好みだわね。それではまず、あんたからいただきましょうか。」


クモ女はそういうと、8本の脚で這い寄ってマットの体の上にのしかかる。


気味の悪い毛の生えたクモの脚は、マットの両手両足をものすごい力で押さえ付ける。


そして人間の部分である美しい両手がマットの顔に伸び、包むようにやさしくマットの頭を抱く。


クモ女の魅惑的な表情がマットに目の前まで近づくと、唇と唇が重なった。


マットはされるままに、舌がからむ。


しだいにマットの舌は痺れ、思い通りに口の制御が出来なくなった。


クモ女の舌はマットの口中で暴れると、自分の唾液をたっぷりとマットの喉に流し込んだ。


それはとても甘かった。


恍惚とするマットの表情に、クモ女は満足し、こう言った。


「かっこいい男と口付けするのは久しぶりだわ。これからもっといい気分にしてあげるから、力を抜いて楽にしなさい。」


マットは体が熱くなり、局部が硬直してくる。


さきほど飲み込んだ甘い唾液に、何か媚薬のような成分が入っていたのかもしれない。


クモ女の白く細長い手が、そのマットの股間に伸びる。


体も動かず口が痺れて言葉もしゃべれないマットは、もはやされるがままだ。


このとき冷静に対処していたのが、シカルである。


クモ女が彼らを襲ったとき、真っ先に彼らの手から奪い取ったのは武器ではなく松明だ。


武器はクモの糸にからまって、使えなくなるというのを知っていたからである。


それで、シカルはクモの糸が火に弱いということを素早く読みとり、まだ粘着がそれほど強力でないときに、杖のグリップ部分を回転させ、トリガーを引いた。


カチッと小さな音と共に、杖の先から青白いかすかな火が噴出し、それはからまるクモの糸を徐々に蒸発させていった。


シカルは杖の先を指で操作しながら、クモ女からは見えないように隣にいるロイの左手に絡み付いている糸を、青白い火で難なく消していった。


ロイは熱さで顔をしかめることもなく、左手の自由を得た。


シカルは杖の先をロイのその左手に握らせ、自分に絡み付いているの粘着糸を取り除くよう、目で合図する。


ロイはシカルの企みを把握すると、左手で杖を抜き取った。


糸が絡むことなく、スルスルとシカルの手から抜き取ることが出来た。


ロイはクモ女から見えないように、杖の柄をたぐり寄せて、杖先をシカルの手に向けた。


かすかな青白い火が噴出されている。


それでシカルの右手の粘着糸を素早く溶かす。


ちょうどクモ女の視界に入らないので、シカルの足や胴体に絡み付いている粘着糸も右半分は消し去った。


これで、シカルの右手右足は自由だ。




一方、クモ女はそのとき、マットの局部に手を当てていた。


マットは衣服の上からでも女の手の感触を感じている。


「わたしの甘い液、おいしかったでしょ?


男にとって、あの液は最高の精力剤よ。あなたには、これからたっぷりお礼を出してもらうわ。今度はそれをわたしが飲むのよ。なんたって、大好物ですからね。


あなたたちから吸い取れるだけ吸い取って、わたしの栄養にさせてもらうわ。」


クモ女は器用に糸をかき分けて、マットの腰ひもをほどく。


そして、柔らかくあたたかい手をズボンに忍び込ませる。


「あらまあ、噴火直前ね。まず、一番おいしいところをいただくわね。とっても濃いのをちょうだい。人間のは初めてだから、興味あるの。さて、どんなのかしらね。」




「おい破廉恥クモ女!」


今までマットに夢中になっていたクモ女が、声に驚き振り向くと、そこには糸で捕らえたはずの少年が杖を構えて立っていた。


「どうやって・・・」


クモ女がそう言うが早いか、シカルの杖先から炎が吹き出た。


「ギャアアアッ!」


クモ女は、覆い被さっていたマットの上から飛び上がると、地面にのたうちまわる。


容赦せずシカルは杖の先から透明な液体を、火の付いたクモ女に狙いかけた。


すると、爆発したかのように、炎が高く高く舞い上がる。


クモ女の悲鳴は、枯れた獣の声となった。


そののち、プチプチと煙をたてて燃える骨の音のみが、静寂の中に響きわたった。


なんという火力であろう。


あっという間に、クモ女は灰になってしまったのだ。




シカルは前と同じように、杖から青白い火を出して、まずはロイを自由にした。


それから、顔を赤らめながらも、嫌そうにマットに絡み付く粘着糸を溶かしていった。


自由になったマットが一番初めにしたことは、ズボンの腰ひもを結ぶことであったが、股間部分がはちきれんばかりになっているのは、明らかであった。


マットの口には痺れが残っているが、他は元気そうである。(むしろ元気すぎるところが一カ所あるが・・・)


ロイは心配そうにマットを眺めているが、シカルは背中を向けている。


ロイが鞄から水筒を取り出し、マットに渡す。


「おそらく唇と舌の粘膜から軽い痺れ成分が吸収されてるだ。いずれ痺れはなおると思うだが、一応うがいしとくとええだ。」


マットは水を手のひらに注ぎ、それで唇を洗った。


そして、指を使いながら水で口中を清浄した後、勢いよく水筒を傾けて数口流し込んだ。


「ロイ、ジンをくれ、ジンだ。」


つたない舌使いだが、一応しゃべれるようになったみたいだ。


「よかっただ。それだけしゃべれれば大丈夫だ。すぐになおるだよ。」


ロイはジンを渡す。


マットは、ゴクゴクとジンを喉に流し込む。


シカルは振り向いて何か言葉を発しようとしたが、マットのこんもりした股間部分が目に入ると、またしても背を向けて黙り込んでしまった。


マットは申し訳なさそうにロイに対して言う。


「すまんが、ちょっとここで待っていてくれ。あれな。ジンを飲んだからしょんべんがしたくなってな。あははは。」


そう言うと、松明片手に腰を少しかがめながら元来た道の方へとそそくさと消えてしまった。


「あまり遠くへ行くでねえぞ。また化け物が出てくるかもしれねえだからな。」


「了解了解!」




それから数分、時折ロイとマットの声のやりとりを挟みながら、やっとマットが戻ってきた。


「いやぁ、あはは。大きい方もすましてきたもんでちょっと遅くなった。あはははは。」


照れくさそうに頭を掻くマットの股間部分は、いくらか落ち着いたように見える。


「そうだか。良かっただな。じゃあ化け物に気をつけながら、地下3階へ行こう。」


ロイは折れた松明を修理し終え、剣を構えながら先頭に立って階段を降りる。


シカルはロイに続き、杖を構えていつでも炎を出す準備をしている。


マットは腹の中の熱さが股間に伝わるのを感じつつも、気を抜かずに杖を構える。


そして、長い階段を下り終えると、三人は地下3階の地を踏みしめた。

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