第9話 ゴルラン金貨を見つける
間もなく3人のパーティは、二つの分かれ道に着いた。
これまでも分かれ道はあったが、レールが進むべき道を示してくれていた。
しかし、今回はどちらの道にもレールが続いているのだ。
「こりゃまいったな。どちらか選ばなければならないぞ。」
マットは松明を掲げて奥を照らそうとするが、闇は闇のままである。
「ジェイコブたちが印を残してないかな?」
シカルの問いで、三人は地面や壁を調べる。
「なんか光ってるだ。」ロイが腰を屈めて近づく。
マットとシカルも近寄る。
「これはコインだ。金貨だ。」
左の道の地面に置かれていたのは、光沢鮮やかな金貨である。
見ると、ゴルラン国の伝説の王の横顔が刻印されている。
金貨の中でも最上級の、ゴルラン金貨と言われているものだ。
今では、すっかり金も掘りつくされてしまったゴルラン王国であるが、約五百年前までは、とめどなく採掘される金のおかげで、栄華を極めたものだった。
歴史ある国で、現在の王も伝説の王からの血を、二千年にも渡って受け継いでいる。
先にも述べたように、ガネル・グレイの姉がそのゴルラン王に嫁いでおり、グレイ家とゴルラン王家との関係は、非常に良好である。
しかし、ジーランド王国とゴルラン王国との関係はそうとも言えないのだ。
先の戦争においても、ゴルラン王国はジーランド王国からの参戦の要請を断っている。
その不仲の原因が、このゴルラン金貨にある。
今から約五百年前、ジーランド王国は、ゴルラン王国に医学の知識と引き換えに、ゴルラン最大の金鉱山での採掘権を求めた。
当時、南の国々で大流行していた黒死病は、ゴルラン王国にも襲い掛かり、甚大な数の死者を積み上げていたので、医学の発達しているジーランド王国からの申し出を、当時の国王は断りきれなかったのだ。
ジーランドの医者の助けにより死者は減り、ジーランドの薬によって黒死病の媒介となったネズミが徹底的に駆除された。
ジーランドはゴルランを危機から救ったのだが、途方もない報酬は、ゴルランの王と民を怒らせた。
ジーランドは、ゴルラン最大の金鉱山の金を掘りつくしたのだ。
ゴルランの怒りを少しでも静めようと、ジーランドはその金鉱山から採掘した金から金貨を作るときに、伝説のゴルラン王の横顔を刻印し、これをゴルラン金貨と名づけた。
純金のゴルラン金貨は、世界中で最も信頼される金貨となった。
しかし、金貨は1枚たりともゴルランには戻されなかった。
ゴルランの地は、ほとんどの金が掘りつくされ、栄華も去って行った。
ゴルラン王はジーランドへ恨みを抱くよりも、新たな道へ進む方を選んだ。
学術こそが金であるとし、他国から医学をはじめ、多くの知識を吸収し、若者を教育した。
そして、その成果が今のゴルラン王国を築いたのだ。
さて、その非常に価値あるゴルラン金貨が、今ロイの手によって拾われた。
「ゴルラン金貨だ。ジェイコブかユキが目印に残して置いたんだろうな。」マットが目を近づけて言う。
「どうするだか?こんな高価なもん。」
「お前が持っておけよ、ロイ。ジェイコブ達と再会したときに返せばいい。」
「そうだか。しかし、わしにはまだ金貨は早すぎるだよ。罰が当たらないか心配じゃ。」
「盗むわけじゃないし、後で返せばいいだけじゃん。」シカルは笑顔を見せてロイの大きな背中を叩く。
「そ、それじゃ、わしが大切に預かっておくだ。早くジェイコブたちに追いつこう。」ロイは背中の鞄にゴルラン金貨を仕舞込んだ。
「俺たちも、そのうちゴルラン金貨くらい手に入るさ。なんたってここの仕事の報酬は高いからな。」マットは先に進む。
「でも、報酬は銀貨だろうね。ジーランド銀貨だと50枚くらいでゴルラン金貨1枚と交換出来るはずだよ。」シカルもマットに続く。
「そうだか。50枚もいるだか。がんばって銀貨貯めていかねばだ。」
ロイが重い体を上げて、2人の後を追っていく。
そしてパーティは、富の象徴とも言える金貨の光によって、進むべき道を知り、迷いもなく歩んで行った。
するとすぐ大きな広間に出た。
ここも銀が多く採れたのであろう、天井が高く、左右の壁も広がった。
突然、レールに変化があった。
なんと、交差するもう1本のレールが現れたのだ。
2本のレールが交差しているところは、回転式になっており、自由にレールの向きを変えられる。
「さて、今度は何を置いているのだろうな。」
マットはレール付近の地面に頭を近づけて探す。
ロイとシカルもそれぞれ残り2本のレール付近で、松明の火を地面にかざす。
「また光っただ!」ロイの低いが興奮した声が響く。
「なんだとぉ?またしても金貨なのか?」マットの不満げな予感は的中する。
「同じだ。ゴルラン金貨だ。」ロイは金貨を手に取り、まじまじと見つめる。
「どっちだか知らねえが、ほんと金持ちだな。たぶんジェイコブの方だな。しかしまぁ、これだけ持ってりゃ、わざわざ命を懸けることもなかろうに。」あきれ気味にマットが言う。
「これまでに、生死を賭けて仕事をしてきたからこそ、命を懸けた仕事から足を洗えなくなるものなんだよ。
一種の依存みたいなもので、僕の仲間にもいたよ。」悲しいことでも思い出したのか、シカルの言葉には元気がない。
「そうかもな。やはりジェイコブだろうな。まぁいい、ロイ、それもお前が保管しておいてくれ。」マットはそう言うと、金貨の導きに従って再び歩き出した。
「この道が正しければいいが・・・」とマットが口に出すが早いか昇降機見えたのだ。
「なぁんだ。すぐ近くに地下3階への階段があったんだね。」呆気にとられたようにシカルが言う。
実はこの時、昇降機のある壁の高い位置に何者かが張り付いていたのである。
この者は、火を灯した3人の賑やかなパーティが近づくのを察すると、すぐに壁へとの登り、息を潜めて彼らを観察していたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます